第38話 もう一つの鍵
アストとルシアナは、守護者が佇む部屋の探索を終え、再び石像に向き合っていた。
厳かでありながら、どこか荒々しいその雰囲気は、何度見ても畏怖を抱いてしまう。
アストは、石像を見上げて呟いた。
「恐らく、この中にも短刀がある……
ミアが触れれば、また崩れるかもしれない。」
ミアは息を呑む。
エルフェリオンの遺跡での経験が脳裏をよぎる。
「……触るね。」
ミアは恐る恐る、そっと手を伸ばした。
すると、彼女の紋章と石像の紋章が、互いを確認するように淡く輝き始めた。
『役目を……果たしなさい……』
ミアの脳裏に、エルフェリオンの守護者とは違った、力強い声が響いてくる。
「また……声が聞こえた……」
ミアは、戸惑いながらも耳を傾けた。
それと同時に、互いの紋章は脈動するように明滅し、やがて石像の額にヒビが走った。
ヒビがゆっくりと全身に広がると、静かに、役目を終えるように石像は崩れ始める。
音が収まり、石像は瓦礫の山と化した。
三人は、崩れ落ちた瓦礫の中心に目を凝らす。
「やはり、何かあるな。」
ルシアナが静かに呟く。
「ああ。確認しよう。」
アストはそっと手を伸ばした。
瓦礫から、慎重に短刀を拾い上げる。
柄には古代文字が彫られ、鈍く光る銀色の刃には不可思議な溝が刻まれている。
「やっぱり……
エルフェリオンの短刀と同じだ。」
ミアが横から覗き込む。
「これも……やっぱり鍵なのかな?
古代文字も……聖法紋にそっくり……」
アストは短刀を握りしめた。
胸の奥がざわつき、この短刀が“真実へ導いてくれる”と、そんな期待が込み上げてくる。
これは、救済者と調停者に関わる何かを、それぞれが封じているのではないか──
そんな確信にも似た予感が、アストの胸を高鳴らせた。
「よし、すぐにここを出るぞ!」
ルシアナが鋭く声を上げる。
アストが短刀を手にすると、部屋の壁は震え出し、遺跡全体が低い唸りを上げ始めた。
「急げ!」
ルシアナが声を上げる。
「いくぞ、ミア!」
「うん……!」
アストはミアの手を取ると、踵を返し、部屋の入り口へ走った。
壁が震え、天井から砂塵が降り注ぐ。
遺跡そのものが、“役目を終えた”と告げるように崩壊し始めていた。
壁面にはどんどん亀裂が刻まれていく。
足元がぐらつき、視界が揺らぐ。
だが三人は迷わず、出口を目指して走り続けた。
そして──
暗がりに差し込む眩しい光。
出口には、ハンスとカンナが待ち構えていた。
二人は、いつでも助けに入れるよう準備をしてくれていた。
「無事か!」
「手を……!」
ハンスとカンナが駆け寄る。
「……はい!」
「うん!」
アストとミアが飛び出した。
「ええ……なんとか。」
ルシアナが息を整えながら答える。
五人は互いの無事を確認し合う。
その背後では、古代の残滓が静かに瓦礫へと還っていく。
「みなさん、怪我は……
なさそうですね!よかった!」
カンナは、救護セットを片手に微笑んだ。
「ああ、大丈夫……
はぁ、はぁ……ありがとう、カンナ。」
アストは息を切らしながら彼女に礼を言うと、握った短刀に再び目を向けた。
短刀の古代文字は、光に照らされて淡く輝いている。
神聖さを纏うその姿は、人が造ったものとは思えなかった。
「二つ目の鍵……か。」
独り言のように呟くアスト。
ミアが少し怯えた様子で言う。
「役目を果たしなさいって……聞こえた。
でもこっちは……なんか、命令みたいな……」
「命令に、役目……
わからないことばかりだ……」
アストはミアの肩をそっと抱き寄せる。
「これもレオンさんに見せよう。
二つの鍵が、何を守っているのか確かめないと。」
アストの言葉に、全員が頷いた。
五人は再びアルヴェリアへと戻るため、崩れゆく遺跡に背を向けた。
古代の鍵を手に──
アストたちの歩みは、少しずつ真実へと迫っていた。




