25 騎士団の可愛い女の子
「はじめましてお姉さん! ボク、ダニエラっていうんだ。よろしくね」
編み込まれた三つ編みを揺らして、愛らしく少女が笑う。にっこり、なんて音が聞こえてきそうな程に可愛らしい笑顔ね。
年は、多分ルイスと同じくらい。十代前半で、中学生くらいに見えるわ。
正確に言えば魔物の襲撃までに広場で一度会っているけれど、あれは通り過ぎたに近いわ。目も合っていないし、これがはじめましてで間違いないわね。
「はじめまして、私はアニシア。エメリナのお友達よ」
「親友で心の母であり姉であり癒しだからそこんとこよろしくね!」
「エメリナお姉さんなに言ってるの?」
「あらまあ、私、お母さんなの?」
相変わらず情緒不安定なエメリナは、ちょっと言動がおかしいわ。
きっと気持ちがささくれて、何に対しても攻撃的になっているのね。
私はガルガル威嚇しているエメリナの背中をよしよし撫でた。それを繰り返していたら、しおしおと勢いが弱まっていった。
よかった、落ち着いたみたい。
その様子を、ダニエラと名乗った女の子が興味深そうに観察していたわ。
「ふーん、どちらかというと飼い主みたいだね」
「アニシアに飼われるなら本望」
「エメリナ、もう一度オスワルド先生に診て貰おう?」
お父さんから昼食を受け取ったルイスが、呆れた目でエメリナを見ている。ちゃんとエメリナの分も貰ってきたから、両手が塞がっていたわ。偉い子ね。
「田舎町の医者よりも、帝都の医者の方が正確だと思うよ。うちの魔道士、治療も嗜んでいるから診て貰おうか?」
「……嗜んでいる程度でしょ? 先生は専門家だから、そんなにわか知識の魔道士なんてお呼びじゃないよ」
「言うね? お姉さんに必要なのは医療じゃなくて魔力の知識だと思うけど?」
「その判断も、僕らがするべきじゃないでしょ。僕はエメリナの調子が悪そうだから診て貰えって言っているだけだよ」
あらまあ。
年少の二人もバチバチなくらい、すっかり新規巡回騎士との間に溝ができているわ。早すぎない? 間に挟まれたエメリナの表情が瀕死状態よ?
いつもキラキラしているエメリナの目がどんよりしているのを見ていられなくて、私はそっとお椀にスープを盛り付けて、ダニエラちゃんに手渡した。
手渡されたダニエラちゃんは、きょとんと私を見上げる。うん、可愛いわ。
「お話は、食べてからにしましょう?」
「ボク別に、これは他の人の分じゃ……」
「騎士様達の分でもあるわ。私達の為に、いつもありがとう」
感謝を伝えると、ダニエラちゃんの桜色の唇がもご、と歪んだ。困ったように私を見て、スープを見て、小さく会釈する。
「どういたしまして……」
「他の方にもお配りするから、並んで下さると助かるわ」
「伝えてくるね……」
居心地悪そうに爪先をもじもじさせたダニエラちゃんは、スープを持って他の騎士様達の方へ向かっていった。
その小さな背中を見送って、ふとエメリナ達を見ると、私のことをキラキラした目で見ていたわ。
そうそう、エメリナの目は、いつもこんなふうに輝いているの。
でもいつもよりキラキラしている気がする、わね?
「流石アニシア皆のお母さん」
「悔しいけど、同意するよ。流石アニシア」
「アニシアしか勝たん」
「なんて?」
「あらまあ」
それからダニエラちゃんに言われてスープを取りに来た面々は、近くで見るとよりキラキラしい人達だったわ。
私は配給するただの町娘だから、最低限のやり取りしかしなかったけれど、それだけでもなんとなく為人がわかったわ。
今の私は店員さん。店員さんへの接し方でその人の為人って、多少分かる。特に見知らぬ土地の、知り合いがいない場所ってより本性が出やすくなると思っているから、割と当たるのよ。
ちなみに皆さんとても紳士的だったわ。つまり、いい人ね。
――でも、いい人だから、エメリナにとってプラスになるわけじゃない。
善意で言っていても、余計なお世話に該当することなんて、世の中にはたくさんある。
その人の為を思って、世の為を思って発言しても、それが当事者にとって的外れだったケースなんて、ごまんとあるわ。悪意でぶつかり合うより、善意ですれ違うことの方が多いんじゃないかしら?
それに田舎町のトリスと違って、帝都では覇権争いが当然のように横行しているはず。珍しい光属性のエメリナが連れて行かれて、利用されないとは思えない。
エメリナにそんな苦労させたくないけれど、決めるのはエメリナだわ。
だから私はあの子の為に、あの子が迷った時に何か言えるように、できる範囲で情報を集めるしかないわね。
ゲームの王道、情報が欲しければ酒場に行けって言うでしょう?
トリスに酒場はないけれど、食堂はあるの。人が自然と集まる場所には、情報も自然と集まるものよ。
今までだって人より情報通だった自覚があるけれど、これからはより気を付けていきましょう。
「というわけで、サポートは任せてねエメリナ」
昼の炊き出しに使った分を片付けながら、お茶を飲んで一休みしているエメリナににっこり笑う。
大切なお友達の未来の為に、おばあちゃん頑張るわ。
「アニシア……ありがとう」
「ええ、任せて!」
「これが皆大好きサポートキャラの実力……」
「さぽーときゃら……?」
おばあちゃん、ちょっとよくわからないわ。
棘のある言動を柔らかく包まれてお礼なんか言われたらどうしたらいいかわからない。もじもじ。




