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転生おばあちゃんの幼馴染みは勇者ちゃん  作者: こう


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7/20

7 食堂のありがたみ


「あー、ここもあと数日かぁ。親父さんの味がもう味わえないのは辛いなぁ~」

「あらまあ、マルコスさんってばお上手。父を褒めて頂きありがとうございます」

「ほんとありがたいし美味いし。俺は一年間ルーベンの手料理恐怖を味わうかと思っていたよ」

「おい馬鹿やめろ」


 聞く所によると、ルーベンさんは野菜をドロドロに溶かす天才らしいわ。

 原因は火加減ね。几帳面なのに、いつも強火でじっくりゴトゴト煮込んでしまうの。強火なのに焦がしたことはないんですって。必ず溶けるらしいわ。それはそれで不思議よね。

 ちなみに去年の班員残り八名、全員がお貴族様で、料理など野営の携帯食料もどき。つまり硬いパンをお湯でふやかしながら食べるレベルね。


 そんな食生活が一年続いたら、任務どころではないわよね。


 トリスは田舎町だけど、別にトリスだけが田舎町じゃない。他の町では、食堂が全くない場所だってあるらしいわ。

 その場合、騎士たちは自分で食事を何とかするしかない。

 家政婦を雇うことも可能だけど、何年か前に女性を巡ったトラブルが起きて人を雇うのにかなり厳しい条件になったらしいわ。


「次の奴らにもしっかり言っとくから、これからも巡回騎士をよろしくね」

「ふふ、こちらこそご贔屓よろしくお願いします」


 食事を提供と言っても、うちは食堂だ。しっかり代金は頂いている。

 だから彼らがこんなふうに感謝を言う必要はないんだけど、祖父が彼らのために始めた食堂だと騎士団ですっかり周知されているので、割と任期初めの初対面だろうと、巡回騎士たちからの好感度が高いわ。とてもありがたいことよね。

 ……祖父も父も食堂の経営でだいぶ頭を悩ませ続けていた様子だし、騎士たちのためにあれこれ動き回っているのが好印象なのかしら。


 椅子に座ったマルコスさんは、姿勢よく座っているルーベンさんと対照的に肩を回してからテーブルに突っ伏した。


「あー面倒くさいなぁ! いっそ三年くらい滞在したほうが引き継ぎし甲斐があるのに!」

「引き継ぎ内容が少なくて楽だと言っていたのは丁度一年前か?」

「引き継ぎ量が少なすぎて書類を作るのが面倒くさい! 口頭で良くない!?」

「量は関係ない。ちゃんと形に残せ。見逃しがあったらどうする」

「見逃しがある量でもなくないかー!?」


 田舎町はとても平和なので、去年も事件などなく穏やかに過ぎた。

 基本業務以外で引き継ぐことなど皆無ね。

 町の内部の問題は、自警団の管轄だし。


 お父さんから本日の日替わり、鶏肉のソテーを受け取り運ぶ。騎士の皆さんは身体が資本なので、是非たくさん食べて欲しい。


「お待たせしました。本日の日替わり鶏肉のソテーです。ソースは二種類で、玉ねぎを炒めたものとトマトを加熱したものがあります。是非どちらも試してみてください」

「ありがとう。今日も美味そうだな」

「アニシアちゃんありがとう!」

「ふふ、どうぞ召し上がれ」


 グダグダしていたマルコスさんが姿勢を正した。

 食べる時は綺麗な所作になるの、流石お貴族様と感心するわ。お貴族様なの、マルコスさん。ちゃんとお貴族様なのよ。

 口ひげも整っていてとてもダンディーなのに、言動が高校男子みたいなのよね。男の人っていくつでも少年みたいで、不思議だわ。まあ、女の人だって、いつまでも少女の心を持っているけれど。

 食事の時、彼らは喋らない。

 ただ、一口食べる度に目を細めて嬉しそうな様子から、お口に合った様子を察することが出来る。

 それを嬉しく思いながら、私は空いているテーブルを拭きに行った。


 あっという間に食べ終えたわ。

 テーブルを拭き終えて顔を上げたら食後だったわ。


 男の人って食べるの、凄く速いわよね。セリオも早いのよね。お父さんはお母さんの話を聞きながら食べる所為かゆっくりだけれど……。


 食器を下げるために近づくと、マルコスさんと目があった。

 ちょいちょい、と指を曲げて呼び寄せられる。

 何かしら。

 追加注文もありえるので、素直に近づいた。

 首を傾げながら近づけば、マルコスさんは唐突な質問を投げてきた。


「アニシアちゃんって彼氏いる?」


 セクハラかしら?


 私が何か言うより早く、対面に座っていたルーベンさんの拳が唸った。くるくるした金髪に垂直に振り下ろされた拳。脳天直撃。マルコスさんはテーブルに突っ伏したわ。

 うん、調理場からお父さんが飛んでくる前だったからよかったわ。


「お前はいきなり何を言いだしているんだ…! すまないアニシア嬢。無視してくれ」

「彼氏はいませんねぇ」

「アニシア嬢!?」


 しつこく聞かれるのも面倒だから答えたのだけれど、ルーベンさんには驚かれてしまったわ。

 これは私に彼氏がいないことに驚いたのかしら。

 成人を過ぎて二年経ったけれど、異性とお付き合いしたことはないのよね。お父さんは満足げだけど、お母さんはちょっと心配そうなの。


 別に、モテないわけじゃないと思う。異性から花を貰ったことも、プレゼントをもらったこともあるから。

 アピールを受けているけど、私がそれにお応えできないだけ。


 だって私は食堂の一人娘。

 両親の後を継ぎたいから、私がお嫁に行くつもりはないの。

 出来れば食堂を継いでくれる人と一緒になりたいわ。


 残念ながら今のトリスには一人っ子が多くて、お婿に来てくれる条件に合う候補がなかなかいないのよね。

 悩ましいわ。


目を逸らした瞬間食事が終わっている衝撃。

作者はどちらかというと与える側です。

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