11 山の幸を求めて
トリスは山に囲まれているわ。
山間部の平地に町があって、整備された山道を通って隣町へ繋がっているの。
山は財産で、所有者は領主様。
ただ領主様はもう少し離れた領地で過ごされていて、何年かに一度、視察に訪れる程度。管理は町長に任されていて、山の資源はある程度なら町で活用することを許されているわ。
勿論全てを許可しては無法地帯となるから、山に入ったものは日付と目的を申請しないといけない。
その申請は山の入り口にある騎士の駐屯所で行われ、申請内容は騎士から町長へと報告されるの。それをまとめて領主様に報告するのが町長の役割で、騎士と町との報告に誤差があればすぐわかるようになっているわ。
自警団がその役割をすると町ぐるみで不正をする可能性があるから、間に騎士を挟むことにしたそうよ。不正防止ではあるのだけれど、監視管理されているという気がして一部の人たちが騎士を嫌がる理由の一つになってしまっているの。私は当然の処置だと思うのだけれど。
今私は、その申請をしてから山に入ったところ。
キノコ欲しいのよねぇ、バター炒めとか作りたくて。
キノコは毒キノコとかがあるから、しっかり見分けながら採取しないといけないわ。山の資源は皆のモノだから、採り尽くすのもだめね。だからキノコや薬草を採取した場合、これも騎士団に品種や数を報告しないといけない。
報告は手間だけれど、お金はかからない。この手間を省いたのがばれると罰金だから、ズルをする人は滅多にいないわ。滅多にいない、わけであって、まったくいないわけじゃないのが困ったところ。
残念なことにばれなきゃいいって考える人はどこにでもいるのよね。困った子たち。
「アニシア、アニシア、このが籠一杯になる位がちょうどいいかな」
「ええそうね、頑張りましょう」
「任せてー!」
自警団の黒いベストを着たエメリナが闊達に笑う。
ふわふわの金髪を後頭部に結い上げて、レモンイエローのシャツと紺色のズボンに身を包んでいる。足元は脹脛を覆う長さの編みブーツで、腰には細身の剣。レイピアが下げられているわ。
普段は砂糖菓子のような可愛い子だけれど、やっぱり自警団として整えるとピシッと凛々しくなるわね。
私に向かって笑う様子は、普段通りでとても可愛いけれど。
エメリナはキノコが欲しいけれど山の危険に対処できない私の為に、山に同行してくれた。自警団見習いだけど、魔物の強い山奥に入らないなら対処可能と判断されたの。
うん、山の危険第一位は魔物だから。山歩きは出来るけど、魔物と遭遇したら逃げられないわ。日本で言うなら、山でクマに出会うようなものよ。
ちなみにこれはエメリナの見習い試験も兼ねていて、無事に私がキノコ採取を終えることが出来たら合格。不手際があったら不合格。
……卒業試験だって、本人には知らされていないみたいなのよねぇ。私も知らされていないわ。公正の為に自然な状態を確認するからだろうけれど。
それなのに何故私が察したのかと言えば、一定間隔で自警団長のテオさんがついて来ているからね。
エメリナが見習いになってからほぼ一年。
忙しい自警団長がこうやって見守るのだから、卒業試験で間違いないはず。
木々の隙間から見守るテオさんと目があったので会釈をすれば、苦笑したテオさんが手を振ってくれたわ。
エメリナは一切気付いていないけれど、これはいいのかしら。
「アニシアー! 見て見て毒キノコ!」
楽し気に掲げられたのは紫色の、毒々しいキノコ。ナゲキタケと呼ばれる、食べると一定期間ネガティブになるというキノコよ。
食べ過ぎると死ぬまで涙が止まらなくなるらしい。
でも乾燥させて粉末にすると、鎮静剤の材料になるわ。
「あらまあ、ナゲキタケねぇ。お薬になるからオスワルドさんに少し持って行きましょうか」
「泣いて喜んでくれるかな?」
「ナゲキタケだけに?」
「「ふふふふふっ」」
やめとけという念を背後から察知したけれど、きゃっきゃと陽気なテンションで食用とは違う籠に採取する。
昔……日本で生活していたあの頃は、山になど入ったことがなかったわ。学生時代の遠足位で、キノコ採取など未経験。生えているものも世界特有なものが多く、いつも新鮮な気持ちで愉しくて仕方がない。
精神年齢でいえば百を超えるけれど、身体は若くて軽いし世界はファンタジーで知らないことだらけで、浮き立つような気持ちを抑えることはできないわ。
だというのに、幼いころから一緒に居るエメリナやセリオを同年代だと思えない。
どうしても守るべき孫に思えてしまうから、その辺りの折り合いがとても難しいわ。今だって、どちらかというと見守っているテオさんよりの思考だと思うのよね。
それでも私は十八歳。
私だって見守られる側なのだと、忘れないよう気を付けないといけないわ。
精神年齢はともかく、知らない世界で十八歳なのは間違いないんだから。
そう、町の外には出たことがないし、世間知らずなのは間違いないのよ。年を取っていても、物を知らなくては誇れないわ。
「何ごとも勉強ね」
「えっ」
私の話だから、そんな絶望的な顔をしないでエメリナ。
精神年齢が高くても、世間知らずなお子ちゃまなのです。




