4 幼馴染みの少女
挨拶を交わしたエメリナは、にっこり笑った。
「私今日も元気よ! アニシア父のご飯を食べたらもっと元気になるわ!」
「あらまあ、嬉しい。お父さんのご飯はトリス一よ」
「知ってる!」
ニコニコ笑いながらカウンターに座る少女はふわふわの金髪に空色の丸い目。外見は全体的に、ふんわりと砂糖菓子のように愛らしい。
エメリナは、世話になっていた老夫妻が亡くなってからトリスのはずれで一人暮らしをしている。
掃除洗濯は問題なく出来るのだが、どうも調理だけは失敗続き。潔く作るのを諦めて、この食堂に通うようになった。
「アニシア父とアニシア母もおはようございます!」
「おはよう」
「おはようエメリナちゃん。今日の賄いは厚焼き玉子のサンドイッチだよ」
「いつもありがとうございます。頂きます!」
エメリナが深々と、カウンターに額がつきそうなくらい頭を下げる。それを見て両親はなんてことないさと笑顔で首を振った。
私の両親は、何かと不憫な娘の親友を気遣って、朝ご飯は賄いを出す代わりに代金不要として対応してくれている。最初は断っていたエメリナだけど、昼も夜も外食にすると食費が馬鹿にならないので、最終的には折れた。
自炊を頑張ったのだけれど、ボヤ騒ぎになったから諦めたのよね。
食材からあんなに火柱が上がるなんて思わなかったわ。
私のついでに用意してくれていた賄いを、エメリナに持って行く。その隣に、蜜柑に似た酸味のある果物を追加した。
「いつもお疲れ様。これも食べて頂戴」
「い、いいの……? これ賄いじゃないでしょ?」
「ふふ、動き回るのにこれだけじゃ足りないでしょう? 私はエメリナがお腹を空かせて動けない方が困るわ」
微笑めば、エメリナが嬉しそうに抱き付いて来た。私より背が高いエメリナに、すっぽり抱きしめられる。
「アニシアをお嫁にしたい……!」
「エメリナが貰ってくれるなら、行き遅れにならないから安心ねぇ」
「アニシア~!」
エメリナは私の一つ年下の十七歳。
この世界での成人は十六歳で、日本的な感覚でいえば、二十歳を過ぎた頃。あら? 十八に変わったのだったかしら? そのあたり、曖昧だわ。
とにかく、医療の発達がかつての世界より遅い所為か、この世界での平均寿命は六十から七十。寿命も短いから成人扱いは早いし、婚期も早い。田舎町なので人も限られていて、成人したらすぐ年の近い者同士で結婚して家庭を持つことが多いわ。
晩婚が進んでいたかつての世界とは違い、こちらでは二十歳になれば行き遅れ扱いになってしまうの。勿論人によって事情があるのだから、二十歳全員が嫁に行っているわけではないけど。
ちなみに男性は、稼ぎの問題もあって二十代からが本番みたいね。
「二人とも嫁には出さないぞ……!」
「トニョったら仕方がない人ね。エメリナちゃんにお婿に来て貰えば解決じゃない」
「その手が……!!」
感動した様子のお父さんだけど、エメリナは女の子なので、その手は使えません。
残念ながら、この世界で同性婚は認められていないのよね。
エメリナは可愛い。
外見は砂糖菓子のように甘い。守ってあげたくなるような可憐さで、庇護欲の湧く容姿をしている。結婚適齢期のトリスの若者の注目をしっかり集めているから、行き遅れるなんてことはないはず。
だって―――。
私に抱き付いていたエメリナが、やっとカウンターに座り直したと同時に食堂の扉が開いた。
「エメリナ」
……食堂に来て、第一声が挨拶でもなく、お客のエメリナを呼ぶ声に笑ってしまったわ。
現れたのは、もう一人の幼馴染み。
可愛い可愛い、エメリナのことが大好きな男の子だった。
のんびりキャッキャする娘達に癒されている両親。
暴走する父を止めない母。




