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第54話 ドワーフの祖

 扉を前に、立ち竦むレオンと調査隊。


 岩でありながら黒鉄のような存在感を放ち、表面には無数の古代文字が刻まれている。

 まるで外敵から身を守る生き物のように、近づく者を拒んでいた。


 「ここから……

  帝国の地下空間へ行けるはずだ……」


 レオンが呟いた声が、石壁に反響して消える。

 他の隊員たちは、その威圧感に息を呑んだ。

 だが、それでも踏み出す彼らの瞳には、恐怖よりも好奇心が宿っている。


 「よし、開けてくれ……」


 「はい……」

 「……いくぞ……!」


 レオンの指示で、帝国の重装兵数人が義肢から魔蒸気を噴き上げながら、扉をゆっくりと押し込む。

 数千年ぶりであろう岩の擦れる音が重苦しく響き、扉がゆっくりと開き始めた。


 扉の隙間から冷たい風が吹き抜ける。

 それはまるで、閉ざされた空間が生気を吸い上げるような不気味な気配を帯びていた。


 「……っ……!

  なんか……いやな空気だな……」

  

 調査隊の一人が上着の襟を握り、身震いする。

 レオンは深呼吸し、暗がりの奥を睨むと魔力灯を掲げながら中へ足を踏み入れた。


 「……行こう。」


 そこには、先を見通せないほど長い通路が続いていた。

 通路の壁面には、様々な古代の壁画と文字が刻まれている。


 「これは……」

 レオンは目を細め、壁画に近づく。


 そこに描かれていたのは、一般的な遺跡で見られる、“調停者”や“混沌”、“破壊”といったものではない。

 代わりに多く描かれていたのは、古代のドワーフたちの姿や営みに関するものだった。


 石を砕き、鉄を鍛え、巨大な炉を囲む者たち。

 屈強な肉体で描かれる彼らの表情は誇り高く、槌を振るう様は力強い。


 「……これは……古代のドワーフたちか?」


 レオンはそう呟くと、壁画の下に刻まれた古代文字を読み解き始めた。


 『我ら誇り高きドワーフの民

  ──我らは石と鉄を操る者。』


 だが、記述を見る限りその時代には“科学”も“魔導学”も存在しない。

 確かに高度ではあるが、あくまで“石器”や“鉄器”を造り出す技術に留まっていた。


 レオンは壁画を指でなぞりながら、怪訝な顔で呟く。


 「……ここから魔導学へ繋がり得るのか?

  いつから、文明は急激に発展した……?」


 壁画の時代背景から見ても、その時代が異様に長く続いている。

 そこから現在の高度な科学技術や魔導学へ至るには、あまりにも急激すぎる進化だ。


 「何か、きっかけが……」


 レオンは壁画に目を凝らして呟いた。

 時間はかかるが、全員で読み解きながら通路を進んでいく。


 しばらく進んだ頃だった──

 通路の少し奥から、レオンたちを呼ぶ仲間の声が響く。


 「レオンさん、突き当たりです!

  ──恐らく、地下遺跡の入り口かと……!」


 レオンは目を見開き、慌てて駆け寄る。

 そこには、三メートル程はあろうかという巨大な扉が行く手を阻むように佇んでいた。


 先ほどの扉よりも遥かに古く、触れてはならない“何か”を守るような威圧感を放っている。

 さらには、扉の奥からこちらを見定めているような、不快な気配を滲ませていた。


 レオンがふと扉の中央に目をやると、見覚えのある“窪み”があった。


 「……これは……!」


 その見慣れた形に息を呑むレオン。

 それは、まさしくアストが持つ“短刀”の形に他ならない。

 あの武器らしからぬ溝の正体は、やはり鍵で間違いなかった。


 「やはり……!

  ここに、あの鍵が守る何かがあるんだ!」


 そう声を上げたレオンは興奮のあまり、つい不用意に窪みに手を触れてしまう。


 その瞬間──


 周囲の空気が震え、頭の奥に直接声が響いた。

 それは、聞こえるというより刻み込まれるような気味の悪さがあった。


 『選ばれし者が訪れよ。

  ──さすれば鍵を受け入れよう。』


 「……なっ!?誰だ……!」


 レオンは周囲を見回すが、誰もいない。

 そして次の瞬間、その場の全員の視界がぐにゃりと歪んだ。


 「な、なんだ……!?」

 「視界が……!」

 「……っ……きもち、わるい……」


 調査隊たちが叫ぶ間もなく、目の前が暗闇に染まる。

 身体の感覚はあるが、地に足のつかない不快な浮遊感だけが伝わってくる。


 そして──


 彼らの足裏に地を踏む感触が戻り、その視界には眩い光も戻る。

 なんと彼らは、地下遺跡への通路があった遺跡の外に立っていた。


 「ここは……?」

 「……遺跡の、外……?なぜ……」

 「……どういうことだ……?」


 調査隊は皆、唖然として言葉を失う。

 レオンは静かに拳を握りしめた。


 「……“選ばれし者”……

  つまり、我々では扉を開けられないということか……」


 彼は深呼吸し、まだ少し揺らぐ視界を確かめながら調査隊に向き直る。


 「君たちは帝国に戻り、調査結果の整理と報告を頼む。

  すまんが、私は急ぎ聖王国へ向かう。

  この扉について、アストたちに伝えなければ……」


 レオンは騎乗艇に跨り、帝国軍の護衛を一人連れて遺跡を後にした。

 だが、“選ばれし者”というあの言葉が、彼の中に僅かな“焦燥”を芽生えさせた。


 「ミアは──救済者は現れた。

  しかし、調停者は現れていない……

  私たちは、何か見落としているのか……?」


 伝承に語られるのは二人のはず──

 脳裏を掠め、レオンの中に広がる疑念は、急ぎ走る彼の胸に影を落としていた。



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