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計画と暗躍、そして幼なじみ

「ーーわしらのすべきことは簡単じゃ。今までの周回でわしは城でコウキと出会い、その後も良き友として共に国のために戦った。けれど今回の周回で分かったんじゃがーーおそらくわしはコウキと共に戦うべきではない」


「と、いうと」


宿屋、カーテンを閉じ、薄暗くなった部屋でエルと向き合う。

コウキと再会しに行くと、彼女は言った。

けれど翌朝起きてみれば今は時じゃないと言って机を動かし、ベッドとベッドの間に置いて向き合っている。


「北の魔王は知っとるという認識で合っとるかのう?」


「まぁ……俺らが異世界に召喚されたのもその魔王が周辺諸国を侵略し人類を滅ぼそうとしてるって理由だしな」


地政学的悪夢、列強に囲まれ、過去の戦争の賠償金を払わされる魔人たちの国であるプロイセナ王国。

経済は崩壊し周辺諸国の返金の催促や軍備の制限、武器生産の禁止ーー様々な制裁のつけで国は崩壊の危機に瀕してしまった。


そんな彼の国に賠償金の減額を提案した弊国や周辺諸国へ『絶滅戦争』を提唱する魔人の勇者、この国では魔王と呼ばれる存在が宣戦布告。

瞬く間に鎮圧されると噂された戦争は魔王軍の大勝により幕を収めた。

魔術や聖剣で近代化し、魔術により通信技術を格段に構造させた魔王軍の統率された攻勢の前に列強の数国は敗れた。


三日も経った頃には、列強フランソルの首都が攻略され、王族は皆殺し。

人は奴隷として連行され土地には魔人たちが植民、財産は接収された。


一週間経った頃には抵抗運動を続けていた軍の残党も滅び、フランソワの聖遺物全てがプロイセナの手に。


一ヶ月もすれば聖エルグリア大陸の半分をプロイセナは支配してしまった。人は奴隷とされ土地は奪われ、財産は彼らの手に落ちた。

フランソワの滅亡の間に戦線を持ち直したアルグリア王国とアルドリア王国、両国の共同戦線はエルグリア最後の防波堤となっている。


硬直した戦線を突破するために呼び出されたのが異世界の勇者である自分らであるーーそう聞かされている。


「わしと共に、コウキが来てはならない。彼奴は英雄じゃ。人類の希望であり、人々の星。北の魔王を滅ぼしエルグリアに平和をもたらす者。奴の戦場はわしの隣じゃない、剣を振るう前線じゃ。じゃがこのままではやつはなし崩し的に、というか流れでわしと共に来ることになる」


「それまたなんで?勇者だし今のところアルグリア、お前んとこの国との接点はないはずだろう?」


「ああ、じゃがこの後に起こるこの領地、キール領の辺境伯たるキール・グリズリー暗殺未遂の疑いで国から逃亡することとなる」


暗殺、あまり宜しい響きじゃない。

あまり異世界というか、おそらく中世か?辺境伯とか、公爵とか、そういうのを言われてもよくわからない。


大きな土地を保有、というか管理しているみたいだし地主みたいなものか?


そしてそのお偉いさん暗殺の疑いがコウキにかけられて国を追われることになると。


「なら、早めに城に戻って誰が企んでるのかとか、調べた方がいいんじゃないのか?というかやり直したことがあるんだったら犯人を知らないのか?」


「この国に来ることとなった二十四回の周回で犯人は三十八人いる。しかも暗殺の方法は多種多様で一貫性がない。結果として辺境伯は体に致命的な損傷を受け魔術を行使できなくなる。魔術は貴族の象徴じゃ、失えば権力争いで不利となる」


さっきから気になっていたのだけれど。


「未来視っていうのがあるのなら何が起こるのかもわかるんじゃないのか?犯人とかも」


「わしの未来視とて万能ではない。わしに見えるのはわしがどう死ぬかとか、過去未来を通して身近なものの終わりとその理由だけじゃ。例えばお主。過去未来を通しこの周回ではお主と仲がいいらしい。未来視にはお主がわしと共にいない、その理由は裏路地の前で留まらなかったーーそう視える」


