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第109話 明らかになる遺物

 ハンスが帰国してから数日──


 アスト、レオン、そしてリリアは技術開発局の一室を借り受け、ハンスが持ち帰った北の秘境に関する資料を読み漁っていた。

 何年も、まさに人生をかけたかのように綴られた膨大なその記録は、紙の擦れた跡やインクの濃淡に焦燥と執念が滲んでいる。


 「これは、やはり父さんのものだ。

  こんな熱量のものは父さん以外に書けやしない……」


 アストは紙面を指でなぞりながら声を震わせた。

 レオンも資料を手にとって眉を寄せると、目の前にあるものを訝しんでいるかのように声を漏らす。


 「そうだろうな……しかも……

  亡くなったはずの日以降に書かれたものもある。

  幽霊でもあるまいし、どこかで生きていたということか……?」


 二人の声には秘境の謎よりも、ブライトが生きているかもしれないということへの興味が勝っているようだった。


 「レオン殿、気持ちはわかるがまずは秘境について調べよう。

  アストも……父上のことを蔑ろにするつもりはないが、しばらく辛抱してくれ。」


 二人の様子を眺めていたリリアが口を開いた。

 眉を寄せ、アストを見据えながら苦笑いを浮かべる彼女を見たアストは、言いづらいことを言わせてしまった自分を情けなく思い、思わず視線を落とした。


 「す、すみません。確かに……

  まずは秘境を探し出して、伝承やミアの紋章について明らかにしないといけませんよね。」


 そう言って再びリリアを見つめるアストだったが、彼女が時折見せる物憂げな表情がどうしても引っかかっていた。

 ──「この人はただ自分やミアを手助けしてくれているだけではない」と、無くしたはずの記憶がそう告げているような気がしていた。


 「アスト、ここを見てくれ。」


 そんな中、レオンが資料の一部を指さした。

 そこには秘境の中腹と思われる場所が示されている。


 「これは……石碑、ですか?」


 「ああ。どうもこの石碑を起点にして奥地の外側をぐるぐると回らされているらしい。

  だから、どんなに進んでも“遅かれ早かれ入った場所に戻る”という仕組みのようだな。」


 「こんなの、何回挑めばわかるんです……?

  石碑って、この記述を見る限り一つや二つじゃないですよね……」


 レオンは苦笑しながらも肩をすくめた。


 「はは。まさに執念だな。

  あいつは、よほど奥地に用があったらしい。」


 レオンがそう言うと、二人は顔を見合わせて笑みを浮かべた。

 それは、父らしさを滲ませる資料への呆れと、彼の確固たる意志に感嘆するような笑みだった。


 二人の様子を微笑ましく感じながら、石碑の写しを見ていたリリアが静かに告げる。


 「この石碑の紋様なんだが……やはりこれも、星法紋ではないのか?」


 リリアの言う通り、資料に描かれた石碑の紋様はミアの紋章や鍵、そして鉄塊に刻まれていた星法紋と酷似していた。


 「そうですね……」

 アストは頷いた。


 「やはり、この奥地にはティリスの都──

  ティリーシアがあると見て間違いなさそうだな。」


 レオンが力強くそう告げると、アストとリリアも深く頷き、三人はこの石碑に何かしらの手がかりがあるという確信を共有した。


 ◆◆◆


 一方で、ラボでも一つの動きがあった。

 そこには、見慣れぬ溶液の詰まった瓶や、帝国にはこれまでなかったであろう聖法紋が刻まれた試験管などが並べられている。


 聖王国から新たに派遣された神官二人と、ルドニカを中心とした職員数名によるナノマギアの研究が進む中、ドルテオは自分専用の部屋に篭り、ハンスから預かった“ゼルドアの義腕”の修復を着々と進めていた。


 「はっはあ!こいつぁ面白いぜえ……!

  もともとある武装義肢の強度を聖法紋で底上げしてやがる。

  しかも岩槍生成のおまけ付きってかあ?作ったやつぁイカれてやがんなあ!」


 厚めの扉を超えてラボにまで響く、歓喜する大きな叫び声。

 ルドニカや神官たちはびくりと肩を震わせ、他の職員たちはそれが日常であるかのように苦笑した。


 「た、楽しそうですね……」


 「はは……いつものことですよ……」


 職員たちは慣れた様子で星法紋やナノマギアの特性について研究を進めていく。

 ドルテオは義腕の修復をしながらも、たまに部屋から出てきてはルドニカや職員たちの様子を見て的確なアドバイスや指摘をする。

 普段の粗暴な振る舞いとは違ったその存在感は、まさに帝国技術の要と呼ばれるに相応しい技術開発局局長のそれだった。


 そして徐々に明らかになっていくナノマギアの特性──

 それはまさに“生きた金属”という呼び名に相応しく、ティリスたちがいかに常識を超えた存在であるかを物語るものだった。



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