第62話 亡き民の都
深緑の間に満ちる光の脈動は徐々に静まりながら、やがて穏やかな揺らぎへと変わる。
草木は柔らかく揺れ、まるでこの場所そのものが呼吸しているかのようだった。
五人がそれぞれの想いを胸に抱く中──
どこからともなく、“あの声”が再び響く。
『それは星の要の一つである、“創環石”。
この星を育む自然の循環を司る星の片割れ。
星に選ばれし者よ──その要石を星核に捧げよ。』
春の風のように優しく、しかしどこか儚く響くその声は五人の胸を静かに揺らす。
「自然を司る要石……
つまり、短刀──いや、鍵に宿っていた力も同じということだな。」
リリアが険しい顔で呟くと、レオンは腕を組んで頷いた。
「鍵としての短刀であの力……
要石を“星核”に捧げたら、世界がどうなるのか……」
アストは黙ったまま、淡く光りながら浮かぶ創環石を見つめていた。
胸の奥がうわつくような説明のつかない不快さが広がり、その表情には違和感を滲ませて力が入る。
「……アスト?どうかしたのか?」
ルシアナが心配そうに首を傾げた。
「いや……少し気になって。
でもたぶん、僕の思い違いだ……」
アストが俯き視線を逸らした。
彼の迷いを察したのか、リリアが静かに声をかける。
「我々には、お前の知識や勘が頼りだ。
──気を遣わんでいい。言ってくれ。」
「は、はい……。えっと……
役割のある神、鍵、そして要石……
なんというか……“システム的”だな、と思ってしまって……」
「システムか……たしかにな。」
レオンは深く頷いた。
「どういうことだ?」
リリアが怪訝な表情で続きを促す。
アストは言葉を選びながら続けた。
「何かの仕組みの中で……動かされているような……
それこそ歯車のような……そんな嫌な感じがするんです。」
「我々の旅が、か?」
リリアの声がわずかに低くなる。
「ええ。というより……
我々、人類の歩んできた全てが……」
「“人類の歴史全て”がか!?
そんなことがあり得るのか……?」
アストの言葉にルシアナは目を見開いた。
「古代から今に至るまでの全てが……
何かの仕組みに過ぎないというのか……?」
そう言って眉間に皺を寄せるリリア。
ミアは不安げにアストを見つめる。
「そんな……
じゃあ私たちの出会いも……全部?」
「いや、そこまでは……
僕もそんなことないって信じたい。
少なくともミアやみんなとの出会いは、そんなものじゃないって信じてる。」
「……うん。」
ミアを見つめてアストがそう言うと、ミアは彼の言葉を噛み締めるように静かに頷いた。
二人の様子を見ていたリリアも、胸に抱く思いを吐き出すように力強く告げる。
「私も信じている。
我らの出会いは、我らの意志によるものだ。」
「でも……もし全てが仕組みだとしたら……
このまま導かれるままに動いていいのだろうか……」
ルシアナが胸の不安を声に出すと、アストは創環石を見つめて静かに言葉を返した。
「確かにその不安もある……
でも、何もしなければ世界は──
星は弱る一方だ。今はただ、進むしかない。」
彼の決意に満ちた言葉に、ルシアナはゆっくりと顔を上げて頷いた。
その時──
五人の耳に、再び“あの声”が響いた。
『選ばれし者よ。最後の要石を探しなさい。
──星の民の都があなたを待っています。』
その言葉を最後に声が途切れると、創環石がミアの手の中へふわりと降りた。
深緑の間に満ちていた光は静まり、草木は穏やかな揺らぎを取り戻す。
静寂を取り戻した深緑の間には、重なり合う葉の音だけが囁くように響いていた。
「星の民の都が待ってるって……
今はもう、遺っていないのに……?」
ミアが声を震わせてアストを見る。
「ああ。そのはずだけど……」
アストも眉間に皺を寄せて視線を落とした。
深緑の間を包む空気が、五人の胸に重くのしかかる。
その重さを振り払うように、リリアがそっと口を開いた。
「聖域に残った皆も心配するだろう。
ひとまず王都に戻り、落ち着いてからティリスの都について調べよう。」
リリアの提案に四人も頷き、五人は深緑の間を後にする。
先に進む四人の後ろでアストが深緑の間を振り返ると、そこには淡く輝く生命の光に満ちた美しい空間が広がっていた。
今は亡き星の民とその都──
迫っているはずの真実は、アストたちから遠ざかるようにその謎を深めていった。




