新入職員は元セクシー女優
翌日、選定所の入り口総合受付に1人の女性が現れた。
「えぇっと、受付窓口…どこでもいいのかな?」
複数ある窓口に目配せをしながらおどおどした様子の女性。
その女性はスーツに身を包んではいるものの小柄な身長と幼顔から大人として判断されるかどうかは際どい風貌だった。
やがて最寄の受付窓口に歩み座る職員に声を掛ける女性。
「あ、あ、あの。本日からこの選定所でお世話になることになりましたカレン=サンジョウと言いますが、ミラージュさんという方はいらっしゃいますでしょうか?」
その女性は以前ある業界の祝賀パーティにて主役を務めていたカレン=サンジョウという女性だった。
「あぁ!君が新人の子ね?ミラージュさんだね?ここに呼ぶからそこの椅子に座って待ってて」
「は、はい!ありがとうございます」
”カレン”と申し出た幼顔の女性は指示通り椅子に座り数分待ち続けた。
するとそこにミラージュが現れる。
「やぁお待たせ。君がカレンちゃんだね?」
「あ、は、はい!」
立ち上がりミラージュと向き合うカレン。
「私が管理部のミラージュだよ。宜しくね」
「よ、宜しくお願いします!」
「んじゃ早速こっちに来て」
「は、はい!」
緊張した面持ちでミラージュについて行くカレン。
2人が辿り着いた場所では自席で事務作業をするザキルの姿があった。声を掛けるミラージュ。
「ザキル、連れて来た。この子だ」
「あぁ?」
振り向いたザキルはミラージュの横に立つ小柄な女性に目を留める。
「おいおい、マジかよ?こんなちびっこい小娘なのか?」
「あぁこの子だ。初めてで緊張してるんだからいじめるんじゃないよ」
どこか困惑した表情のザキル。そんなザキルを新人のカレンはまじまじと見つめていた。
「あ、あの。宜しくお願いします」
深々と頭を下げるカレン。ザキルは特に返事を返すこと溜め息をついた。
「そこに座わんな」
「は、はい!」
カレンはザキルの指示通り近くにある椅子に腰を下ろした。するとミラージュがお暇を告げる。
「それじゃ私はこの辺で。カレン、何か困った事があればいつでも言いに来な」
「は、はい!ありがとうございます」
こうして2人きりになったザキルとカレン。
ザキルは持っていたボールペンでコリコリと頭を掻きながら口を開く。
「ったーく。ここが中坊の入所も認めてるなんて知らなかったぜ」
「え?あ、あの。私23ですけど」
「あぁそうかよ。とてもそうは見えねぇがな」
「あ、えへへ。よく言われます。でもそのお陰で前の仕事では結構役に立ったんですよ」
「前の仕事ぉ?」
「はい。先月までセクシー女優してました」
「あ…?」
ザキルは目を見開いたまま止まってしまっていた。
見た目とはギャップ満載かつ想定外の発言に肝を据わらすザキルも流石に驚いた様子だった。
「セ、セクシーって、あの、つーかAVか?」
「はい、そうです」
「…そ、そうかよ」
ザキルはこれ以上の質問を繰り出すこと無くひとつ咳払いをし話の方向性を変えた。
「ま、まぁいい。で?ココの仕事はどれ位把握してる?」
「はい。頂いた資料は全部目を通しました。けど、内容が多くてちょっと自信なくて…」
「…ならまぁ説明する。復習がてら聞け」
「はい!ありがとうございます」
引き続き素直な返事を返すカレン。
ザキルはデスクの上に立て掛けてあるファイルをひとつ取り出しページを開きながらここ”人物価値選定所”の仕組みと業務内容を説明し始めた。
「今の世の中は全ての人間に点数を付ける。平たい話が有能な奴にぁ高得点つけて然るべき役職就かせて社会貢献させる。使えねぇクソ野郎は点数下げて罰を与えるって仕組みだ」
「な、何かちょっと乱暴な気が…。資料では”反省や向上が必要な人には減点処置をすることで自分を見直すきっかけとしてもらう”って書いてあったと思うんですけど…」
「解釈は好きにしろ。どっちにしても同じことだ」
「は、はい…」
「統一かつまっとうな基準の元で人間を再評価して国をよくする事が務めだ。俺達の選定でそいつの人生が決まる。腹決めて仕事しろよ」
「は、はい!」
「お前がこれまで何して評価されてきたかは知らねぇが、ウチに入れんのは人物価値85点以上の人間だけだ。誇りに思え」
「い、いえいえ。そんな、私なんか」
「俺達下っ端の仕事は主に認定通告、警告、下調べ、事情徴収に書類整理。言わば現場と雑用ってやつだ」
「実際に選定はしないんですか?」
「それは上の連中、レベル2以上がやる。俺達レベル1は雑用だ。後で詳しく説明する」
「はい!」
「制度の詳しい概要だが、まぁシンプルな話だ。そいつの社会貢献度や道徳度、経歴なんかを総合的に評価して点数を付ける。自己申告制度で本人が書類にまとめて出す方法と俺等が独自の調査で査定する方法がある。数値にならない"社会的モラルや周囲の評判"なんかも査定対象ってのが面倒なところだ。まぁ人としての品性とマナーが土台になけりゃどんなに金を生み出しても意味ねぇって思想らしいがな」
「ふむふむ」
「あぁそうそうもうひとつ。第3者からの申告なんかも査定対象になる。一応な」
「第3者?」
「あんまりいいことに使われることは無ぇ。例えば”○○に悪口を言われた”だの”あの功績は自分のお陰なのに上司に横取りされた”とか。そういった悪事を本人が申告する訳無ぇだろ?だからこういう制度を作る事で”人から恨まれない様生きよう”って思わせるのが裏の狙いだ」
「なるほどぉ~」
「ま、これは表向きな制度だけどな」
「表向き?」
「悪口ひとつ程度いちいち相手にしてたらキリ無ぇだろぉが。それにその報告の信憑性だって調べようが無ぇ。そんなモンが査定に影響することなんて事実無ぇんだよ」
「…なら、無くしちゃえばいいんじゃないですか?」
「”もしかしたら査定に影響するかもしれねぇ”って心理的後ろ盾だよ。その制度はあるだけで効果があるってこった」
「なぁーるほどぉー」
「何か聞きてぇことあるか?」
「はい!」
勢いよく手を上げるカレン。
「何だ?」
「えっとー。その得点制度っていうか、これをしたら何点とかって決まってるんですか?例えば電車でお年寄りに席を譲ったっていういいことしても、それをすごくいいと思う人もいれば、そこまで評価しない人もいると思うんですけど」
「その辺りに関しちゃ上の連中が基準をデータベースにまとめてるんだとよ。どの道査定しねぇ俺達にとっちゃ関係無ぇ話だ」
「そ、そうなんですね。すみませんでした!」
「他には?」
「えーと。じゃあ、ザキルさんって前は何されてたんですか?」
「あぁ?」




