34 実は?
トコトコ歩き出した私に、苦笑したダニエラちゃんを警戒するルイスが着いてくる。
「あ~……もしかして、他の人がこういう態度だったら同じコトするの? ほら、今期のボクら、敵が多いでしょ? 手が出ない代わりに口が出るよ」
「流石に年上は止めないわ。もう自己責任だもの」
「あー……ならボクだけかぁ」
ダニエラちゃんは黒髪を揺らし、困ったように首を傾げた。
「お姉さん、おっとりしているから心配だなぁ。こういう触れ合いって、相手が勘違いしちゃうよ?」
「勘違い……子供扱いされているって? 子供ねえ、って思いながらしているから、勘違いじゃないわよ?」
「そっちじゃないけど、完全に子供扱いなんだ」
「だから大人にはしないのよ?」
「あー、おっとりしてるけど、それだけじゃないんだねお姉さん」
しっかり窘める意味でやっているので、私にこれをされているならまだまだ子供よ。
でもそれ以外の勘違いって何かしら……あ。
「もしかして、私が触れることで、気があるって思われるのかしら」
「あ、よかった通じた」
「トリスの子達はずっと一緒だから気付かなかったわ。それなら、新しく会う子達には気を付けましょう」
「こいつにももうやっちゃダメだよ、アニシア」
苦虫を噛み潰したような顔で、ルイスがダニエラちゃんを警戒する。
「あらまあ、何故? 女の子ならよくないかしら」
「あー……まあいっか。気付いている人は気付いているし」
食堂に辿り着いて、カウンターに食材を置く。厨房の奥で食器を整理しているお母さんが見えたわ。お父さんは休憩中ね。
なんて思っていたら、ダニエラちゃんが私に抱きついてきた。
「ちょ、おま――!」
「勘違いする人が多いけど、ボク、お・と・こ・ダヨ」
「あら」
触れ合うダニエラちゃんの体は、確かに硬かった。女性的な柔らかさはなく、細いのにしっかり筋肉質。
だけど。
「まあ」
「――――!?」
私はきゅっと、抱きついてきたダニエラちゃんをさらに抱き寄せた。
「え、なに?」
「あにあっあにし、アニシア!?」
戸惑って藻掻くダニエラちゃん……君? と、盛大に狼狽えて私達の周りをうろちょろするルイス。
細い身体を抱きしめた私は、それどころじゃなかった。
「痩せすぎよ、ダニエラちゃんくん!」
「へえ?」
目を丸くして間抜けな声を出すダニエラちゃんを、私はぎゅっぎゅうと抱きしめた。ついでに頭をよしよし撫でる。
「細すぎてびっくりしたわ! 成長期だから? それにしても細すぎるわ! ちゃんとご飯食べている? あまり食堂を利用しないけれどもしかして食べられない物がある? 対応するから何でも言ってちょうだい!」
「魔道士様と比べたら食べているけど……」
「ダメよ人と比べちゃ。ちゃんと適量食べられているかは自分にしかわからないのよ? お腹が空いているのに慣れちゃダメ。成長期は栄養を取らないと大きくなれないわ」
ルイスも細身だけれど、ルイスより細い気がする。気になったので、うろちょろしていたルイスの手を握ってみた。ルイスは彫像のように動かなくなっちゃった。
「んん……? 同じくらい……? ルイス、あなたも食べるのをサボったわね? 魔道士の方々って皆そうなのかしら」
「このお姉さんマイペースすぎるなぁ……」
二人の腕をにぎにぎしながら首を傾げる。苦笑したダニエラちゃんは、私から一歩下がった。
「あらまあ、ごめんなさい、突然。気になっちゃって」
「女性に抱きついたボクの方が怒られると思うのに、そっちが謝っちゃうんだもんなぁ」
ダニエラちゃんは何故か、困った、というように笑う。
でもなんだか、ちょっと擽ったそう。
あ、そうだわ。
「男の子なら、ちゃんは失礼だったかしら。ダニエラ君の方がいいの?」
「……まだ気付いて居ない人もいるし、ちゃんで良いよ。自警団でまだわかっていない人結構いたし。エメリナお姉さんははじめから気付いていたけど」
「まあ、そうなの。なら、ダニエラちゃんのままで呼ばせて貰うわ」
ちょっと楽しそうにしているし、本人がどちらでも良いなら今まで通りにしましょう。
それにしてもエメリナ、気付いていたのね。普段は鈍感さんなのに珍しい。
「で、なんでこんな格好しているのかとか聞かないんだ?」
「似合っているなら、好きな格好をして良いと思うわ」
前世の記憶、多様性の文字がすささーっと脳裏を通り過ぎていく。若い頃の感覚で言うと仰天だけれど、年を重ねた今となれば生きているならいいじゃない、なんて感想が出てきそうだわ。あ、今の私、まだ十八だったわ。危ない危ない。
ダニエラちゃんはやっぱり擽ったそうな顔をして、小さく息を吐いた。
「お姉さん、やっぱりおっとりしてるよ」
どういう意味かしら?
エメリナを鈍感扱いするアニシアだが、彼女も自分のコトは気付いていない




