罪と罰
痛みを堪えながら馬車に揺られ、しばらくすれば見知らぬ屋敷の前で引き摺り下ろされ、王座のような場所へと連れて行かれた。
一見小さな城のような場所だった。
自分たちが召喚された王城と似ているけれど、流石にそこまで大きくない。
騎士たちに両腕を拘束され、剣を突きつけられながら床に放り出される。
パーティー会場か、と少し思った。
王座のようなものに、この世界では高価な大窓。バルコニーが窓の外にあって街が見える。
豪奢な装飾品に満たされた場所で、俺はゴミの様に捨てられていた。
その場にはクラスメイトの全員がいた。
光輝がいて青山がいて、やはりアメリーの姿はないけれど、全員が揃っていた。
そしてその全員が俺をゴミを見るかのように侮蔑の視線を落としていた。
光輝の隣にはエルがいる。
涙を流しながら、光輝の腕に抱きついて頭を撫でられている。
俺の視線に気づくと、わかりやすく怯えた様な声を上げて、光輝は視線を遮る様に立ち、俺を睨みつけた。
「辺境伯様の御前であるーー異世界の勇者であろうと、礼を失する行いは国家反逆罪として扱われる。その点重々理解しておく様ように」
王座の隣、控えていた大臣らしき老人が声を張り上げる。
「一体何が起きてるんだ……?」
「黙れ!この外道、お前のせいで痛いけな子供にトラウマが焼きついているのに、よくそんなこと言えたな!」
マントを翻し、光輝は俺を糾弾する。
「俺は強姦なんてしちゃいないっ!一体全体なんで俺が子供に手を出すんだよ!」
「白々しい、どうせお前の兄貴が見ているのを見て劣情を抱いてたんだろ!」
「兄貴は関係ないだろう!エルっ、一体何が起きてるんだ?何か意味があるのか?」
「黙れ!お前はもうこの子に話しかけるんじゃない!」
びくりと、体を震わせ、光輝の裏にエルは姿を隠した。
エル?お前は、死にたくないって、未来をなんとかしたいって言ってたじゃないか。
「随分と騒がしいじゃないか。強姦魔の罪状を調べ上げ、刑罰を与える。それだけの話だろう?」
玉座の向こう側から、金髪のおっさんが現れた。
ぴっしりとした、すらっとした貴族服を着た人だ。
「勇者パーティーの、誰だったか?まあこれ以降見ることもない人間の名前を知る必要もないだろうが」
「キール辺境伯様……あの者の名はヤマダ・タロウ。先日勇者様に無能と追放され、アルグリア皇国の皇女殿下を強姦した犯罪者であります」
「なんだと?」
「このままでは外交問題となりますぞ。納得する処分を出せなければ……アルグリアの怒りは怒髪天をつらぬく事でしょう」
「ふむ」
追放は事実だ、俺は現に無能だ。
けれど強姦は違う、俺は子供を、困っている子供に光輝みたいに手を差し伸べたくて。
いつの日かあいつが俺にしてくれたように、助けたかったのに。
「皇女殿下、心中お察ししますが、できるならば公然の場で罪人の罪を語ってはくれませんか?」
そう、辺境伯が言うと、エルは震えた声で。
「昨日、一人で街を散策しようと抜け出しました。それで知らない言語、私、とっても困りました。あの人、私にアルドリア語で話しかけてきました。それでお菓子をくれて、大丈夫って」
「エルっ!話しかけてきたのはお前の方だろう!?」
「黙れ!」
衝撃、頭に痛みが走り、視界がぐらぐらと揺れる。
剣を振り下ろした騎士がいて、剣の腹で殴りつけられたのだとわかった。
「そして、不安で、助けてくれて、嬉しかったのに。お屋敷と逆の方向に向かっていて、どこに行くか、私聞いた。そしたら答えてくれなくて、肩車されて、逃げ出せなくて」
なんでそんな片言を装うんだ?お前は言語理解で喋れる様になっているだろう?
「宿屋に連れてかれて、私をベッドに下ろすと両肩を押さえつけて。お腹を殴られて、服をっ…….ひぐっ…….うぅ……」
なんのことを言っているんだ?
昨日は俺たちは未来とか、エルが死ぬ未来になるとか、そう言う話をして、絶対に変えようって会話をしてたんだろう?
