39 早朝の密談
アニシア視点。
セリオから相談されてすぐ行動した私は今、エメリナのお家で朝ご飯を作っている。
昨夜、夜ご飯を持って来たのだけれど、お疲れのエメリナを見て限界を悟ったので、早々に寝かし付けたの。ぎゅっとしてよしよししたらすぐに寝てしまったわ。本当に疲れていたのね。
ちなみに現在時刻は日の出。エメリナはまだ眠っているわ。
昨夜持って来た、朝ご飯の材料を処理しながら、昨夜のエメリナを思い返す。
――大丈夫と、言いそうな顔をしていたの。
私が心配したら、大丈夫だよ、と誤魔化してしまいそうな顔。
結局、エメリナが気にしている問題点はわからなかったけれど、あの様子からして私にも言えないみたいだったわ。
だから私は聞き出すことよりも、限界の近いあの子を休ませる選択肢を選んだ。
いいのよ、別に。全部を私に話さなくっても。話して落ち着くならもちろん聞くけれど、話す方が苦痛なときだってあるのだから。
事情はわからないけれど、エメリナが健やかならそれでいいわ。
「うーん……おはようアニシア~」
「おはようエメリナ」
寝癖をつけたエメリナが、寝室から顔を出す。私は食堂があるから早起きだけれど、エメリナも自警団でお仕事があるから早起きよ。眠るのが遅くても、早く起きて出かけないといけないのは辛いわね。でも仕事だから仕方がない……とは言えないわ。
「昨日はなんか、いつもよりよく眠れた……」
「それは良かったわ。でも睡眠時間は短いから、その内ちゃんとお休みの日を作らないとダメよ」
「ううー……」
そう、今のエメリナに、休みがない。
本人が休もうとしないの。
「昨夜、魔力については使い心地が良いって言っていたでしょう?」
「はい」
「悩ましいのは人間関係なのね?」
「うん」
「それなら、一度立ち止まってちゃんと解消しないといけないわ。それが難しそうなら、別々に行動するよう調整しないと。あなたがちゃんと休める時間を貰わないと、倒れてしまうわよ」
「ごもっともです」
昨夜はギリギリすぎてできなかったお小言を口遊みながら、朝ご飯をテーブルに並べる。温かなスープと、温めたパン。エメリナが常備している牛乳よ。
「エメリナが言えないようなら、私がテオさん達に進言するわね」
「大丈夫だよ、おかげさまでスッキリしたし。ちゃんと言えるよ」
苦笑したエメリナが、恥ずかしそうに頭をかいた。
「えーとね、アニシアの言葉通り、私、らしくなかったと思う」
もじもじと指を絡ませて、椅子に座る。私も自分の分を用意して、向かい合って座ったわ。
「原因は言えないけど、ストレスが溜まってた。ずっと原因を遠ざけようと必死だったけど、それこそが思い込みの坩堝というか……気にすれば気にするほどストレスでさ。考えすぎて、どうしたらいいかわからなくなってたんだけど」
言って、牛乳を口にする。ごくり、と喉を潤して、エメリナは笑った。
「そもそも今、恋愛している暇ないって思い至った!」
「あら?」
――今、ストレスの話をしていたはずだけれど。
もしかして、エメリナのストレスって、恋愛事だったのかしら?
……あ、あら? セリオを避けていた原因は恋愛事じゃないって言っていたはず……?
「それどころじゃなかった。第一目標があるのに、それを放って進展するわけがなかった。私、やりたいこととしなくちゃいけない事、混合してた」
「そう、なの?」
「うん。私が避けてたけど、別にしたくないならしなくていいって気付いてさ」
ええと、セリオと恋愛をしたくない……という話ではないのよね? 避けていた理由、違うものね?
でも進展させる気もないのね……している暇はない、だから、嫌いとかではないようだけれど。
「その……第一目標は、私が聞いてもいいこと?」
「問題なし! なにせ、アニシアのことだし!」
「まあ、私?」
「うん! ――絶対、アニシアのこと、守るからね!」
「あらまあ……?」
握りこぶしで力説するエメリナに、私はゆっくり首を傾げる。
……私の怪我、そんな決意をされるくらい、エメリナのトラウマになっちゃったのかしら……?
本人は本当にスッキリしたらしく、元気よくいただきますと挨拶をして、温かなスープに手を伸ばしていた。
美味しい! と笑うエメリナに微笑み返しながら、そっとセリオに謝った。
ごめんなさいセリオ。
エメリナは元気になったけれど、あなたはやっぱり前途多難よ、と。
気にしても仕方がねえー!!ってなった前向きエメリナ。
ちょっとは気にしてあげて……?なアニシア。




