16 広場の騒動3
でもこのままじゃ埒があかないから、やっぱりそろそろ声を掛けましょう。
そう思って一歩踏み出したら、話の内容がとんでもない方向に捻れ始めたわ。
「うう、恨めしい。町の若い男の視線を独占するこの子が恨めしいですわ……! わたくしと何が違いますの? わたくしの方がお金もあって家も持っていて将来性抜群ですのに……! 見た目ですの? この守りたくなるような愛らしさが重要ですの……!? ……体格はわたくしと変わらないのに……!」
「ちょっとプリシラ、どこ見てるのよ! 私は平均よ! 多分!」
「わたくしの方が栄養ある食生活を送っているはずですのに何故同じなのです!」
「私が聞きたいですけどぉ!?」
「あらまあ、往来で女の子が体格の話をしちゃダメよ」
比較して気になっちゃうなんて、お年頃ね。
でもロドルフォが目を見開いて固まっちゃっているから勘弁してあげてちょうだい。二人のどことは言わないけれど、見たまま固まっちゃっているわよ。
「あ、アニシア……!」
「アニシア!」
プリシラちゃんは、何故か私の前だと大人しいのよね。私は仲良くしたいのだけれど、もしかして私ののんびりと彼女のテンポが合わないのかしら。
仲良くしたいけれど無理はして欲しくないから、グイグイ行かないようにしているけれど……もう少しお互い大人になったら折り合いがつくかしら? こればかりは様子見よね。
私を見てたじろいだプリシラちゃんと対照的に、エメリナは飼い主を見つけた犬のように駆け寄ってきた。
笑顔で跳ねるように駆け寄ってくる様子、小型犬のようね。尻尾があればはち切れそうよ。
そのまま抱きついてきたエメリナは、ふと我に返って一歩下がった。
私が紙袋を持っていたから、遠慮したのかしら……と思っていたら、ぽふり、とエメリナの手が私の胸元に。
……あらぁ?
「……ほぼ同じもの食べているはずなのにこんなに発育が違うのは、なんで……!?」
「エメリナ、エメリナ。公衆の面前でやめましょうね?」
ロドルフォが鼻血を噴いて倒れちゃったわ。
初心よね。
「だっておかしいじゃない! いいもの食べているプリシラと庶民の私が似たような体型なのに、私と同じ庶民のアニシアがわがままボディなんて! マシュマロみたいに柔らかなんて!! 一体何が違うというの!」
「エメリナ、声が大きいわ」
「だって納得いかないし気になるんだもの! そうよねプリシラ!」
「わたくしを巻き込まないでくださいませ!」
途中から気まずそうにしていたプリシラちゃんが、エメリナに呼ばれて思わず叫ぶ。ちょっと顔が赤いのは、私が注意した意味をちゃんとわかっているからだと思うわ。
うん、人目がね? ここ、広場の市場で、そこそこ人目が多いのよ?
こういうお話、女子会でこそこそする内容だと思うの。こんな公衆の面前で堂々とする内容じゃないわ。慎みって大事よ?
プリシラちゃんの感性からみて、異世界共通の慎みだと思うわ?
だけどよくわかっていないエメリナは、真面目な顔で私の胸をぱふぱふし続けている。こら、おやめなさい。
「うん、町の若い男達の視線を独占しているのは私じゃなくてアニシアだわ……自警団の皆が胸とお尻は大きい方がいいって言ってたし、間違いない」
「今度団長さんとお話しないといけないみたいだわ」
男の人がそういう話をするのは仕方がないけれど、エメリナの耳に入るところでするのはダメね。今度お話しましょ。
「アニシア、今度私とプリシラに、おっきくなるコツ教えて!」
「私、何かしているわけではないのだけれど……?」
敢えて言うならおばあちゃんらしく、早寝早起きしているくらいよ。
そして往来で堂々とそんな事言っちゃうエメリナに耐えきれなくなったプリシラちゃんが、真っ赤な顔でぷるぷる震えながら踵を返した。
「わたくし、そんな話がしたいわけではありませんわぁー!」
「あ、プリシラ危ない!」
「ひゃっ」
突然走り出したプリシラちゃんは、すぐ後ろを歩いていた人にぶつかった。
その人はとても背が高く、逞しかったから、ぶつかったプリシラちゃんの方が跳ね飛ばされてしまったわ。
そんなプリシラちゃんが転ばなかったのは、ぶつかった人が咄嗟に彼女を支えてくれたから。
「お怪我はありませんか?」
響いたのは心地よいテノール。
キラキラ陽光を弾く金髪に、優しげに垂れた赤い瞳。
白い甲冑を着込んだ、見知らぬ美貌の騎士が立っていた。
エメリナ、男所帯に慣れ過ぎて羞恥心をどっかに置き忘れている。
アニシア、小さい子が戯れている気分。
プリシラ、まっとう。




