12 お別れの準備に
それからしばらく、エメリナと会話をしながらキノコを採った。
時々見つける不思議キノコや薬草は、医療関係者のオスワルド先生へのお土産として採取する。これらも山を下りる時に騎士団に報告すれば問題はないわ。
注意するとしたら採り過ぎない、仕分けを間違わないことね。
エメリナはキノコ採取を手伝いながら、魔物と遭遇しないよう動いてくれた。
山奥へ入るごとに、魔物は強くなっていく。恐らく縄張りがあるのだと思うわ。キノコ採取の為移動する際は必ず、そのラインを見極めてくれていた。採取に夢中になって、奥へ奥へと入り込んじゃうのよね。
山に入ったお年寄りが遭難するってよくある話よね。きっとこれも世界共通だわ。
一人で山に入っちゃいけません。住んでいたところに山はなかったけれど、遭難するお年寄りの話はニュースでよく聞いたもの。他人事じゃないわね。
「そろそろいいかしら」
「ええ、充分だと思うわ」
額を付き合わせながら、籠の中身を確認する。ついでにお日様の位置も確認した。
うん、今から戻れば、夜の仕込みに間に合うわ。
頷いて、山を下る準備をする。周囲をくるくる確認していたエメリナが、そういえば今更だけど、と私に問いかけた。
エメリナ、左側の茂みにテオさんがいるわよ。
結局最後まで気づかなかったわね。それが卒業試験の結果に響かなければいいけれど。
「いつもはアニシア母が山に入るのに、今日はアニシアなんだね」
山に入るのはやっぱり危険だからと、いつもはお母さんが山に行く。
お母さんは小さいころから食材集めのプロだったから、一人で山に入っても平気なくらいの自衛は可能なの。逆にお父さんは食材集めが苦手で、運動も苦手だから一人で山には入れない。
普段はお母さんがする作業だけど、今日は私じゃないと意味がなかった。
「御店じゃなくて、個人的に使うものだから私が採りに来たの」
「え? お店用じゃなかったんだ。キノコ料理の研究でもする?」
「ふふ、それはまた次回ね」
「あれ、違う?」
「これは、シリノさんの好物を作ってあげたくて」
「えっシリノ班長さん?」
シリノさんとは、駐屯中巡回騎士の班長さん。両親と同じくらいの壮年の男性。
とても生真面目な人で、前任の方々からうちの話を聞いて、菓子折りを持って挨拶に来てくださった。こちらも商売にしているのだから、そんな必要はなかったのに。
シリノさんは何でも食べる方だったけど、中でもキノコ料理が好きなようだった。だから任期が終わる前に、今までのお礼も込めてキノコ料理を作りたいと思ったのだ。とてもお世話になったから。
そう語ると、エメリナはプルプル震え出した。
「あ、あにしあ……っわざわざ自分で食材を探してまで御馳走するなんて……! シリノさんみたいな人が好み!? だいぶ年上だよ!? 親くらいだよ!?」
「とても礼儀正しくて真面目な方で、理想の騎士様だと思うわ」
「良い人だと思うけど年が離れすぎてるし既婚者だよー!」
「あらまあ。お世話になってお礼のようなものよ」
私のこれも恒例のようなものなのだけど。
調理場に立つことを許された日から、毎年この時期になると私は班長さんの好物を作っているの。一年間町を守ってくれた感謝を込めて。
シリノさんのキノコ好きはちょっとわかり辛かったから、マルコスさんにリサーチしたの。食べている様子から、キノコがお好きとは思ったけどちょっと自信が持てなかったから。
そう説明すれば、エメリナは納得したように頷いた。
ところでこのやり取り、似たようなことを去年もしたのだけれど忘れちゃったのかしら。
「良かった良かった今回も違った……アニシアってば年上好みっぽいし……このままだとルイスが可愛そうなことになるからね……」
「ルイスがどうかした?」
「えへへ何でもないよ~そろそろ帰ろ!」
エメリナがぶつぶつ言っていたけど、良く聞こえなかったわ。年かしら。
「あっ」
びくりとエメリナが跳ねる。何か見つけ…テオさんを見つけたのかしら。そう呑気に思いながら振り返る。
その肩を、抱えられた。
「駄目アニシア。隠れて」
「え?」
可愛い子のイケメンムーブ。