「……キール辺境伯とやらとは身近な者と判定されないから、見えない、か」


「そうじゃ、じゃから自力でどうにかするほかない。手遅れになる前に」


内容は理解したーーつまりは、辺境伯の暗殺を防ぎ、コウキの国家追放をどうにかして阻止しなければいけない。

そのために未来視を頼ることはできない。

かといって何が起こるかはランダムで、暗殺という事案だけが発生する。


「コウキに会いに行く、って言ってたよな?」


「ああ、そうじゃが」


「理由は?俺がパーティーに戻ると未来とやらもバッドエンドになるんじゃないのか?」


「戻れない、少なくともわしにはそう視えている。常に変動しているとはいえ未来の大筋は変わらない。辺境伯の暗殺もそうじゃが、確実に事件となる事柄は存在しとる。パーティーとの接触はあの裏路地を除いて事柄になりえんものじゃ」


「……未来視とやらがないから俺には詳しくわからんが、何を企んでいるんだ?」


「なあに、計画は簡単じゃ。暗殺は確実に起こる、だが未遂に終わる。ならば起こす人物を人為的に作り出し、それを計画的に阻止すればいい、それだけの話じゃよ」


うん、ちょっと何を言っているのかよくわからない。




ーー




キール領、その広大な領地の最も栄える町である都市キリヤ。

昨日と変わらない今日、今日と変わらない明日、そんな日々が続くはずだったその都市に確かな変化が発生した。


まず一つ目、暴漢が完全に根絶された。


『ーーええ、俺たちは姉御にボコボコにされて目覚めたんです。人を苦しめて復讐するよりも笑顔で礼言われた方が格好いいってね』


と、暴漢Aは後に騎士団の一員としてそう語る。


一夜にして赤い悪魔により裏路地は完全に炙り尽くされ、犯罪者組織は完全に崩壊。軽犯罪者達は魔術により完全にボコボコにされ改心した、いや改心させられた。

心を物理的に入れ替える、そんなことが可能ならばこういうことだろうと暴漢たちは思ったそうだ。


そしてその赤い悪魔は秘書(最初にボコした読み書きができる暴漢)がまとめた情報に目を通す。


「うん、よく頑張ってくれたね、感謝してるよ。目撃情報は複数、幼女とともに走る黒髪の青年か。随分と興味深い話だね」


「ひっ……!?あっ姉御、この空前絶後の素晴らしき存在である太郎様は目撃情報から割り出す限り、商業区画の宿屋に潜伏してると思われます!もっ、もう金的三百連発はやだっ……!」


股間を抑え、彼女の魔力の発露に心底怯えたように暴漢は頭を下げる。

その様子を見て赤い悪魔ーーもとい、アメリーはにこりと天使のような笑みをこぼして。


「そんなひどいことはしないさ。それよりもよく働いてくれて感謝しているよ。数人に周辺区画の監視をするように言っておいてくれ。私も直接出向くよ」


「へいっ!護衛に数人つけますか?嗅ぎ回ってることがエルビス商会にバレれば面倒になりますんで、姉御に被害が及ぶかもしれません」


冷や汗を垂らしながら、元暴漢は持ちうる限りの丁寧語で言葉を並べた。


「護衛はいらないが、エルビス商会とはなんだい?」


「表向きは善人ぶってる奴らです、けど裏業界じゃあ奴隷ビジネスに関わってるとかで人攫いを頻繁に行い、敵商会の馬車を襲ってるとか。下手に商業区を嗅ぎまわると懲罰部隊が来るかもしれません!その太郎ってやつも エルビスの奴らに攫われたのかも……」


だからこそ、絶望的、と暴漢Aは言った。


キール領において奴隷ビジネスは禁止されている。

ご法度な行為を領主が黙認しているのも、明確な証拠がないということと、証人が全て失踪してしまうからだ。

必要悪として存在を許されるエルビス商会、絶対に手を出してはいけない存在として裏では有名であった。


ーー元暴漢Aはその日のことを鮮明に語る。


『危ねぇってことを説明したら、アメリーの姉御は杖を持って、ちょっと散歩してくるとか言って、なんかやな予感がしてついて行ったら、エルビス商会の裏口を爆破して乗り込んで行ったんです』


今やキール領の暗部があらいながされた伝説の日と謳われる神聖歴八十二年、五月十二日。


エルビス商会は、物理的に、体制的に滅んだ。

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