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第64話 暗躍する火種

 エイデンの真相を知り、静かな怒りを胸に燃やすエリオット。

 だが、その決意の裏で、ふと別の疑念が頭をもたげた。


 ──アドルフ・オルデインを動かせるほどの人物など、そう多くはない。

 手を額に当て、深く考え込む。

 エリオットの脳裏に浮かんだのは、ひとりの男の顔だった。


 「イルガ大佐。

  ゼルドア元中将は、今どうしている?」


 突然の問いに戸惑いつつも、イルガは淡々と言葉を返す。


 「彼は今、先の大戦により軍籍を剥奪され、監視のもと自宅禁固となっています。」


 エリオットは鋭い視線で指示を飛ばす。

 「彼の動向に注意を払え。」


 イルガは目を見開いた。

 「それは……

  まさか、彼がアドルフ前元帥を……?」


 ゼルドア・オルデイン。

 亡き前元帥アドルフ・オルデインの兄──つまりハンスの叔父にあたる男。


 元帥の座を弟のアドルフに、大将の座を甥のハンスに譲り自ら裏方に徹した。

 しかし、その手腕は本物で、軍内での影響力は計り知れない。

 今思えば、むしろ裏で糸を引くために中将の座に甘んじていたとしても不思議ではない。


 「急ぎ、監視の目を増やし、動向に注視します……!」

 イルガは焦るように敬礼し、執務室を後にした。


 エリオットは深く息を吐き、拳を握りしめる。

 「宗教国家などに付け入る隙を与えていたとは……

  ──“世界を分つ大国”が聞いて呆れる……!」


 執務室に響くその声は、悔しさと情けなさを滲ませていた。


 イデアリンドの狂信者が帝国に入り込み、アドルフを唆し、エイデンを殺し、帝国を混乱へ導いた。

 そして、帝国軍元中将、ゼルドアがその背後にいる可能性。


 エリオットはすぐに決断した。

 「ハンスたちにも知らせねば……!」


 帝国軍にイデアリンドのスパイが紛れ込んでいたということは、他国にも紛れ込んでいる可能性が高い。

 そして、聖王国には救済者であるミアがいる──彼はその日のうちに、急ぎ聖王国へと使者を走らせた。



 一方の聖王国では──


 二つ目の神石を持ち帰ったアストたちは、遺跡で聞こえた声に従い“星の民の都”についての調査を進めていた。


 帝国から呼び寄せた学者、聖王国の神官たち、そしてアスト、レオン、リリア。

 広間の机には古文書や資料が山のように積まれ、皆がそれに齧りついていた。


 だが──


 「ティリス種がいたという事実すら最近知ったばかりなのに……

  歴史にもない滅びた種族の都なんて……情報がなさすぎる……」


 アストは嘆くように声を漏らした。


 「都というからにはそれなりの規模のはずだが……

  全くと言っていいほど……欠片も情報が出て来んな……」


 レオンも目頭を摘みながら同じように呟く。


 「数千年前のことだからな……

  遺っている各地の遺跡の方が奇跡と言えよう。」


 リリアも天を仰ぎ、さすがにお手上げだと言わんばかりだった。


 アストはふと広間の奥へ視線を送る──そこには、厳重に保管された二つの神石がある。

 それぞれ紫紺と深緑の光を淡く灯しながら、まるで迷う彼らを嘲笑うかのように輝いていた。


 「この状況も……何かの意図なのだろうか……」


 珍しくリリアが弱気な声を漏らす。

 アストは返す言葉を見つけられず、ただ視線を落とした。


 「もし何かの意図だとしたら……

  裏を返せば、必ず辿り着けるということだ。」


 レオンはそう言って微笑んだが、その表情にはわずかな焦りが滲んでいた。


 未だ姿を見せぬ“調停者”──

 その存在が、レオンの胸に拭いきれない不安の影を落としていた。



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