↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/135

第52話 新生聖王国

 城下を黒く埋め尽くす民衆たち。

 高楼を見上げる彼らの視線の先には、聖王国を守り続けてきたリリアの姿があった。


 民衆を見据えて立つリリアの翡翠の瞳は、月光が反射して煌めいている。

 そこには揺るぎない意志と、聖王国の未来を背負う覚悟が宿っていた。


 「……すっ……ふう……」


 リリアはそっと目を閉じて深く息を吸い、ゆっくり吐き出すと静かに口を開いた。


 「私はエルフェリア聖王国神官長──

  リリア・ドゥラド・ルベリオスである。

  今ここに、聖王国の──

  我々エルフの民が背負ってきた真実を語る。

  そのすべてに偽りはないと、この命に賭けて誓おう。」


 その声は澄み渡り、民衆一人一人の耳に語りかけるようだった。

 彼らは息を呑んでリリアに釘付けとなり、誰もが次の言葉を待ち望んだ。


 静寂に包まれる城下──

 リリアはその手に禁書を掲げ、ゆっくりと語り始めた。


 聖王家血統の断絶。

 聖王国五大貴人家の成り立ち。

 ゴルドハート家の謀反。

 新聖王の擁立。

 そして、“今後の聖王国について“──


 「王の血統断絶は、真実だったのか……!」

 「……我々が、略奪者……?」

 「あんな女の子が、聖王になるのか……?」


 広場にはざわめきがゆっくりと広がる。

 不安、動揺、怒り、困惑──

 顔を見合わせる民衆の間には、様々な感情が渦巻いていた。


 その感情を一身に受けながらもリリアは怯まず、拳に力を込め、堂々とした声を響かせる。


 「“救済者”であるミア……彼女は神に等しい存在だ。

  神の加護を授かる聖王として、これ以上相応しい者はいまい。」


 隣に立つミアは、胸に手を添えて肩を震わせていた。

 だが彼女の瞳に灯る光と、信じてくれたリリアへの想いが色褪せることはない。


 「これまで聖王国を支えてきたのは、他でもないあなたたちだ。

  貴人も……聖王でさえも、我々はただの道標に過ぎない。

  だが、いつしか特権は形骸化し、本来の意味を失ってしまった。」


 リリアは胸で拳を握り、力強く宣言した。


 「今ここに古き時代を廃し、あなたたちの誇りと力を貸して欲しい。

  私は聖王代理として、あなたたちと共に新たな聖王国を築く。

  これからの未来を、我らが一人一人の手で守り、そして育むのだ!」


 その瞬間──

 広場に静寂が落ちた。


 そして、一人の民が叫んだ。

 「リリア様──!」


 続いて、別の声が上がる。


 「私はリリア様を信じる!」

 「新しい聖王国を……頼む!」

 「ミア様!リリア様!……万歳!!」


 やがて、広場は歓声に包まれた。

 民衆の羨望が、高楼にいる四人に注がれる。

 リリアの名を呼ぶ声、ミアを称える声が次々と響き渡る。


 ミアは恥ずかしそうに手を振り応えた。

 その後ろでは、アストとハンスがその姿を誇らしげに見つめていた。


 孤児院で悲しげな表情を浮かべていた少女。

 突然の運命に翻弄され、怯えていた少女。


 そんな彼女が──

 この日、この瞬間、大国の未来を導く存在となった。


 しばらく民衆の声に応えたリリアたちは、ゆっくりと高楼の広間へと戻った。


 「よくやったぞ、ミア。」


 「……う、うん。緊張したぁ……」


 そう言って深く息を吐き、ミアは胸をそっと撫で下ろして安堵の表情を浮かべていた。


 だが──


 誰もが気を緩めていた、その時だった。

 広間の隅に揺らぐ影が、皆の隙間を縫うように鋭く駆け抜ける。


 「──ッ!?」


 リリアが気づく間もなく──

 影は彼女の懐に滑り込み、鋭い刃がその身に迫る。


 「リリアさん──ッ!」


 アストが叫び、咄嗟にリリアを突き飛ばした。

 凶刃は容赦なくアストの身に突き刺さり、滲む血が服の空白を赤く染めていく。


 「アストッ!?」


 リリアの叫声が広間に響く。

 アストはそのまま、脇腹を押さえ込んで床に崩れ落ちた。


 「くっそ……!」


 レイナードが瞬時に動き、襲撃者の腕を捻り上げて床に組み伏せる。


 「貴様あああッ……!」


 ルシアナは倒れた男に剣を突き立て、怒りを露わにした。

 ハンスは男の前にしゃがみ、鼻に皺を寄せて男の頭を掴んだ。


 「悪足掻きしおってッ!」


 「いや……いやだよ!

  アスト……しっかりして!」


 ミアが泣きながら駆け寄り、アストの手に自分の手を重ねる。

 だが必死に傷口を押さえても、彼女の手まで染める血は止まらない。


 その瞬間──


 ミアの声に呼応するように、額の紋章は力強い蒼白の光を放ち始めた。

 そして、その光は二人を優しく包み込むと、アストの傷を瞬く間に癒していく。


 「こ、これは……!」

 リリアは、その輝きを前に目を見開いた。


 「これが……救済者の力……」

 アローナは眉を寄せ、その奇跡に驚愕する。

 

 しかし、流れ出た血が多過ぎた。

 傷は癒えても、アストの容体が一刻を争うことに変わりはない。


 「早く治療が行える場所へ!」


 カンナが声を上げると、周囲の騎士たちが急ぎアストを運び出す準備をする。

 広間は一瞬で混乱に包まれ、リリアは震える手でアストの頬に触れた。


 「アスト……!

  頼む、目を開けてくれ……!」


 その声は、リリアのものとは思えない程に震えていた。

 そんな彼女を気遣うように、アストは薄く目を開けて弱々しく微笑んだ。


 「……だい、じょうぶ……です……

  あなたが……無事、なら……………」


 その言葉に、リリアの瞳が涙で滲む。

 しかし、彼は再び目を閉じてしまう。


 「お願い……死んじゃダメ!

  どこにも行かないで!そばにいて……」


 泣きながら、祈るように声を漏らすミア。

 二人を包む蒼白の光が輝きを強め、アストの命を微かに繋ぎ止めている。


 広間に響くのは、仲間たちの叫びとアストの浅い呼吸だけだった──



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。