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第11話 灼光の主

 辺りは静寂に包まれ、聖導船の周囲には張り詰めた空気が漂っていた。


 空を震わせていた爆炎の余韻は薄まりつつも、焦げた匂いの混ざる風が吹き抜ける。

 アストとミアは互いに寄り添い、ルシアナは額には冷えた汗を浮かべていた。


 三人は、槍が放たれた方角に目を凝らす。

 その視線の先──

 遠く霞む闇の奥から、ゆっくりと何かが近づいてくる気配があった。


 微かに、枝を踏み締める音が響く──


 その音と共に林の木々が静かに揺れ、立ち上がる熊を思わせる大きな影が姿を表した。

 月光に照らされるその輪郭は異様な迫力を放ち、一同の警戒心を一層強めた。


 「何者だ!そこで止まれ!!」


 ルシアナは即座に臨戦態勢に入り、その影に鋭い声を浴びせる。

 その声に応じるように、低く重厚だが敵意を感じさせない声が周囲に響いた。


 「まてまて。そんなに警戒するな。

  俺はハンスという者だ。敵ではない。」


 影の男はゆっくりと歩み寄り、深く被っていたフードを脱いだ。

 月光がその巨躯と顔を照らした瞬間、ルシアナを始めとした一同は騒然となる。


 そこに立っていたのは──

 帝国軍大将、ハンス・オルデインその人だった。


 アストは息を呑み、ミアは思わずアストの袖を掴む。

 ルシアナの瞳は驚愕で揺れ、普段の冷静さを保てずにいた。


 ハンスはそんな反応を意に介さず、静かに言葉を続けた。

 「俺は味方だ。

  訳あって、軍の追手を潰してまわっている。

  そのうち、俺にも追手がかかるかもな。はははっ。」


 驚愕の事実を笑いながら語るハンスに対し、一同は言葉を失った。

 その場を沈黙が包む中、ルシアナがようやく口を開く。


 「あんな物を単騎で扱えるのは、あなたくらいだと思ってはいましたが……。

  なぜ、帝国軍の大将であるあなたがそんな真似を?」


 ハンスは少し目を細め、低く答えた。

 「以前、リリアと話したんだ。

  世界のためにも……その少女は守るべき存在だとな。」


 彼は少し間を置き、さらに続ける。


 「それ以前に俺は、軍のやり方に疑問を抱いていた。

  だから、我が信念のために彼女を守ると決めた。それだけだ。」

 その言葉は重く、そして真摯だった。


 ルシアナは動揺を隠せず、問いを重ねる。

 「あなたの立場はどうなるんです?

  大将といえど、あの元帥殿が見過ごすとは思えませんが……。」


 ハンスは眉間に皺を寄せ、静かに答えた。

 「だろうな──

  だが構わん。いざとなれば、俺が帝国軍を潰す覚悟でここに来た。

  すでに追手を幾人か潰しているしな。今更だ。」


 その言葉に、場の空気はさらに重くなる。

 アストとミアは唖然と立ち尽くし、どう反応すべきか分からなかった。


 そんな二人に、ハンスは柔らかい声で語りかける。

 「二人とも安心するといい。俺が居る以上、お前たちに手出しはさせない。」


 アストは安堵と困惑の狭間で戸惑いながらも、ゆっくりと頷いた。

 ミアは小さな声で、しかし精一杯の気持ちを込めて言った。


 「ありがとう!ハンスさん!」


 その言葉に、ハンスは巨躯に似合わぬ笑顔を浮かべた。

 炎に照らされたその笑顔は、奇妙に温かく、同時に不気味なほど力強かった。


 「ひとまず、リリアと話がしたい。」

 そう告げると、ハンスはルシアナと共に聖導船へと乗り込んだ。


 夜の森には再び静寂が戻る。

 しかし、それは嵐の前の静けさにも似ていた。


 帝国軍大将が味方を名乗り、ミアを守ると誓った──

 その信じられない事実は、アストとミアに新たな希望を与えた。

 だが同時に、二人が抱いたその希望には、微かな混乱と不安も絡まり合っていた。



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