24 モテモテな幼馴染み
一週間前に町を襲ったワンダーウルフは、トリスのさらに山奥に生息している魔物。
基本的には山頂近くの、人里から離れた場所で群れを作って生活しているわ。私は知らなかったけれど、結構広範囲で生活するだけ数の多い魔物だったみたい。
強い魔物は、広範囲を移動せず、縄張りを意識するものが多い。ワンダーウルフも縄張り意識が高いからこそ、人の生活区域には降りてこなかったわ。それでも若い、群れを離れたばかりの魔物が数匹降りてくることはあったようだけれど、すぐに騎士団や自警団に見付かって追い払われていたみたい。
復讐しに来るくらい仲間意識が高い魔物だから、討伐せず追い払うのが多いのですって。
だから今回の件、真っ先に疑われたのはワンダーウルフの復讐。誰かが山に入って、ワンダーウルフに手を出したのではないかと過失を疑ったわ。
でも、つい最近山に登ったのは私だけ。正確に言えば私とエメリナ、テオさんの三人。それも目的はキノコ採りで、深くまで入っていない。ボアグズリを見つけたから討伐の為に複数人が山に入ったけれど、それもチームを組んで討伐してすぐ降りたから、ワンダーウルフと遭遇もしていないはずなの。
――もし誰かがその時、ワンダーウルフと遭遇して討伐するなら、相当な騒ぎになったはず。
自警団団長のテオさんも、騎士団班長のシリノさんもそんな事実は確認していないから、誰かの過失で町がワンダーウルフに襲われた訳ではなさそうよ。討伐されたボアグズリも、本来ならもっと山奥に生息している魔物だったし。
だから、他に理由があるのではないかと、町の人たちは不安がっている。
――そこに、光属性に目覚めたエメリナが現れた。
光属性が、魔物にどう影響するのかわからない。けど、その魔力で魔物は消滅した。それなら、エメリナがいれば何が起こっても大丈夫。
そう思ってしまった町の人たちがいたみたいで、今のエメリナは何処へ行ってもやんややんやと大歓迎されているみたい。
それだけじゃなくて、オスワルド先生曰く新参者……新しく来た巡回騎士の人達にも、悉く付き纏われている……らしいわ。
今の今まで入院していた私は、それらの情報を人伝に聞いただけで、何処まで本当かわからなかったけれど。
「ねえねえお姉さん、こんな田舎より帝都に行ったらオシャレもできるしおいしいもの物たくさんあるよ~?」
「オシャレも美味しい物も間に合ってる、かな」
緑のかかった真っ直ぐな黒髪を三つ編みにした少女が、深緑の丸い目をキラキラさせながらエメリナを上目遣いで見上げて、
「とりあえず、今まで無属性だったなら魔力の扱いが赤ん坊レベルってコトだろ。この本とこの本、あとこの本も読んでおいてくれる?」
「この本持ち歩いていたの……?」
肩に触れない程度に長い、茶髪にも見える金髪を揺らして、黄緑色の垂れ目を面倒くさそうに眇めている青年はエメリナに数冊の本を手渡して、
「魔力は精神によって強弱を左右されます。その精神を鍛える為にはまず体作りが重要です。あなたは日々鍛えているようですが、それを魔力操作に繋げる技術は初心者。僭越ながら私が教鞭を執りたいと思います」
「団長に頼むので結構です」
しっとりと艶のある青黒い髪は首筋が見えるだけ短いけれど、何故か前髪が異様に長い。その長い前髪からチラリと覗く真っ青でまん丸い目の青年は、力強く拳を握って、
「お前達、そう急いではエメリナ嬢が困惑するだろう。私達の任期は一年あるのだし、ゆっくり考えて貰うべきだよ……エメリナ嬢は賢いだろうから、最善の選択をすると私は信じているよ」
「ありがとうございます……」
短いさらさらの金髪に、深紅の垂れ目の青年が、異論は認めないと言わんばかりにエメリナにじっくり圧をかけて……あら、あら? この人は、広場でプリシラちゃんとぶつかった騎士様……そうね、やっぱり新しい巡回騎士は、あの時広場で見た人達で間違いないみたい。
誰も彼もが、あの手この手でエメリナとお話しようとしているわ。
エメリナはスンッとした顔で当たり障りない返答ばかりだけれど……いえ、しっかりお断りしているけれど、相手がまったくめげていないわね。
思った以上に、私の幼馴染みがモテモテで忙しそう。
ちなみに、ここは広場。
私達は復興作業を進める人達の為に、広場で炊き出しを行っているの。私もお父さん達を手伝って参加しているわ。復興が落ち着くまでは食堂じゃなくて、広場で食事を提供し続ける予定なの。
それで、昼食を取りに来たエメリナにくっついて彼らが広場に現れて、今よ。
……あ、この言い方、もう古いわね。昔、娘が使っていたから、古いわ。異世界では最先端だけれど、多分通じないわ。
「あんたら、しつこいな! あまりエメリナに近寄るな」
あら、団体様に一名追加。
「うちの可愛い団員に余計な勧誘しないでくれるか?」
「彼女の意志を確認すると言った傍からこれか……帝都の人間は自分の言葉に責任を持てないようだね」
大人二名様追加。
「皆、大人げないな……行こうエメリナ」
そしてひょっこり現れたルイスがエメリナを連れて離脱。
あらまあ。
「本当に大変ね、エメリナ」
「このモテ方は嬉しくないー!」
前世で娘が言っていた「いけめんぱらだいす」状態だと思うけれど、エメリナは半泣き状態で私に泣きついた。
そうね、ギスギスしていて、とても怖いわね。
私の胸に顔を突っ込んで嘆くエメリナを慰めていると、小さくて軽い足音が近付いて来たわ。
顔を上げると、綺麗な黒髪の女の子が私を覗き込んでいたわ。
「お姉さん、だぁれ?」
あらまあ、可愛い。
そう思った瞬間、エメリナがサッと私を背中に庇った。
「アニシアの妹ポジションは私の物だ!」
「狙ってないけど??」
エメリナあなた、そんなこと思っていたの?
相変わらず情緒不安定なエメリナ




