第37話 佇む守り手
佇む扉を前に、三人は静かに息を整えた。
冷たく拒絶するようなその気配は、何かを守るようにも感じられる。
「確かに、壁にしか見えんな……
普通は、こんな石壁が開くとは思わんだろう。」
ルシアナは、改めてその重厚さに息を呑む。
「……こんなもの……
どうやって作ったんだろう……」
そう言って、ミアが近づいた時だった。
壁はまるで生きているかのように、淡い光を帯びて脈動し始める。
その光は、待ち人の来訪が果たされたことを告げるようだった。
「すごい……
なんか、生きてるみたい……」
「……ああ、そうだね。」
ミアは扉を見上げ、アストは込み上げる期待をその声に滲ませる。
三人は、脈動を続ける扉に向かい合った。
アストはミアの手をそっと握り、彼女に確認するように問いかける。
「あっちの遺跡で扉を開いた時……
何かを唱えていたけど、思い出せる?」
「はっきりは覚えてない……
でも、なんでだろう……分かる気がする。」
そう言って、ミアはそっと扉に触れた。
すると彼女の額の紋章が、眩い光を放ち始める。
「……っ……!」
ミアの身体がふらつく。
アストは慌てて身体を支え、彼女の手を強く握りしめた。
「……大丈夫か?」
「ミア……!」
ルシアナも心配そうに声をかける。
「うん、大丈夫。」
ミアは静かに微笑むと、少し間を置き、震える声で告げた。
「……やっぱり……
唱える言葉、勝手に浮かんできた……」
その言葉に、アストとルシアナは息を呑む。
「……いくね。」
ミアはそっと目を閉じると、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「リ・ドゥーム……
オル・エイル……ジ・エイリア……」
その瞬間──
紋章の光はさらに強まり、ミアの身体を包み込む。
放たれる眩い光に、アストとルシアナは思わず顔を背けた。
「……くっ……!
エルフェリオンの時より、反応が強いぞ……!」
「ミアの力が……
前より強まっているのかもしれない……!」
アストは必死にミアを支えるが、その声には不安が滲んでいた。
やがて扉は低く唸りはじめ、重く堅い黒岩の扉と床が、鈍い悲鳴を響かせながらゆっくりと開いていく。
しばらくすると音は止み、砂埃が舞う中、徐々に視界が開けていった。
息を呑み、その先をじっと見つめる三人。
奥に広がっていたのは、薄暗い空間──
そして中央には、静かに佇む巨大な石像の姿があった。
「あれが……ここの守護者……?」
ミアが震える声で呟く。
「……ああ。恐らくね……」
アストはそう言うと、ゆっくりと石像に近づいた。
それは三メートルほどの高さに見える。
人型ではあるが、どこか獣のような威圧感を纏っていた。
表情は厳しく、まるで入ってきた者を品定めするかのように、冷たい眼差しを向けている。
「また崩れるといけない……
ひとまず、ミアは離れていてくれ。」
「うん、わかった。」
アストは慎重に、足元の石床を調べた。
そこには、やはり見覚えのある古代文字が刻まれていた。
『我は要の守護者にして、星の子らが神と呼ぶ者。』
「……やっぱり……
エルフェリオンの時と同じだ。」
アストがそう言うと、ミアも石像を見つめながら言う。
「でも……少し違うような……
あっちの守護者は、優しそうだった。
でも、この守護者は……なんか怖い……」
ルシアナが周囲を見渡して呟いた。
「遺跡の雰囲気もな……
ここは“導き”というよりも“警告”に思える……」
アストはひとまず、周囲を探索し始めた。
しかし、エルフェリオンの遺跡と同様に、特に得られる情報はないようだった。
そんな中、ルシアナがふと呟く。
「……この石像……
アスト……いや、ハンスに似ていないか?」
「言われてみれば、確かに……
でも、あっちはルシアナ……エルフ種に近い姿だった……」
アストは額に手を当て、考えを巡らせた。
「星の子らが神と呼ぶ者……
それぞれの種族に似た守護者……」
その時、ミアが何気なく声を漏らす。
「私たちの、神様……?」
「……!
種族ごとに神がいる……?」
アストは、確信めいたものを覚えた。
「種族ごとの神……?
そんな概念、聞いたこともないぞ……」
ルシアナは、怪訝な顔を浮かべて言った。
「……ああ。
でも、もしそうだとしたら、歴史を覆す発見だ……」
そう言って、胸の高鳴りを覚えるアスト。
ミアは、ふと思ったままに呟いた。
「じゃあ、もしかして……
ティリスって種族にも、神様がいるのかな?」
不意に投げかけられたその問いに、アストとルシアナは顔を見合わせた。
「三つの種族、全てに神がいた……
でも、“神と呼ぶ者”という言い方……
人類が勝手に、神として崇めていたということか。」
アストがそう言うと、ルシアナも顎に手を添え、何かを悟るように呟いた。
「要……何かを守りながら、我々を……
人類を、導いていたのが守護者ということか。」
アストは石像を見上げ、胸に込み上げたものを淡く響かせた。
「答えに近づいているはずなのに……
分からないことも増えていくよ、父さん……」
石像は沈黙し静かに佇んでいる。
何かを物語るように、ただ厳しい眼差しで三人を見下ろしていた。
それはまるで──
“真実を知る覚悟はあるか”と、そう問いかけているようだった。




