36 知っている側の悪足掻き
エメリナ視点です
「うわあぁあ疲れたぁ~!」
私は防具も外さず、ベッドの上に身を投げでした。
汚れているが、そんなの気にする暇もないくらい体に疲労が溜まっている。
「実際のレベル上げってこんな感じなのかぁ……うう、連日魔物退治は辛い……」
しかも目的が光属性の能力についての検証なので、本当に毎日戦い続けている。
いや、私が魔力に慣れる事が第一目標だけど、騎士団は私……というより、光魔法の検証にご執心だ。
特に、地属性の魔道士、アティリオ。アイツは隠すことなく私をモルモット扱いして過激な検証方法も口にするので、一緒に来た自警団員を必ず怒らせている。
そんな感じなので、毎日毎日、空気が悪い。
(……これは、ゲームの流れに逆らって「属性同士」を連れて行かないから、かなぁ)
トラキスは恋愛ゲームだが、戦闘要素がある。しかし主役は恋愛要素なので、戦闘描写はとても簡単だ。
六つの属性の配色、数字の書かれたカードで戦う。
手札は六枚。一度に二枚選択できて、その数字の合計分、相手にダメージが入る。同じ色、色が違っても同じ数字だとダメージが二倍だ。
そして攻略キャラは、それぞれの属性の配色を持つ。ヒロインは町の外に出るとき、必ず一緒に行動する「属性組」を選ぶのだ。一緒に行動する属性によって、手札に現れる「属性組」の配色が出現しやすくなる。
――だから、一緒に行動する攻略対象は「同じ属性」でなければならない。
(なんてゲームの設定に縛られたくないと、むしろ好感度を上げたくないからバラバラに選んでいるわけだけど……むしろその所為で、どんどん険悪になっていっている気がする!)
何故なら「属性組」にはそれぞれ因縁がある。ある意味感情の行き場所、落とし所があるのだ。一番わかりやすいのは地属性の兄弟。彼らはいがみ合いながら、お互いの事情を理解している部分もあるので「仕方がない」と言葉を呑み込む事がある。もしくは「お前はそういうヤツだよな」と許容もできる。
しかし、異なる属性組だとそれがない。
相手の事情も知らない、ただ気に食わないだけの相手……しかも設定された「好感度を競う相手」でもないので、ぶつかり合ってもどちらかが妥協し、諦め、ただ空気が悪くなる。本気でぶつかろうとしないのだ。
セリオとレオカディオが一緒だとバンバンやり合うけど、セリオとベニートを一緒にしても何も起こらない。人によって向き合い方が変わるのは、人間なのだから当然だが、ゲームを知っている身からすると選択肢を間違い続けているバグのように感じてしまう。
(いや、でも、現実的に考えると、違う属性の人。前衛と後衛を考えて連れて行った方が都合良いし……)
火属性連れて行ったら全員前衛だし!!
ゲームで、かつカードゲーム仕様だったからこそ気にならなかった部分だが、現実的にトラキスの戦闘方法……というか人員選択は、どうしてそうなった? といいたくなるほど偏っている。
ちなみに水属性はどちらも引率役として交互に着いてくるので、勝手に好感度が上がる。数値は半分以下だが勝手に上がるので攻略はチョロいかと思われるが、代わりに選択肢を正解しても他と比べて半分しか上がらない。
が、ある一定を過ぎるとガッと上がるので、やっぱりチョロい。
人員として彼らを選ぶこともできるが、その場合の引率は前期の班長シリノだ。
何となく、ミニイベントっぽい会話はちょくちょく経験している。あれだ、攻略対象の導入部分。
しかしイベントだと思ったら逃げているので、未消化扱いになると思う。
(……こういうの、とってもストレス!)
私はぎゅっと顔を顰め、天井を睨んだ。するとお腹がきゅるると鳴る。
「お腹空いた……」
今日はちょっと強い魔物と戦って、オスワルドの所で治療を受けてから帰ってきた。だから、体力も消費しているし、まだ夕飯も食べていない。
私は台所に立ってはならないと厳命されているので、食べるなら食堂……アニシアの家に行くか、広場の屋台で購入しなければならない。
しかしもう夜遅く、どちらもしまっている時間帯だ。
(何かあったっけ? 固くなったフランスパンがあったはずだけど、あれ食べられるかな……)
釘打ちできそうなくらい固かった。多分あれ、育てていけばオモシロ武器になるヤツだ。このゲームにそんな武器なかったけど。
ひもじい気持ちで起き上がり、戸棚を確認しようとして……扉をノックする音に気付いた。
「どなたー?」
言いながら、扉を開く。
いつもの事だったけど、脳裏を中学生男子が「警戒心皆無か?」と呟いて通り過ぎていく。イラッとしたけど、それはそう。
しかし、扉の外に立っていた相手を見て仰天した。
「アニシア!?」
「こんばんはエメリナ。今日もお疲れ様、ご飯を持ってきたわ」
そこには、布で蓋をしたバスケットを持ったアニシアが、寝間着にショールという魅惑の格好で立っていた。
(えちょっと待ってアニシアこの格好でこの時間にここまで来たの谷間が見えるよ危ないよそりゃすぐそこだけどそういえば昔からこうして行き来してたわこの世界の防犯意識どうなってヒャッホウ公式からの非公開スチル解禁だァ――――!?)
「煩悩退散!」
「エメリナ!?」
通り過ぎていった中学生男子がダッシュで戻って来たので、エメリナは自分の額を壁に打ち付けて退散させた。
ゲーム説明が難しいぜ。




