第42話 短刀の謎
レオンの家に灯る明かりは、夕暮れの街にぽつりと浮かぶ小さな灯火のようだった。
アストとレオンは居間の机に短刀と資料を広げ、すでに調査に没頭している。
一方、ハンスとミアは台所で、妻アリアの手伝いをしていた。
「あなたが……私の命の恩人さんね。」
アリアはふわりと微笑み、ミアの手をそっと包んだ。
「ありがとう。本当に……
あなたのおかげで、私はこうして元気でいられるのよ。」
ミアは目を伏せ、小さく首を振った。
「ううん……私はただ、願っただけ……。
それより……私のこと、怖くないの?」
その声はかすかに震えていた。
アリアは驚いたように目を丸くし、すぐに優しく微笑んだ。
「怖がる……?とんでもないわ。」
彼女はミアの頭をそっと撫でた。
「だって、あなたがいなければ……
今私は、ここに立っていない……
私にとっては、可愛いらしい女神様だわ。」
ミアは顔を上げ目を見開いた。
その瞳を涙で揺らし、アリアをじっと見つめた。
「……そっか。私……役に立てたんだね。」
アリアはミアの手を握り、柔らかく笑った。
「ねぇ、ミアちゃん。あなたさえよければ……
私のこと、本当のお祖母ちゃんだと思ってちょうだい。」
その言葉に、ミアの胸がじんわりと温かくなる。
涙をこぼしながら頷くミアを、アリアはそっと抱きしめた。
「優しそうな祖母ができてよかったな、ミア!」
その光景を見て、ハンスは豪快に笑った。
ミアは照れながらも、アリアの胸に顔を埋めた。
──その頃。
アストとレオンは、机に広げた資料を前に頭を抱えていた。
「……やはり、鍵であることは間違いなさそうだが……。」
レオンは短刀に刻まれた模様を指でなぞる。
「この古代文字は……聖紋に似ているが──
通常の聖紋とはどこか違う……解読が難しい。」
アストも眉を寄せた。
「遺跡の壁画とも一致しないし……
同じ時代の古代語とも若干違うな……。」
レオンは分厚い資料をめくりながら唸った。
「聖紋に似た古代文字、か……
聖紋といえば、聖王国のルベリオス家が深く精通しているそうだが……
聖王家に続く高貴な家だ……そう簡単に会えるものでもないしな……」
アストは、レオンの口からその家名が出たことに驚く。
そして、少し気まずそうに口を開いた。
「えっと……レオンさん。実は……」
これまでの出来事────
ルベリオス家当主リリアとの出会い、そして彼女との奇妙な縁を、アストは簡潔に説明した。
レオンは目を見開き、椅子から立ち上がりそうな勢いで叫んだ。
「な、なんてことだ……!
あのルベリオス家のご当主と……!?
聖王国貴人五家の中でも、最も格式が高いとされる大貴族だぞ……!」
アストは苦笑した。
「まぁ……色々あって……。」
レオンは興奮を抑えきれない様子で短刀を持ち上げた。
「それなら話は早い!
ルベリオス家は古来より聖紋のエキスパートだ。
この古代の聖紋も、解読できるかもしれない!」
その声には確かな希望が宿っていた。
アストは頷き、短刀を丁寧に包んだ。
「早速、聖王国へ行ってみます。
リリアさんにも近況を伝えたいし。」
レオンは深く頷いた。
「頼んだぞ、アスト。
もし解読出来れば……
大きく一歩、世界の謎に迫ることができるはずだ。」
アストは短刀を見つめた──
刃に刻まれた溝と柄の聖紋が、夕暮れの光に照らされている。
それはまるで、彼らを導くかのように淡く輝いていた。




