第43話 再びの邂逅
レオンの家を後にしたアストたち。
物資の補給をしていたルシアナとカンナに合流し、古代文字の件を説明した。
「そうだな。
リリア様なら、何かご存知かもしれん。」
「そ、そんなすごい方と……」
ルシアナは深く頷く。
その横で、カンナはレオンと同様に、驚きを隠せず目を見開いていた。
翌朝になり、五人は準備を整えると急ぎ聖王国へ向かった。
──そして、その翌日。
聖王国の白い城壁が見えてくると、アストの胸は自然と高鳴った。
門前には、すでに数名の聖法騎士が整然と並び立っている。
その中心には──
神官長リリアが、静かに彼らを待っていた。
相変わらずの冷美な立ち姿。
白銀の髪が風に揺れ、凛とした横顔はまるで彫像のように美しい。
アストは思わず見惚れてしまい、隣でミアがむくれたように袖を引っ張った。
「……アスト、見すぎ。」
「え……?あッ!いや……!」
その様子を見て、リリアはほんのわずかに口元を緩めた。
「ふふ……相変わらず仲が良いな。
さあ、ついて来い。執務室で話を聞こう。」
彼女に案内され、一行は聖王国の中心部にある聖法騎士庁舎の執務室へと向かった。
執務室に着くと、アストたちはこれまでの経緯を順に説明した。
遺跡での出来事、短刀の発見、そしてレオンの推測──
アストが短刀を取り出すと、リリアは静かにそれを手に取る。
彼女は、刃に刻まれた紋様をじっと見つめた。
「これは……
──古の星法紋、だな。」
「星法紋……?」
アストは聞きなれない言葉に首を傾げる。
「この聖王国周辺では、聖導学が発達していることは知っているな?」
リリアの問いに、アストは静かに頷いた。
「ええ。確か……
大気魔力を動力源に変える魔導学とは違って、魔術を扱いやすくするための技術……でしたよね?」
「そうだ。
我々の聖導学は、聖紋や聖石に予め指向性を記憶させ、詠唱を破棄して魔術を行使する。
現代の聖導学とは、この星法紋を簡略化し、体系化したものだ。
聖王家や貴人五家といった一部の者しか知らんがな。」
リリアが語る聖導学と古代の繋がり。
アストは、驚きと同時に高鳴る胸の熱を感じた。
「星法紋は、星の力に通ずる紋様だという言い伝えもあるが……
これほど鮮明なものを見るのは……私も初めてだ。」
「星の力……」
リリアのその言葉に、アストは低く呟く。
そして、その場の誰もが息を呑んだ。
「詳しく調べる必要がある──
聖紋に精通した神官たちに見せたいのだが、構わんか?」
「ええ。もちろんです。」
アストが頷くと、リリアの案内で一行は大聖堂へ向かった。
大聖堂に着くと、神官たちは短刀を見るなり目を輝かせ、すぐに調査に取り掛かった。
その場は彼らに任せ、リリアはアストたちと少し離れた場所で談笑を始めた。
「しかし、お前も随分と逞しくなったものだな。
──旅の前とはまるで別人だ。」
その言葉に、アストは照れくさそうに軽く頭を掻いた。
「そ、そうですか……?
ずっと、ミアを守ることで頭がいっぱいで……ははっ。」
「ふむ……。」
リリアはアストをじっと見つめた。
その視線は冷たいようで、どこか温かさも宿している。
彼女はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「私は、お前のような男を好む。
生まれも立場も関係なく、意志を貫く男がな。
初見の場で、この私に啖呵を切ったのはお前が初めてだ。」
アストはよく理解できないまま頷く。
「あ……ありがとう、ございます……?」
リリアは、アスト反応を楽しむように言葉を続けた。
「お前が意思を貫く時、寄り添う矛があれば心強かろう。」
「え、えっと……?」
アストは、不思議そうに首を傾げる。
「おいおい……まさか……」
ハンスは何かを察した様子で苦笑した。
そして──
リリアはとんでもない事を口にした。
「どうだ、アスト──
私の元に婿に来る気はないか?
残念だが、私は嫁には行けぬのでな。」
──その場の空気は瞬時に凍りついた。
アストは目を見開き、声にならない声を漏らした。
「えっ……な、ななな……っ!?
と、と、突然なんてこと言うんですか!!?」
リリアは楽しそうに笑った。
「はははっ。そんなに慌てるな。
なにもすぐにというわけではない。
旅の終わりに、お前を待つ女がいるとでも思っておけばいい。」
アストは真っ赤に染まっていく。
それを見たミアは──
なんとも言えない複雑な表情でアストとリリアを交互に見つめていた。
「……アスト……。」
その声は小さく、どこか拗ねた響きを帯びている。
アストは慌ててミアの方へ向き直った。
「ち、違うんだミア!
リリアさんも冗談にしては!──」
「冗談とは言っていないぞ?」
リリアがさらりと追い打ちをかける。
「はははっ!さすがの俺も驚いたぞ!
旅の終わりに楽しみが出来たな、アスト!」
「やめてくださいリリアさん!!
ハンスもからかわないでくださいよ!」
ハンスの豪快な笑いとアストの悲鳴のような声が大聖堂に響く。
神官たちは、皆こちらを見て唖然と目を見開いていた。
ミアは頬を膨らませて俯く。
そして、アストの袖をぎゅっと掴み呟いた。
「……アストは、私の……」
その小さな呟きに、アストは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
そんな二人を見て、満足げに微笑むリリア。
その穏やかな空気の裏──大聖堂の奥では、短刀の調査が静かに進んでいたのだった。




