38 深夜の密会2
セリオ。
エメリナの幼馴染みで、自警団に所属する火属性の魔力を持つ十八歳。
頼りになる兄貴分で面倒見がよく、幼い頃から一緒に過ごしていたヒロインに恋心を抱いている。
――以上が「セリオ」の簡単なキャラ設定。
わかっていたのに。知識として知っていたのに、アニシアに言われるまで知っているだけだった。
ヒロインって、私のことじゃん、と。
情報として理解したし、へーそうなんだと思ったけど、現実に落とし込んで認識していなかった。現実味がなさ過ぎて、ちゃんと考えていなかった。
(だって今までのセリオの行動を思い返してみても……心配性だな~とか子供扱いしてくるな~って感想しか抱けない……!!)
中学男子の記憶が「その距離感、好きな子にだけだよ……」と囁いた気がするが、エメリナからすると昔からの当然の距離感。何も響かない。
「あらまあ」
頭を抱える私を見て、アニシアが困ったような声を上げた。
「私、余計なことを言ってしまったかしら?」
「ううん……その、知ってはいたんだよ。実感してなかっただけで……」
知ってはいたので、アニシアの発言がなくても、どっかの拍子に自覚したはずだ。セリオと一緒の時に自覚する展開にならなくてよかったと思うことにしよう。
流石サポートキャラアニシア。タイミングが絶妙。
「それじゃあ、セリオや……オスワルドさんを避けていたのは、別の理由なのね」
(その通りだけど、なんでかは言えない……)
私が彼らを避けているのは、攻略対象……しかも、ゲームの設定的に、ヒロインが攻略する枠組みに入っている【火】と【地】属性だからだ。自警団だけじゃなく、騎士団の方の同属性からも一歩引いて接している。
もにゅっと口を閉ざす私を見たアニシアは、柔らかく微笑んだ。
「言いにくいこと、なのね?」
「……うん」
無理に聞き出すアニシアではない。そうわかっていたから、つい素直に頷いた。
案の定、アニシアは微笑んで、綺麗に梳かした私の髪を……というか頭をそっと抱き寄せた。
柔らかな感触は薄着だからいつもよりダイレクト。私にとっては慣れた感触だけど、中学生男児がガタッと立ち上がった。座ってろ。どこに座ってたかしらないけど座ってて。
「言えないならそれでいいわ。理由は、いいの。でも一つだけ、あなたに言いたいことがあるの」
「なに?」
「エメリナ、あなた今、大丈夫じゃないわ」
「――……」
「あなた今、大丈夫じゃないの」
ぎゅ、とアニシアの腕が、宥めるように私の頭を撫でた。
押しつけられた耳が、アニシアの心音を拾う。ダイレクトに――力強い命の音を届けてくれる。
「私に言えないこと、皆に言えないこと、何かあるのね。あなたを急かしている何かがあるのね。それが光属性に関係しているのか、別のことなのかわからないけれど……あなた、頑張りすぎているわ」
アニシアはどこもかしこも柔らかい。
包み込むような腕も、体も、声も、眼差しも。ふかふかの、洗いたてのお布団みたいに柔らかい。柔らかくて、お日様の匂いがする。
「言えなくても、頼れる所は頼りなさい。言いたいことはちゃんと言いなさい。遠慮しないで、伝えたいことは伝えて。全部背負い込まないで、私達を巻き込んで、それでしっかり休みなさい」
「でも何も言えないのに巻き込むのは」
「まあエメリナから、そんな殊勝な言葉が出てくるなんて」
クスクス笑ったアニシアは、ぎゅうっと力一杯私を抱きしめた。
アニシアは意外と力持ちだから、本気を出されると結構痛い。痛いけど、だからこそアニシアの本気がよくわかる。
「いつだって走り出して、私達を引っ張ってくれるのはあなたじゃない。私達は、向こう見ずでも真っ直ぐに、前を向いているあなたが大好きよ」
だから、とアニシアの唇が、絆創膏に覆われた私の額に降ってきた。
「あなたが前を向けるように、ちゃんと休憩しなくちゃダメよ。前を向いているあなたが大好きだから、ちゃんと休んで元気になって」
ね?
見上げた先では、聖母マリアの化身が無償の愛を持って私を見つめていた。
「ばぶう……」
「あらまあ?」
思わずオギャった私は悪くない。
へー、ヒロイン(私)のこと好きなんだー。
で終わっていたエメリナ。前世の記憶と今世の自分が混ざり合っていない弊害。




