第49話 表と裏
聖王城へと続く大路に辿り着いた瞬間──
リリア、ルシアナ、レイナードの三人は思わず足を止めた。
そこに広がっていたのは、彼らが知る“聖王国の光景“ではなかった。
民衆は烏合の衆と化し、怒号と悲鳴が入り混じっている。
城下の品格は見る影もなく、混乱の渦が覆い尽くしていた。
広場には火の手こそ上がっていないものの、人々の動揺は街そのものを揺らすほどに膨れ上がっている。
そして、城の周辺を固めていたのは──
黒い外套をまとった暗聖裁派の使徒たち。
「……やられたね。」
レイナードが低く呟く。
イネルバと禁書は餌だった。
それによって聖法騎士団の主力を城外へ誘い出し、手薄になった城下を一気に掌握したのだ。
リリアは歯を食いしばり、拳を握りしめた。
そして、城を見上げ鋭い視線を向ける。
「アルベド……!」
城下を見渡す城の高楼──
そこに、禁書を手に民衆を見下ろすアルベドの姿があった。
彼は淡紅の髪と紫紺の瞳を湛え、城下を嘲笑うように佇んでいた。
その足元には、拘束され膝を折られた聖王──エメルディオ・ドゥラド・ザーグ・エルフェリアが伏している。
民衆はその姿に怯え、ざわめき、しかしアルベドの言葉に縋るように耳を傾けていた。
「……聖王様に、何という恥辱を……」
ルシアナが悔しげに呟く。
その横で、リリアは目を凝らし眉をひそめた。
「……何かおかしい。」
「どうした、リリア?」
レイナードが問いかける。
リリアは、アルベドの立ち姿や声の響き、そして禁書を掲げるその手先まで凝視した──
そして、彼女はある“違和感”に気づいた。
「……レイナード。
この場の指揮は任せるぞ。」
リリアの言葉に、レイナードは一瞬戸惑いを見せるが、すぐに何かを察し頷いた。
「了解。そちらは頼んだよ。」
レイナードの言葉に深く頷くリリア。
彼女は一人、裏路地へと姿を消した。
レイナードとルシアナは、すぐさま周囲の騎士たちに指示を飛ばす。
「民衆の沈静化を最優先!
怪我人を避難させ、広場から遠ざけろ!」
「暗聖裁派の使徒は私たちが抑える!
お前たちはその身をもって民を守れ!」
聖法騎士たちは即座に動く。
混乱する民衆を誘導し、暗聖裁派の使徒たちと対峙した。
レイナードとルシアナは数人の騎士を連れ、城門へと突入する。
「行くぞ……!」
ルシアナが構えを取る。
城門を固める暗聖裁派の使徒たちも、すでに迎撃の構えを取っていた。
彼らは黒い刃を手に一斉に襲いかかる。
──だが。
「退けッ!!」
レイナードの叫びとともに、聖嵐の籠手が眩い光を放つ。
瞬間──風が強靭な刃を無数に成し、まるで五月雨のごとく使徒たちを切り飛ばした。
続けてルシアナは聖炎の籠手を掲げ、灼熱を帯びた焔の剣を顕現させた。
そして、押し迫る敵を焼き払うように薙ぎ払っていく。
「民を惑わす者は、私たちが許さん!」
鍛え上げられた聖法騎士たちも、二人に触発され奮闘する。
多勢に無勢かと思われた状況を覆すほどの強さを見せた。
彼らは“守るために戦う者”。
その誇りを胸に、暗聖裁派の使徒たちを次々と押し返していく。
その姿はまさしく──
聖王国の“守護者“そのものだった。
城門前での戦いが激しさを増す中、民衆の目にその姿は焼き付けられる。
彼らは一人、また一人と落ち着きを取り戻していった。
「あれは……聖法騎士団だ!」
「レイナード様だ……!
「ルシアナ様も戦っておられる!」
「暗聖裁派などに負けるものか!」
民衆の動揺は徐々に収まりを見せ始めた。
騎士たちの指示に従い、避難を始める者が増えていく。
混乱はまだ完全には収まらない。
だが、聖王国を──
民の平穏を守る者たちの力が、ゆっくりと、しかし確かに民衆の心を取り戻しつつあった。
その一方で、リリアはこの反乱の“裏”へと潜り込む。
表で繰り広げられる動乱の最中、“ある場所“へ急ぎ駆けていた。
表と裏──
それぞれの戦いが、静かに、しかし確実に動き始めていた。




