14 広場の騒動1
トラブルはあったけれど、無事にキノコを採取することが出来たわ。
その日の夜は魔物討伐があったから残念だけど、御馳走できなかった。だけど後日には出来たわ。
そう、もうすぐ任期を終える巡回騎士班長シリノさんへのお礼を兼ねたキノコ料理。
一番反応がわかりやすかったバター炒めにして、次の日のお昼に提供することが出来たの。
頼んでないのに出て来たキノコ料理にシリノさんは大変驚き恐縮していたけれど、毎年恒例だとお話すれば受け取ってくれたわ。
一緒に居たマルコスさんは、自分の分はないのかと悲しそうだったけど……班長さんへの特別扱いも時には必要だと思うの。普段権力でふんぞり返っていない人は特に。
そんな彼らとのお別れも、もう目前に近づいてきている。
このまま何ごともなく過ぎていくものだと思っていたのだけれど――……。
「何だとコラァもういっぺん言ってみろ!!」
「ああ何度だって言ってやんよコラァ!!」
どうして何事も、終わりごろには問題が発生するものなのかしら。
というか、変化の季節だから忙しないのかしら。
怒鳴り合う男たちの罵声に、私は何ごとかしらと紙袋を抱え直した。
今日はお遣いで広場の市場にやってきていたの。
広場はいつも賑わっていて、遊び場のない子供たちが走り回っているわ。観光客や旅人は滅多に現れないけれど、町人たちが育てた野菜や果物、山で狩りを行った肉や毛皮などが売られているの。
広場の中央に聳え立つ大樹はこの町の創立前よりこの地に生えていた木で、この町のシンボルよ。それはそれは大きな木で、広場の周りの建物に影が出来ちゃうくらい大きな樹。
日照問題を解決するために大樹の周辺に民家を置かず広場として、生活圏がなるべく日陰にならないよう調整して、今のトリスになったみたい。トリスが大樹を中心に広がるような町になったのは、この大樹を誰もが愛しているから。
そんな広場を囲むようにお店が並んでいるわけだけど、その一角から争うような男たちの声が続いている。
「この声はロドルフォかしら」
「そうだね。まぁたあいつは、よそ者を捕まえて暴れてんのかね」
「まあ、よそから誰か来たの? 商人さんが来るには早いと思うのだけれど」
「ああ、いつもの武者修行希望者さ。このあたりの魔物は強いからねぇ」
「あらまあ……変な時期に来たわねぇ」
八百屋のおじさんと会話しながら、困ったわねと首を傾げる。
トリスは田舎町で、宿屋もない。それは観光客も旅人も、滅多に来ないから。
時間をかけてやってくる商人たちは町長の家に泊まるし、巡礼騎士たちは駐屯所に寝泊まりする。
そんなわけで宿屋はないのだけれど……よそ者が絶対来ないわけでもないの。
私はよくわからないけれど、トリス周辺の魔物はとても強いらしい。その強さ故に、腕試しにやって来る無法者が時々いるの。自分の実力を知るために、武者修行だと言ってやって来る人間が。
残念ながら、そういった人を泊める施設は存在しないわ。
そもそもトリスは、腕試しに来る者たちを歓迎していない。
だって、死んでしまうことの方が多いのだもの。
私は、魔物の強さはよくわからないわ。
無属性で武芸の腕を磨いていないから、弱いと言われている魔物にだって抵抗できる術がないもの。
戦えないから、素直に魔物が怖い。
だから、町の安全を守る自警団と騎士団の人たちには感謝してもしきれないわ。彼らは身体と命を張って守るために戦っているのだから。
だけど武者修行の人間は、特に思いついたようにやって来る人間は、自分を過信してトリス周辺の魔物に挑むことが多いの。
せめて複数で行動してくれるなら、生き残る確率は上がるのだけれど……聞こえてくる声は、知っている男の声と、もう一つだけ。
という事は、一人で来たのね。仲間と別行動をしていない限り一人だわ。
「そんな初期装備で大丈夫かぁ!? オウオウこのトリスを舐めてんのかぁ!? ブルボールぐらいしか倒せねぇ装備だぞ初心者かコラぁ!!」
「誰が初心者だコラァ!!」
「てめーだよコラァ!!」
「ンだとコラァアア!!」
小学生の喧嘩かしら。
ちなみにブルボールとは、球根みたいに丸くて小さな魔物のことよ。
このあたりでは見ないけれど、武器を持った素人なら何とか撃退できるだろう、というレベルの魔物らしいわ。このあたりにいないから、その辺りもよくわからないけれど。
ちなみに、この世界でも未成熟を「まだ青い」と言うから、ブルーボールも「あれが倒せないくらい青い」みたいに、冒険者レベル「話にならない」の喩えとして使われるみたいよ。
つまり、そういうことね。
怒鳴り合っている方向を見れば、武器屋の前で筋肉ダルマが二つ。お互いが額をぶつけあうようにして怒鳴り合っている。
あら、よく見れば頭突きし合っているわ。もう威嚇行動に入っているなんて、何て血の気の多さかしら。
片方は見ない顔だけど、もう片方の黒いほうは武器屋の息子のロドルフォね。
彼は私と同い年の十八歳。
ご両親が年配で、上の兄弟が女性ばかりだから、末っ子のロドルフォが武器屋を継いだの。
若手だけど店持ちの有望株……なのだけど、野性的な外見と盛り上がった筋肉が恐ろしいと女性に敬遠されがちな男の子よ。私はすぐ熱くなる彼のこと、嫌いではないけれど、私と彼はどっちも店持ちだから、お互い独り身でもお相手に発展しないわ。
ちょっと不憫なのよね。外見は怖いし口も悪いけれど、女性に暴力を振るう子じゃないけれど……。
「そんな装備で山に行くのは自殺行為だっつってんだよコラァアアアアア!!」
「ゲボコラァ!!」
でも男の子にはすーぐ手が出ちゃうの。
ロドルフォの言い分はその通りなのだけど、態度が悪いわ。
もっと親身に注意しないと聞く耳はもたれない。何より喧嘩腰……じゃないわ、もう喧嘩になっているわ……そんな状態で忠告が聞き入れられるはずがないわ。
言いたいことはわかるのよ。
魔物退治が目的で山に行くなら、本当に危険なことだから。それを伝えることは大切よね。
だけど伝え方が悪すぎるわ。
口論はともかく、暴力はよくないわ。それもこちらから殴りかかるのはもっと良くない。
……でも、ロドルフォに勝てないようなら、山に行くのはもっとやめたほうがいいとは思うわね。だって彼、筋肉はあるけれど、自警団員ではないもの。
けど、今はそれどころじゃないわね。
「「ウオォオォオオオオオ!!」」
ああ、こうなったら私たちでは止められない。
子供たちは囃し立てながら応援を始めてしまうし、大人たちも野次を飛ばしている。変化のない田舎町で、ちょっとした騒動は娯楽なの。
もう、仕方のない人たち。
こんな広場で大騒ぎなんて、血の気の多い人が参加したら被害が拡大しちゃうわ。
早く自警団の人に知らせないと……そう思って周囲を見渡して、誰か見回りの人はいないかしらと探してみたら。
「ちょっとロドルフォやめなさいよ! 何を暴れているの!」
エメリナが来ちゃったわ。
ごめんなさいエメリナ、今はあなたじゃない方がよかったと思うの。
始まりの町……だと思った?
周囲の魔物、始まりの町に相応しくないくらい、激強。




