22 幼馴染みの異変
「うわあああ! アニシアアニシアアニシアー!!」
ルイスに注意されても、エメリナは泣きながら私が横になっている寝台に突撃して来た。いつものように抱きつくのは、流石にやめたようだけれど……寝台前で急ブレーキをかけて、そのまま布団の上に、私の膝に飛びついておおんおおんと声を出して泣き出した。
「起きてるー!! アニシア起きてる!! びえええええ!!」
「いい加減にしてよエメリナ! それ何回目!?」
「何回でも確認したいんだよぉー!!」
「怖がらせてごめんなさいね、エメリナ」
どうやらあの日、最期の言葉を残して目を閉じた私の姿が、エメリナの中でトラウマになってしまったようなの。
あれから、見舞いに来ては泣いているわ。
彼女にトラウマを植え付けてしまった責任は私にあるから、エメリナが落ち着くまではたくさんよしよししようと思っているの。ルイスには甘やかすなって怒られているけれど、ルイスもとても気にしていること、私知っているわよ。
ルイスもね、私が目を閉じていると、そっと呼吸を確認するの。
生きているって確認して、ほっとしているのを知っているわ。
年下の子達に、そんなトラウマを植え付けてしまうなんて……でも確かに、昔から付き合いのある親しい人が目の前で亡くなるなんて……トラウマになって当然よね。冷静のつもりで、全然冷静になれていなかったわ。
私もまだまだね。反省しないと。
そう考えながらエメリナをよしよししていると、エメリナがぐふぐふ笑った。
「う、うひひ、アニシアちゃんの魅惑の太もも安堵よしよし誤字にあらず~癒される~」
「なぁにエメリナ、なんて言ったの?」
「……いやあああああ乗っ取られたあああああ!! 助けてアニシアー!!」
「あら……?」
あらあ……?
小声でボソボソ言っていたから問いかけたのだけれど、途端にエメリナがさっきと違う形で号泣し始めた。
さっきまでは安心感から泣いていたのに、今度は悲壮感を感じるわ。どうしたのかしら。
「エメリナ、なんだか情緒不安定なんだよ。これも突然光属性に覚醒した影響かも」
「あら……エメリナ、具合が悪いの? どこか苦しい?」
「うう、アニシアの優しさが苦しい……罪悪感が酷い……」
「どうしちゃったのかしら……」
不思議なことを言いながら自分の胸を抑えるエメリナ。えんえん泣いている彼女を慰めながら、副作用が心配になって来ちゃったわ。光属性は、本当に前例がほとんどないから。
「オスワルド先生はなんて?」
「今は混乱状態だから、自然に落ち着くのを待つって」
「そうなの……先生がそう仰るなら、信じましょう」
そう、オスワルド先生の診断を信じて、見守るしかないわ。
「……でも、新しい巡回騎士達は、エメリナを帝都に連れて行くって言うんだ」
「え?」
「珍しい光属性だから、帝都に行った方が歴史的研究に役立つって」
小さく口を尖らせて不満を訴えるルイスに、私は目を丸くした。
新しい巡回騎士。
とても強くて、お父さんを助けてくれたらしい人達。
その人達が、まさかそんな提案をしていたなんて。
――今回の襲撃で、死傷者は出ていない。でも、怪我人はたくさん出たわ。
一番多いのは騎士団。あと数日でトリスの任期を終えるはずだった、駐屯騎士の人々。
今回の異常事態から、引き継ぎ予定だった騎士達と合流し、二班で町を警護・調査する流れになったと聞いたわ。
だから、班長のシリノさん。マルコスさんとルーベンさんは、もう一年町に滞在することになったの。
嬉しいけれど、少し複雑ね。
そして次の交代時期に、エメリナを帝都へ一緒に連れて行くべきだと、新しく来た人達は主張したらしい。光属性は希少だから。
帝都で調べた方が、過去の資料も多い。きっとトリスにいたままではわからない部分が、帝都に行けば解明できるから、と。
そう言われてしまえば、それはそうかもしれない。トリスは良い場所だけれど、田舎だもの。
でも……。
「私、何処にも行きたくない」
エメリナの手が、ぎゅっとシーツを握りしめる。
小さな訴えを、私はそっと包み込んだ。
「私も、エメリナと一緒にいたいわ」
突然の展開に、不安になのは当然だわ。
町が襲われて、私が死にかけて、力に目覚めて。
恐ろしい想いをしているのは、エメリナよ。
「大丈夫。私はいつでも、エメリナの味方よ」
涙に濡れた青い目が、私を見上げる。
可愛いエメリナに、私はいつものように微笑んだ。
「結婚しよ」
「あらまあ」
「やっぱりエメリナおかしいよ!」
呆然と呟いたエメリナを、ルイスが叫びながらぶん殴った。
おばあちゃん、暴力はいけないと思うわ。
おや?エメリナの様子が……?




