第27話 意志を穿つ灼光
『互いに譲れぬものがある』
覚悟を賭した両軍の衝突は、激化の一途を辿っていた。
アルヴェリア北西部の荒野は、もはや原形を留めていない。
各軍の武装艇は黒焦げの残骸となり、両軍の兵装義肢が瓦礫と化して散乱している。
立ち昇る魔蒸気は淡く赤みを帯び、錆びた鉄の匂いを含んでいた。
「前線、押し返したぞ!」
「帝国軍──後退していきます!」
「この機を逃すな!進めえええ──ッ!!」
連合軍の兵士たちが怒号を飛ばす。
戦況は、明らかに連合軍が優勢だった。
帝国軍は、ハンスという大戦力を欠いたことがどれほどの痛手か、それにどれほど甘えていたのかを身に沁みて理解する。
彼がいないだけで前線の圧力は半減し、士気も圧倒的に落ちていた。
「押し切れええ!
──このまま、奴らを退けるぞおお!!」
「「おおおおおーッ!」」
オリバーの声が響き渡る。
連合軍の兵士たちは雄叫びを上げ、帝国軍を押し返しつつあった。
だが、遠く離れた帝国軍本艦──
そこには、戦火の様子を冷めた視線で見つめる、元帥アドルフの姿があった。
「ハンスを欠いた程度で無様な……
我が帝国が侮られるなど、あってはならん。」
アドルフは静かに呟くと、手を掲げ側近に命じた。
「“グングニル”を放つ。
──蛮族どもを焼き払え。」
その声には怒りも焦りもない。
ただ、冷酷な決断だけが宿っている。
側近たちは一瞬息を呑んだが、すぐに敬礼し走り去った。
残った幹部は恐る恐る、呟くように進言する。
「元帥閣下……
今撃てば、味方を巻き込む可能性が……」
「構わん。」
そう告げるアドルフの瞳は、氷刃のように冷たく、鈍い光を湛えていた。
◆◆◆
──そして前線。
連合軍の兵士たちは帝国軍の後退に勢いづき、さらに前へ前へと押し進んでいた。
「勝利は目前だ──!!」
「帝国軍など恐るるに足らん!」
「このまま本艦まで攻め込むぞ!!」
士気は最高潮。
誰もが連合軍の勝利を信じて疑わなかった。
だが──
「……ん?
……なんだ、あれは……?」
目を凝らす前線の兵士たち。
遠く、帝国軍の後方──
巨大な魔導バリスタが姿を現していた。
魔力炉が赤黒く脈動し、空気を震わせ始める。
「魔導砲か……?なにを今さら。」
「問題ない!このまま進め!」
「戦線を押し上げろぉーッ!!」
「いや……まて……!
魔導砲じゃない……あれは……!?」
誰かが叫ぶ。
「……“グングニル”だ……!!」
その名を聞いた瞬間、連合軍の兵士たちの顔から血の気が引いた。
「全軍……!
──今すぐ防壁を張れええーッ!!」
オリバーの怒号にも似た絶叫が響く。
その瞬間。
戦場から音が消えた。
風すら止まったかのような、異様な静寂。
──灼光が、世界を貫いた──
帝国軍から放たれた“巨槍”は、瞬時に灼熱を纏い、漂う血混ざりの魔蒸気を切り裂いた。
音を置き去りにする一閃の軌跡は、まるで天を裂く神の一撃。
それは瞬く間も与えず、連合軍の中央艦隊に到達した。
「────っ!!」
地を揺らす轟音と、辺りを一掃する爆風。
そして、空気を焼き払う灼熱。
辺り数十メートルが焦土と化し、武装艇は一瞬で溶け崩れた。
その場を埋め尽くすように響き渡るのは、兵士たちの悲痛な叫びだけ。
「う、うわあああああーっ!!」
「な……なぜ……味方まで……」
「……っ!ぐぅ……俺の足が……!」
「熱いっ……!!……助け──」
地面が抉れ、黒焦げの大地が広がる。
魔導機兵は溶けた鉄の塊となり、爆心部の兵士たちは影すら残さず消えた。
それはまさしく悪魔の所業。
連合軍の前線は、一撃で壊滅した。
敵味方問わず、まともに立てる者はそこにはいなかった。
「な……なんて威力だ……」
「これが……帝国の……」
「……味方ごと……やりやがった……」
兵士たちは恐怖に震え、後退を始める。
「退くな!!……くそ……!
……まだ戦える者は!──」
「「おおおおおおおーッ!!」」
「やつらを逃がすなっ!!」
血を流しながらも叫ぶオリバー。
だが戦場には、追撃する帝国軍の咆哮が轟き、彼の声は無慈悲に掻き消された。
「前線が崩れています……!」
「このままでは……持ちません!!」
戦意を削がれた兵士たちの声は震える。
連合軍は完全に勢いを失い、唖然と立ち尽くす者で溢れていた。
◆◆◆
──巨槍着弾より少し遡った頃。
遠く離れた場所で、荒野を駆けるハンス。
「……間に合ってくれ。」
その瞳は、燃えるような決意に満ちていた。
だが、突如戦場に広がる灼光と轟音が、彼の胸を締め付ける。
「──グングニル!?
まさか……味方ごとか……!?」
この戦場は、すでに地獄と化していた。
ハンスは、眉間に深い皺を刻み込む。
噴き上がる魔蒸気は、その怒りに呼応するように濃さを増していた。
砂塵を巻き上げながら急ぎ駆けるハンス。
彼の瞳が見据えるのは、地獄の中心──ただその一点だけだった。