身を庇うようにエルが両肩を抱える。
光輝が俺を睨んで。
「この犯罪者め!追放されて、どうせ鬱憤が溜まってたんだろ!子供に当たるなんて、お前が追放された理由も知らないで!」
「光輝、俺は……」
お前なら信じてくれると思っていたのに。
「太郎、俺はお前をもっとマシなやつだと思ってたよ。強姦野郎」
「違う、俺はそんなこと、俺は追放されても、お前が何か考えるって信じて!」
地面を這いずって、必死に声を張り上げる。
「お前のことだから、何か意味があるんだって、何かしら企んでるだろうなって思ったのに……ずっと、子供の頃から一緒にいた俺よりも、泣いてるからって子供の言葉を一方的に信じるのか?」
「……何?」
「会ったばかりの子供のエルが、泣いてるからって、子供の頃から一緒にいるのに、俺を信じてくれないのか?話すら聞いてくれないのか?」
そういうと、なんでかぽかんとまの抜けた顔を浮かべて。
すぐに口角を上げて笑い声をあげ始めた。
「お前を気にしてたのも、声をかけたのも、全部演技だよ!全部先生に頼まれてやっただけで、本当にお前のことを気にしたことなんて一度もない、お前の信頼も、信用も、全部お前からの一方的な物なんだよ!」
「……え?」
「ずっとお前が目障りで仕方なかったんだ、グズでカスなくせに外人の可愛い子に下心で近づいて……ああ、そうか、アメリーもお前にとっちゃ性的に見る対象でしかなかったから、いなくても気づかなかったのか」
「…….」
「そもそも、気持ち悪いって、クラスメイト全員で思ってたんだ。お前が俺を尊敬して本気で信頼してくるのが気持ち悪かったよ。うざいオタクで、協調性もない。そして挙げ句の果てには強姦魔だ、救いようがねぇな!」
「……」
辺境伯が、黙り込んだ俺と光輝を見て、口を開く。
「話は終わったか?罪状は明白、外道の罪は分かりきった物だ、処刑が妥当だろう」
「では、ギロチンの用意を直ちに」
「ああ、民衆にも知らせておけ、午後に国家反逆罪で愚物が処刑されるとな」
処刑。
俺、殺されるのか?
……なんで?
俺、何もやっていないのに。
光輝を、信じていた俺が馬鹿だった。そりゃあそうだあいつはリア充だ。
信じていたとか言って俺もリア充って思ってたじゃないか。
一緒の話だ、あいつは俺が嫌いで、俺はあいつが嫌いだ、それで終わりの話だ。
けれど、けれどなんで。
「エルっ!お前は未来を変えるって、なんとかするって言って、俺を頼ってくれたじゃないかっ!?あの言葉は全部嘘だったのか!?」
「お前……この後に及んで気でも触れたか?未来とかつくにももっとマシな嘘があるだろう」
「世迷言を。とうとうイカれたか……」
エルは、何も答えない。
「エルっ!俺は、お前を、信じたのに」
「私、その人が何を言ってるか。全く分かりません」
「私ってなんだよ!お前ずっとわしって言ってただろう!?婆さんみたいな喋り方してたくせに、突然子供みたいに。それに言語理解があるだろ!普通に喋れるくせに……!」
「ひっ……」
エルは、光輝の背後に隠れる前、ほんの一瞬。
確かに、舌を出し、笑っていた。
誰からも見えなかっただろう、俺にしか見えないことをわかって。
「ふざけるなっ……!?まさか、まさか朝花屋で確認してたのも、このために……」
別の言語で喋ればどう聴こえるだろうか。
彼女の質問の意味も意図もよくわからなかった。
けれど今ならよくわかる。
もし俺がドイツ語で、片言の言葉を話せば言語理解は片言の日本語として翻訳する。
あいつはプロイセナ語とやらを話したと言っていた。
もしあの野郎が別の言語で、片言の言葉を喋っていたら?
この場にいる人間は、クラスメイトは片言の日本語と理解し、辺境伯は片言のアルグリア語として理解することだろう。
誰も彼もが俺をクズだとか、ゴミだとか言っていた。
俺は何もしていないのに、強姦野郎と、嘲って。
この感覚は覚えがある。
一方的に話が進んで弁明も聞いてもらえず、集金袋を盗んだと決めつけられたあの日。
結局アメリーが一緒にいたと、言ってくれたから大丈夫だったけれど、誰かが俺の上着のポケットにクラス全体の金を突っ込んで嵌めようとしたやつがいた。
犯人探しはやめよう、一方的に俺を犯人として攻め、怒鳴っていたのに、先生が一方的に話をやめたのを覚えている。
大多数が、悪意……いや正義と考え睨んで、叫んで、俺を糾弾している。
「なあ、死んだら元の世界に帰れるのか?」
「ーー死んだら死んで終わりだ。まあ最も観測する方法がない、帰れるかもしれないな」
辺境伯がそう吐き捨てた。
もう異世界なんて嫌だ、人が嫌だ、どれもこれも気持ち悪い。
元の世界に戻って、引きこもろう、もう他人と関わりたくない。
「結局逃げるのか」
「黙れ」
「いつもお前はそうやって逃げてばっかだ、集金の金も、実はお前が犯人だったんじゃないか?」
「黙れ」
「まあ元の世界に帰れたら、せいぜい贖罪でもするんだな。ロリコンの強姦野郎」
「黙れって言ってんだろっーー」
せめて一発殴りつけてやらなきゃーー
ドンっ、と背後から首を殴りつけられ、俺の意識は一瞬で刈り取られるのであった。
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まあやる気が出るってことは、主人公が苦しむってことなんですけど、まあ、ね?




