第46話 聖王国の真相
リリアと共に、アストたちは彼女の執務室へと入った。
重厚な扉が閉じられると、外の喧騒は完全に遮断され、室内には静寂が満ちる。
リリアは机の前に立ち、深く息を吐いた。
その表情は、これまで見せたどの表情よりも重く、そして険しい。
「……話す前に断っておく。
今から語ることは、聖王国の根幹に関わる。
外部に漏れれば、国が揺らぐほどの内容だ。
……この状況──そして、お前たちだから話すと心得てくれ。」
アストたちは自然と背筋を伸ばした。
レイナードでさえ、軽口を封じて真剣な眼差しを向けている。
リリアは静かに口を開いた。
「まずは……我々の“始まり”について話そう。」
そして、淡々と語り始めた。
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時は約六千年前に遡る。
聖王家と聖王国貴人五家──
その祖となる六人のエルフ種は、ある“知恵深き民”と出会った。
その民は、星の理を読み解き、聖導学の根幹となる“魔術の基礎“を築いた者たち。
エルフたちは彼らを“神”として崇め、その知識を授かり、文明を発展させていった。
しかし──
千年ほどの時が経つと、力をつけたエルフたちは傲慢になった。
自らが“神に代わる偉大な種”だと錯覚し、やがて“神”と崇めたはずの“知恵深き民”を見下すようになった。
そしてついには──
彼ら“知恵深き民“を滅ぼしてしまった。
その知恵深き民こそが、“ティリス”。
星の理を読み解き、魔術の根幹を理解し、豊かな文明を導いた“星の民”。
神と崇めた時代のエルフたちは、“ティリス”の女性を妻に迎えることで血を取り込んだ。
その末裔がのちの“聖王家”である。
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リリアは語り終えると、静かに目を閉じた。
「……“ティリス”とは“星の民”という意味だ。
つまり、我々は神の使徒でもなんでもない。
ティリスという知恵深き民から知識を奪い、挙句の果てに滅ぼした──浅ましい略奪者に過ぎんのだ。」
室内の空気が重く沈んだ。
アストは言葉を失い、ミアは胸元をぎゅっと握りしめた。
ルシアナとカンナも顔を強張らせ、ハンスやレイナードでさえ驚愕を隠せない。
「それは……
俺、聞いちゃってよかったのかい……?」
レイナードが戸惑いながら呟く。
リリアは静かに頷いた。
「構わん。いずれ話すつもりだった。
お前は軽口の絶えない男だが、騎士としては信頼している。」
頭を軽く掻くレイナード。
その横で、アストは恐る恐る尋ねた。
「その……今のお話は……
何か文献が残っているんですか?」
リリアは首を横に振った。
「形に遺るものは何もない。
我らルベリオス家当主が代々受け継ぐ“口伝”だ。
証拠がない以上、聖王家も他の四家も認めはせんだろう。」
沈黙が落ちた。
誰もが、歴史の裏に隠された罪の重さを噛みしめていた。
「……まてよ……」
その沈黙を破ったのは、リリアだった。
リリアは机の引き出しを開け、古びた鍵を取り出す。
そこには強固な封印を思わせる聖紋が刻まれていた。
「ルベリオス家には、当主ですら開くことを許されない“禁書”がある。
……代々守り続けてきた、最も古い書物だ。」
アストたちは息を呑んだ。
「もしかしたら……
そこに、ティリスや世界の根幹に関わる何かが書かれているかもしれん。」
レイナードが眉をひそめる。
「いや、でも……読んでしまっていいのかい?
歴代の当主たちが、代々守ってきた禁書だろ?」
リリアは険しい表情で答えた。
「仕方あるまい。
世界が滅んでは、守るも何も無意味だ。」
その言葉に、誰も反論できなかった。
アストたちは互いに視線を交わし、静かに頷いた。
これから向かうのは、聖王国の闇──
いや、世界の真実そのものかもしれない。
その場の誰もが、静かに覚悟を固めていた。
その裏で──
厳かな静けさを湛えるルベリオス家の屋敷。
そこに、誰にも気づかれぬまま、怪しい影が蠢いていた。
禁書が眠る地下書庫へと続く階段。
黒い影が、ゆっくりと歩みを進める。
その影の主は、復讐に魂を蝕まれ、深い闇に唆された“イネルバ“だった。




