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第12話 帝国元帥の矜持

 夜半にもかかわらず、灯火が煌々と焚かれる帝国軍本部──

 飛空挺撃墜の報がもたらされた瞬間、その場の空気は一変した。


 誰もが報告書を睨み、信じられないと言いたげに互いに顔を見合わせる。

 石造りの広大な会議室は、幹部たちの怒声とざわめきが充満していた。


 「……撃墜だと!?」

 「我が帝国の誇る飛空挺が……?」

 「しかも首謀者は……

  ハンス・オルデイン大将……!?」

 「なぜ大将が……!どういうことだ!?」


 その名が告げられた瞬間──幹部達は一斉に息を呑んだ。

 椅子の軋む音や怒号が広がり、その場は騒然となった。


 彼らの間に走る衝撃は、ただの裏切りでは済まされぬものだった。

 この帝国の象徴とも言える、《巨槍グングニル》──

 それが自国の飛空挺を撃ち抜くなど、帝国にとってかつてない屈辱だ。


 そんな喧騒が包む会議室の最奥──


 重厚な椅子に、静かに座す男がいた。

 帝国軍元帥、アドルフ・オルデイン。

 彼は沈黙を保っていたが、その眼差しは冷徹な威圧感を放つ。


 「……ハンスを──奴を、討伐せよ。」


 低く響いたその声に、会議室は一瞬静まり返った。

 幹部たちは、その冷徹な命令に頷きながらも互いに視線を交わす。


 そんなアドルフの胸中にも、わずかな苦悩が滲んでいた。

 血を分けた息子を討てと命じる──その重みは誰にも計り知れない。

 父としての情を捨て去り、帝国軍元帥としての矜持を選んだ言葉だった。


 だが、彼にとってその矜持こそが信念。

 帝国の頂点に立つ者として、私情を挟むことは許されない。

 彼は己の矜持を──その信念を貫くために、冷酷な決断を下したのだ。


 「……しかし、元帥閣下。」

 一人の参謀が声を上げる。


 「グングニルが使用されたとなれば……

  内部に協力者がいると考えるべきかと……」


 その言葉に、幹部たちの間に再びざわめきが広がる。


 グングニルは帝国の象徴であり、厳重に管理されているはずだった。

 いくらハンスが大将であるといっても、単身で持ち出せるはずもない。


 しかし、その槍は持ち出され、飛空挺を撃ち抜いた。

 それはつまり、内部にいる“裏切り者”が手引きしたということだ。


 「……確かにな。

  並行して、裏切り者の捜索も開始せよ。

  ──敵に通じる者を一人残らず炙り出せ。」

 アドルフは低く重厚な声で命じた。


 「帝国の威信を揺るがす者を決して許すな。」

 その声は凍てつく大地のように冷たく、鋼の意志を宿していた。

 

 「はっ!!」


 幹部たちは一斉に立ち上がり、命令を遂行すべく散っていく。

 だが、その背を見送るアドルフの瞳には、わずかな翳りが残っていた。


 ──息子よ……なぜその道を選んだのだ──


 心の奥底で呟いたその声は、誰にも届く事はない。

 元帥としての矜持、父としての心──

 揺れ動くはずのない覚悟と、その心の封印は、決して完全ではなかった。


 会議室に残された静寂の中、アドルフは一人立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

 夜空を見上げながら、彼は己の決断の重さを噛みしめる。

 帝国軍の頂点に立つ者として、彼は揺らぐことは許されない。


 だが、父としての心は確かに存在し、彼を苛み続けている。

 彼の脳裏に、剣を振るう幼いハンスの姿と、その傍らで誇らしげに見守る自分が鮮明に蘇った。


 「ハンス……

  お前が選んだ道が、我が帝国を揺るがすならば──

  私は元帥として、貴様を討たねばならん。」


 自分に言い聞かせるように溢れたその言葉は、夜の闇に溶けて消える。

 夜空に浮かぶ月が、ただ静かに彼を照らしていた。


 だが、帝国軍本部の空気は確かに変わっていた。

 裏切り者の捜索が始まり、軍内部は不穏な影に覆われていく。


 父としての苦悩と、元帥としての矜持。

 その狭間で揺れるアドルフの姿は、帝国の未来を暗示するかのように、月光に照らされ深い影を落としていた──



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