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罪人ならば

ギロチンは人道的な処刑道具として開発された。


人を殺すと言う行為は殺す側にも殺される側にも無論負荷が大きい。

なんせ命を奪うんだ、そんなこと平常に出来たら苦労しない。


人道的配慮として人を殺す道具を思案するのはなんたる矛盾だろうか。


けれど今だけは、そんな現実に少しぐらいは感謝していた。

ギロチンは刃が重い、その重量とともに振り下ろされる鋭利な刃物は首を刈り取り、その頭をバケツに落とすことだろう。


だから、怖くない、怖くないんだ。


俺は、今ギロチン、固定するための木材に挟まれた状態で、俺を見下ろすクラスメイトを睨んでいた。

両腕と頭が固定され、窮屈で、苦しい、息がだんだんとか細くなっていくのがわかる。

首が閉まってるわけじゃない、ただただ動けない窮屈さが、感情が首を絞めてくる。


死んでも、きっと、もとの世界に帰れる。


そう信じて、必死に息を吸い込んで、なんとか肺を空気で満たす。


「ーーこれより犯罪者、山田太郎の処刑を始める。罪状は国賓に対する性的暴行!及びその行為により発生する国に対する不利益、国家反逆罪の二つの罪で刑は死刑!」


俺を見下ろす、エルと、光輝の2人。

目があって、睨みつけているのを知っているのか、知らないのか。

2人して目を逸らして、何やら雑談を交わしている。


エルが、笑っているのが見えた、少女のように、女性のように笑っている。

光輝と2人で談笑している、乙女のようで、にこにこと笑っていて。

昨日の夜の、未来を思い憂いていた姿はまるで嘘のようで。


「嘘つきっ……!お前を信じた俺が馬鹿だった!」


いや、そもそも俺が馬鹿だったんだ。


なんでエルを信じてしまったのか、思い当たる節がある。


きっと劣等感と不満だ、子供だからと適当に理由づけして、俺は自分のどうしようもない感情をどうにかしようとしていた。


異世界に来て、興奮していなかったといえば嘘になる。

ラノベのように、異世界で戦い、人々に崇められ、感謝され、美少女たちに愛される。

なんの苦労もせずに楽ができて、異世界の力が手に入って、頂上の力で戦って。


それなのに。

『言語理解』なんて誰にでも使えるようなもので、本当にふざけるなと思った。

一応俺以外のやつは俺のおかげで言語理解が使えているーーそうわかったのは少ししてからだった。


それでも戦えるわけでもない俺ができるのは翻訳機と変わらない。


活躍し、賞賛され、人々に讃えられる友人らの陰で、俺は、俺だけが何もできなかった。


だから、エルに話しかけられた時は昨日とは違う明日になると興奮した。

やっと異世界のような展開で、クラスメイトたちのような活躍ができると思っていた。


「あ……」


そうか、俺はずっと主人公になりたかったんだ。

光輝みたいに格好良くて、アメリーみたいに強くて……。

何も気にしてないふりをしていた、どうでもいいと笑ってた。


だけどずっと主人公みたいになりたくて、羨んでいた。


未来を変えるとか、特別な存在とか、そういう展開になって面白くなると、充実すると思っていたのに、その手段を見知らぬ幼女に託して。


誰も信用しちゃ行けなかったんだ。

自分で何かをしようとしなかった俺が、主人公だとか、そういう話が舞ってくると願うなんて傲慢が過ぎるにも程がある。


どうでもいい話だ、もう俺には関係がない、今から死ぬんだ。


処刑人が、静かに俺と目を合わせて、ゆっくりと斧を振り上げる。


ギロチンは、縄を切り、落ちた刃が首を刎ねる。


両目を閉じた


今まで魔人とか、そういうのと戦って、光輝が殺すのを見てきた。

魔物だって命を奪ったし、そのツケが俺に回ってきたというだけの話で。

大丈夫だ、死ぬなんてこと、敵がやってきたんだから、俺にだって。


冤罪だろうと、もう、俺はどうでもいい。

信用も裏切られ、親友を失って、幼馴染のアメリーもいない。

エルにだって騙されて、もう俺にはどうしていいのかわからない。


もう生きていたくない、死んでしまいたい。


処刑人が、斧を振り上げるのがわかった。

息がだんだんとできなくなって過呼吸になってきて。


「ーー待って」


鼓膜を、凛とした声が響いて両目を開く。

聞いたことのある声だと思った、それもそのはずだ、エルの声だったのだから。


実物台、辺境伯や、クラスメイトたちに用意された席で手を挙げて、エルがこっちに向かってくる。


一体何を言いにきたのだろうか、冤罪への謝罪か?それともあざ笑うのか?いや、被害者アピールをするために泣くのか?


アイコンタクトで、処刑人が振り上げた斧を下ろし、待機するのがわかった。


「なあ、なんで俺を裏切ったんだ?」


最後に一つ、聞いておきたかった。

今のエルの目は俺に未来の話をした時と同じ、ハイライトの消えた暗い陰鬱な目だった。


「答える気もないし、わざわざ死人の耳に聞かせる必要もないじゃろう」


「猫被りめ」


「なんとでもいうがいい。わしはお主に宣言をしにきただけじゃ」


「宣言?」


「そうじゃ。もし今回わしが失敗したとしても、別の世界線ではお主のことを幸せにしてみせる。何十回だろうと、何千回だろうとやり直すから」


「なら俺からも言ってやる。俺はお前が大嫌いだ、このクソビッチ、いや、クソガキ。何でもかんでも諦めて達観したように語りやがって、お前のそういう喋り方が大嫌いだよ。極端なあたり、救いようのないガキンチョだ」


「大丈夫じゃ。死に際でそう言われる筋合いも理由もわしにはある。きっと幸せにしてやるからの」


何もわかってない、だからこいつが大っ嫌いだ。

俺の頬を軽く、痛みのないような強さで叩いて、踵を返し戻っていった。


去る背中に向けて、できるだけの声を張り上げて。


「絶対にお前の邪魔をしてやるっ!呪ってでもテメェの足を引っ張ってやる!その何もかも諦めたクソみたいな顔をぶん殴ってやる」


悪足掻きってわかってる。

クソみたいなことだってわかってる。


「俺は、お前の敵になってやる」


エルは、振り返らない。

処刑人が、斧を振り上げる。


風を切る音が響いて、刃は落ちた。








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