↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/138

第26話 迫る大牙、唸る咆哮

 砂塵が地平線を覆い尽くす。


 大地を震わせる轟音が、遠くアルヴェリアの街にまで響き渡っていた。

 そして、巻き上がる砂塵の元には、群れを成す野獣のような黒鉄の影。


 「来たか……!」


 連合軍の兵たちは息を呑む。

 その光景はさながら、黒い津波が大地を呑み込みながら迫り来るようだった。


 ──帝国軍の大艦隊。


 鋼鉄を纏う重装兵、武装した魔導艇、飛空艇部隊。

 そして数万の兵士を載せた魔導戦艦が、砂嵐を巻き上げながら進軍する。


 「……覚悟を決めろ。」

 「我らが、この救いの地を守る砦だ。」


 アルヴェリア国境付近の丘──

 そこに立つ連合軍の兵士たちは、静かに衝突の時を待ち構えていた。


 だが、そこに恐れはない。

 アルヴェリア自衛軍、帝国反乱部隊、そして数多の志願兵──

 彼らは皆、相応の覚悟を決めてここに立っている。


 魔導機兵や武装艇が低く唸りを上げ、魔力炉の光が深赤を帯びて脈動する。

 兵士たちの顔には、恐怖ではなく、熱い信念と決意が宿っていた。


 「帝国軍、距離五千……接近中!」

 「全軍、迎撃準備!──迎え撃つぞ!!」


 総隊長オリバーの号令が響き渡る。

 アルヴェリアの空気が震え、両軍の正義は、ついに衝突する瞬間を迎えようとしていた。


 ◆◆◆


 戦火に晒される前線──

 その知らせは、すぐに国中へ広がった。


 「帝国軍……ついに来たか……」


 宿の一室で、アストは息を呑む。

 ルシアナもミアも、緊張に顔を強張らせていた。


 部屋の隅で腕を組むハンス。

 深く息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。


 「……俺も行かねばな。」


 その声はいつもの豪快さとは違い、静かに重く響いていた。


 「ハンス……

  あなた一人で行くつもりですか?」

 ルシアナの顔が強張る。


 ハンスは彼女の肩に手を置き、真っ直ぐにその目を見た。


 「ルシアナ……アストとミアを頼むぞ。」


 「……っ……!」

 ルシアナの瞳が揺れる。


 彼女は、身も心も強い──

 だが、家族のように慕うハンスを戦場へ送り出すことは、胸が張り裂けるほど辛かった。


 ミアは俯き、震える声で呟く。

 「……私のせいで……ハンスが……」


 その言葉に、ハンスは豪快な笑みを浮かべた。


 「はははっ!馬鹿を言え!

  これは俺自身が招いたことだ……お前のせいじゃない。

  むしろ──お前たちがいるから、俺は勝てると信じている。」


 ミアは顔を上げ、ハンスの目をまっすぐ見つめる。

 彼の瞳は、いつもと変わらず優しく、そして力強かった。


 「心配するな、必ず無事に戻る。

  お前たちの居る場所が俺の帰る場所だ。

  だから──お前たちは絶対に生き延びろ。」


 アストが拳を握りしめた。

 「……ハンス。僕も戦います……!」


 「駄目だ。」

 ハンスは即座に言い切った。


 「お前の役目は他にある。

  ──鍵の謎を解き、ミアを守り抜くことだ。」


 アストは言葉を失い、悔しさを滲ませた。

 だが、ハンスが正しいことは痛いほど分かっている。


 「……分かり、ました。」


 「頼んだぞ。」


 ハンスは、リリアから託された聖岩の籠手に手を添えた。

 籠手は戦地へ向かう彼を鼓舞するように、淡い光を帯びている。


 「──行ってくる。」


 そう言って、ハンスは振り返らずに部屋を出た。

 重く閉まる扉を見つめるミア──

 彼女は小さく、しかし強い想いを込めて呟いた。


 「……待ってるから……!」


 ルシアナは、ミアの肩にそっと手を添え、静かに抱き寄せた。

 彼女もまた、「必ず帰って来てください」と、心の中で祈るように呟いていた。


 拳を握り締め、ふと窓の外へ目をやるアスト。

 その視線の先には、空を覆うように砂塵が舞う──

 そして帝国軍の砲撃らしき轟音が、アルヴェリア中の空気を震わせた。


 「……始まった……」


 誰に向けたものでもないその言葉は、鳴り止まない轟音に溶けるように消えた。


 ◆◆◆


 ──その頃。


 ハンスは戦場へ続く道を、ただ一人駆けていた。

 漂う砂塵と共に、遠くからは両軍の砲撃音が轟々と響いている。


 「みな、耐えてくれ……!」


 その身に纏う武装義肢が獣のように唸る。

 機関部から噴き上がる魔蒸気は、静かな怒りを燃やす狼煙のように、濃白に立ち昇っていた。


 救いの地に、容赦なく迫る帝国の大牙──

 それを迎え撃つ連合軍の唸る咆哮──


 今ここに、歴史を揺るがす大戦の火蓋が切って落とされた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。