冤罪
計画は完璧だ、悪巧みは得意ではないけれど、やるだけやってみるだけだ。
宿屋の扉を開け放ち、俺とエルの二人は円卓を囲んで昼食を取るクラスメイトを見つけ、堂々と歩いていく。
光輝や、青山が俺の姿に気づき、眉間に皺を寄せる。
クラスメイトたちも、二人の視線の動きに気づいて凝視してくる。
見つめられるのはあまりいい気分じゃない。
要件は簡潔に、それでいてわかりやすく伝えなければいけない。
二度手間は面倒だからな。
クラスの連絡でも無駄にカタカナ言葉やら省略したりで理解できない奴もいるけど、面倒なだけだ。
光輝は一人立ち上がって俺の胸ぐらを掴む。
「……おいおいいきなり物騒だな」
「違和感に気づかないのか!」
「?……髪でも切ったか?」
何をそんなにぶちぎれてるんだこいつは。
俺を追放した時とは違う、今回は本当にプッチンと頭に血が上って怒っている。
勇者の異常な筋力で持ち上げられ、体が宙に浮く。
足がつかない、シャツなどに圧迫された頸部が悲鳴を上げている。
「アメリーがまだ帰ってきてないんだ!そんなことにも気づかないのか!」
そう言われて、初めて俺は当たりを見回す。
クラスメイト全員が珍しく同じ場所にいる。
普段は各々好きなことをして小さなグループで動くことが多いのに。
そしてその中にアメリーの姿は無かった。
「でも、アメリーのことだから大丈夫だろ?」
「初雪さんがバフの効果が勝手に切れたって、意識を失っているって言ってるんだ。何かあったに違いないっていうのにお前は子供連れて……!いないことに気付きもしないなんて!」
胸ぐらを掴まれたときに、尻餅をついて床に落ちたエルは両目を見開いて、ぽかんと口を開けて座っている。
お前のせいだ、と光輝は俺を睨みつけ、腕に力を加えていき、ゆっくりと首が閉まっていく。
まずい。
息が、できない。
くるしい。
必死に息を吸い込もうとするけれど、締め上げられては通るものも通らない。
「コウキ……お主」
狭まる視界の端に、光輝の袖を引くエルの姿が見えた。
酸素不足に陥って、ゆっくりと意識が落ちていく、暗くなる視界の中で、エルが俺を指差しているのが見えた。
何かを言っているのだろうか、説得してくれてるのか?
段々と閉まる力が弱まって、パッと手を離せば地面に足から落ち、バランスを取れずに地面に倒れ込む。
一体何が起きているんだ。
光輝は癇癪でこんなことをしないはずだ、何をしても、それでも、理不尽を嫌ってる。
だから、きっと。
俺は一体何を擁護してるんだ?いや、俺は一体何に言い訳しているんだ?
追放されて、親友から裏切られて、なんで俺はいまだに光輝を擁護してるんだ?
だめだ、酸欠で、思考が悪い方向ばかりに向かう。
光輝を信じると決めたんだ、コロコロと考えていることを考えるのはよろしくない。
やっと狭窄した視界が元に戻り始めて、俺を見下ろす光輝とエルの姿がくっきりと見えた。
どこか様子がおかしい、エルは何か泣いているし、光輝は俺をゴミを見る目で見ている。
「……このクズめっ!」
まっすぐと蹴りが、股間へと飛び込んで。
「ひぎっ……あああああああぁぁぁっ!?」
「こんな子供を強姦するなんて信じられない……確か、お前の兄貴ロリコンだったよな、お前も同類かよ」
痛い、死ぬほど痛い。
思考が、もう何も考えられない。
股間に走る激痛が脳を焼き尽くすようで、もう何もわからない。
「私、助け、欲しかったら、股、開け、言われた」
片言の日本語。
いや、正確には言語理解を通した、また別の言語。
けれど、どちらだろうと、今の言葉が、エルの口から出ているということに変わりはなくて。
静まりかえっていた宿屋が、騒がしくなるのがわかった。
鎧の擦れる音、たくさんの人が一斉に宿屋に入ってきたのだろうか。
股間を押さえて、必死に身を守るように身を縮める頭を、光輝は容赦なく蹴りつけた。
床に落ちていたガラス片に当たって、頭が切れる。
皮膚が軽く切れただけだけれど、血が流れ、右目に垂れるのがわかった。
拭うように手で擦り、涙をこぼし、両目を開き直せば、視界いっぱいの騎士がいて。
「ヤマダタロウ!貴様をアルドリア皇国姫殿下への暴行で逮捕する!」
信じられない言葉が、確かに鼓膜に叩きつけられた。




