第57話 守るべきひととき
帝国の地下遺跡から“魔循石”を持ち帰った七人は、聖王国の大聖堂に集まっていた。
大聖堂の天井は彼らを見下ろし、光を受けた聖法紋が淡く静かに揺らめいている。
その中心に置かれた祭壇の上──
紫紺の光を宿した“魔循石”が、まるで呼吸をするかのように脈動していた。
その脈動は、どこか得体の知れないものが息づく鼓動のようにも感じられた。
「……これが、要石か……
改めて見ると、不気味な石だな……」
そう呟いたレオンは息を呑む。
「魔力の循環を司る星の要石……
鍵が二つあったことを考えると、他にもあるということだな……」
レオンは険しい表情で要石を見つめる。
リリアも腕を組み、静かに口を開いた。
「もう一つの鍵は“エルラドゥーム”……
つまり次の神石は、エルフにまつわる遺跡に眠っている可能性が高いな。」
「エルフの遺跡……」
アストは呟き、額を押さえて考え込む。
横にいたハンスが顎に手を当てて首を傾げ、そのまま率直な疑問を投げかけた。
「ドワーガ帝国の地下に最古の遺跡があったということは……
聖王国の地下にも同じようなものがあるんじゃないのか?」
リリアは少し驚いたように目を細めたが、すぐに得心がいったように頷いた。
「そんな話は聞いたことがないが……
この状況では、ありえない話ではないな。
……ちょうどいい。一度“聖域”を調べてみるか。」
「聖域……?
そんな場所があるんですか?」
アストが興味深そうに身を乗り出す。
リリアは頷き、話を続けた。
「ああ。聖王家が代々、聖王に即位する際に祈りを捧げる最古の遺跡だ。
ミアの“聖王即位の祈り”も本来ならそこで行う。この機会に、皆で訪れてみよう。」
「そうですね。
ミアの聖王即位式もまだですし。」
ルシアナも続けて頷いた。
その言葉に、カンナが遠慮がちに口を開く。
「あの……そんな神聖な場所……
私たち帝国の人間が足を踏み入れても、問題はないのでしょうか……?」
カンナの問いに、リリアは目を丸くした。
そして、彼女に向けて柔らかい声で告げた。
「もちろんだ。我々は世界を──
星を救うべく、志を共にする仲間だからな。
立場など些細なことだ。遠慮しないでくれ。」
リリアはカンナへ向き直り、優しく微笑む。
その瞳は、カンナに対する揺るぎない敬意を宿していた。
彼女の屈託のない言葉に、カンナは胸に手を当て、涙を堪えて微笑んだ。
「仲間……か。」
レオンが目頭を押さえて笑みを浮かべる。
「はははっ!神官長殿は器が違うな!」
ハンスは腕を組むと、豪快な笑顔を見せた。
ルシアナも深く頷く。
「当然です。」
そんな温かい空気の中──
ミアだけは、戸惑ったように声を漏らした。
「私、聖王になったんだよね……
なんか……全然実感が湧かないよ……」
その声には、重責に対する不安が滲んでいた。
アストは笑顔を浮かべ、ミアの頭をそっと撫でる。
「あはは。大丈夫だよ。
こんなに可愛い聖王様は、歴代で初めてなんじゃないかな?」
「ちょ、ちょっとアスト……!」
ミアが頬を赤らめると、リリアもふわりと笑った。
「ははは。そうだな。
こんなに守ってやりたくなる聖王様は、史上初だろう。」
「もう!二人してからかわないでよ!」
頬を膨らませるミアは、まるで蒸したパンのような輪郭をしている。
そんなやり取りを見て、皆が優しい笑顔に包まれた。
その光景を見つめるアストの胸には、穏やかな温もりが広がっていた。
孤独な旅をしていた頃は、自分がこんな風に笑い合える日が来るなんて思っていなかった。
ささやかな幸せの時間──
仲間と過ごすこの時間と、ミアの未来を守ってみせる。
改めて抱いたそんな想いが、アストの背中を押してくれていた。




