33 頑張りたい男の子
「ええと、ルイス。無理はいけないと思うわ」
「大丈夫だから……!」
男の子の矜持は守ってあげたいけれど、大丈夫じゃなさそうだわ。
ルイスはじゃがいもやニンジンなどの根菜が入った紙袋を抱えて、よろよろしながら歩いていた。ええと、うん。うちの仕入れよ。
お遣いで市場に来たのはいいけれど、調子に乗って買いすぎてしまったの。途方に暮れている所を、通りすがりのルイスに助けて貰ったところよ。
でも、ルイスの細腕で大量の根菜を運ぶのは、ちょっと大変だったみたい。
ルイスは風の属性持ちで、普段は魔導書を片手に魔法の計算式を読み解くのがお仕事。魔力を持つ物の責務として自警団に所属しているけれど、彼はまだ十四歳。エメリナとはまた違った形で、見習いよ。
「これでも、体力つけろって、団長から鍛えられているんだから……!」
「あらまあ」
見るからに運動が苦手なルイスだけど、団長は容赦していなかったのね。
成長期だからこそ、適度に動けとスパルタなのかしら。
それでもプルプルヨロヨロしているから、あまり身になっていない気もするけれど。
頑張ろうとしている男の子に、半分にしましょうって提案するのはダメよね。ここは見守るしかないのかしら。ドキドキハラハラしちゃうわ。
ちなみに私は小麦粉の袋を抱えているわ。これもあったから、一人で持ち帰れなさそうって途方に暮れていたの。ちゃんとわかっていたのに、安かったからつい買ってしまったわ。衝動買いって本当によくない。
「あっ」
「あら」
プルプル震えていたルイスの手元から、じゃがいもが零れ落ちる。
地面をコロコロ転がって、編み上げブーツの爪先にぶつかった。
「君達、すごい荷物だね」
「ダニエラちゃん」
じゃがいもを拾ってくれたのは、ダニエラちゃんだった。
「たくさん買ったね。これ食堂で使う野菜?」
「ええ、お安くなっていたからついたくさん買ってしまったの」
「それならボクらが食べる分だね、手伝うよ」
「あっ!」
そう言って、ダニエラちゃんはルイスの紙袋からいくつかじゃがいもを取り出した。いつの間にか、彼女の手元には紙袋が。
いつ取り出したのかしら。むしろ持ち歩いていたの? 異世界エコバッグ?
「ちょっと、別にお前の手伝いなんて必要な」
「また落としたら食材が傷むでしょ? 困るのはアンタじゃなくてお店じゃない?」
「んぐ……」
目をつり上げて手伝いを拒否しようとしたルイスだけれど、素知らぬ顔で正論を告げられて悔しそうに口を噤んだ。ダニエラちゃんは得意そうに鼻で笑って、するりと私の隣に並ぶ。
「出来ないのに意地張っちゃってさ。これだから子供は困るよねぇ」
「同い年だろ! 知っているんだぞ!」
「ええ? 同い年ぃ? だとしたら君って子供っぽすぎなぁい? 本当に十四歳?」
「誰が子供っぽ」
「ダメよ、悪口は」
よいしょと小麦の袋を抱えて、私はニヤニヤ吊り上がっていたダニエラちゃんの唇を突いて抑えた。
ダニエラちゃんが目を丸くして、私を見上げる。ルイスは飛び上がりそうな顔つきで私を凝視していたわ。
「喧嘩もわかり合う為の手段だと思うから止めないけれど、悪口はダメよ。悪意を込めて貶す言葉はダメ」
思いがけず口を突いて出たなら仕方がない。誠心誠意謝ることが出来る。でも、悪意を込めた言葉はダメよ。相手を貶す意志を込めた言葉は、吐き出してはならない。
「相手が嫌がるような言葉は、使っちゃダメよ」
「……」
そ、とダニエラちゃんが一歩下がる。
私の指が離れたその瞬間、ルイスが勢いよく私達の間に割り込んできた。
「そういうの、他の奴らにしちゃダメだって言ってるだろ!」
「よくあるんだ……」
「あらまあ?」
町の子達にはしたわね。私より年下の子は皆、経験済みよ。あ、同年代もね。
だから口喧嘩が行きすぎてしまいそうな時に、私がスッと人差し指を突き出すと皆黙るようになっているわ。
言葉は取り消せないから、酷いことを言いそうになったらよそからストップを入れるしかないの。ぶつかり合うなら様子を見るけれど、ダニエラちゃんは明らかにルイスを小馬鹿にしていたから、強制ストップよ。
ちなみにロドルフォが初心者さん達にオラついているのは命に関わるので、止めないわ。初心者さん達の命に関わるから。
あれは仕方がないので、いつも見守っているわ。
本当は年上にもしたい(精神的に年上だから)けど、流石に自重しているアニシア




