第四話《堕ちる》
白夜の背後で、深淵航鯨が深淵天竜の死体を呑み込んでいた。
開かれた巨大な口の奥へ、四百メートルを超える竜の身体が少しずつ消えていく。
周囲へ散っていた血も、砕けた岩も、何もかもがその口に吸い込まれていた。
深淵航鯨はこちらを追っていない。
白夜を見てもいなかった。
目的は、死んだ深淵天竜だけだった。
追われてはいない。
けれど、安全になったわけでもなかった。
左側の岩壁が近づいた。
反対側では、縦に走った亀裂が広がり、暗い空洞が奥へ伸びていく。
岩盤全体が同じ方向へ揺れているのではない。
奈落の片側が押し潰されながら、別の側へ引き裂かれていた。
白夜の背中で、赤黒い二枚の翼が開く。
白夜本来の翼より小さい。
表面を覆う装甲もない。
けれど、薄い血の膜を張っただけのものではなかった。
機体内部に残っていた戦闘循環液と修復用生体媒体が、二本の翼骨と筋束へ組み替えられ、その間へ黒い翼膜が張られている。
私の血は、その構造を白夜へつなぎ止める核になっていた。
長時間の飛行や、もう一度深淵天竜と戦うことには耐えられない。
それでも、白夜の巨体を支えて飛ぶだけの強度はある。
弱いのではない。
残された出力と材料に、余裕がないだけだった。
翼とは別に、白夜の胸部や肩、左腕、両脚には赤黒い鱗が残っている。
深淵天竜の血統構造を再現した竜血装甲だった。
失われた白銀装甲すべてを覆えるほどではない。
衝撃を受ける場所だけを選び、薄い鱗を重ねて補強している。
白夜の右腕は動かない。
位相断裂刃は、深淵天竜の爆発の中で折れ、そのまま失われた。
天杭二番と三番は、切断された深淵天竜の両翼とともに断壁へ残っている。
四番だけは、深淵天竜の下顎の一部とともに、進路の右側にある岩壁へ残っていた。
航鯨に呑み込まれている胴体からは、すでに切り離されている。
《天杭四番――空間固定継続》
杭の周囲だけ、崩れる岩盤の動きが遅かった。
このまま残せば、岩壁と一緒に失われる。
白夜を岩壁へ寄せる。
左脚の鉤爪を突き立て、左手で天杭四番の柄を掴んだ。
《空間固定――解除》
天杭を引き抜く。
固定を失った岩盤へ一斉に亀裂が走った。
深淵天竜の下顎の一部が岩壁から剥がれ、砕けた鱗と骨が深淵航鯨の方へ落ちていく。
白夜は左脚を岩壁から引き抜き、二枚の翼を開いた。
崩れる壁から離れながら、天杭四番を背部兵装架に残っている固定具へ押し込む。
《天杭四番――携行固定》
使えるのは左腕と両脚。
背部推進器の残存出力。
二枚の仮設翼。
それから、回収した天杭四番がある。
「上へ」
白夜が岩壁を蹴った。
赤黒い翼が奈落の空気を押し下げる。
背部推進器の噴射が加わり、白夜の巨体が上昇した。
第三階層から第二階層へ続いていた空間は、もう通路とは呼べなかった。
離れていたはずの空洞が縦につながり、床だった岩盤が壁へ傾いている。
白夜の全身が通れるほど広がった場所もあれば、左右の岩が噛み合い、完全に塞がれた場所もあった。
《前方構造――崩壊進行》
《既存経路との照合――不能》
白夜が観測できるのは、周囲の限られた範囲だけだった。
レムナからの広域観測は戻らない。
上層に残っている道も、人間たちの退路も、今どこまで崩れているのか分からなかった。
私は白夜の左手を岩壁へ触れさせた。
振動が指先から腕へ伝わる。
左側から押されている。
けれど、右側では岩盤が遠ざかっていた。
奈落の中で、いくつもの方向へ異なる力が働いている。
《左側構造――接近》
翼を畳む。
次の瞬間、左側の岩壁が大きく張り出し、直前まで白夜がいた空間を塞いだ。
砕けた岩が白銀の装甲へ降り注ぐ。
白夜の身体を横へ倒し、狭くなった空洞へ滑り込ませる。
右翼の先端が岩壁へ触れた。
翼膜の表面が削れたが、翼骨までは届いていない。
白夜の重量を支える力も残っている。
損傷した表面へ血を薄く回し、それ以上裂けないよう固めた。
修復用生体媒体は少ない。
傷を完全に直すのではなく、広がらないよう押さえる。
道を探している余裕はなかった。
道が消えるより先に、上へ進む。
白夜の近距離観測へ、複数の心拍が触れた。
深淵航鯨でも、魔物でもない。
人間だった。
第二階層の崩落した通路の中に、二十を超える生命反応が集まっている。
そのうち一つだけが、ほとんど移動していなかった。
「止まって」
翼を閉じ、傾いた岩棚へ着地する。
両脚が触れた瞬間、足元が沈んだ。
白夜は膝を曲げ、荷重を左右へ逃がした。
爪先と膝を覆う竜血装甲へ細かな亀裂が走る。
赤黒い鱗が砕ける前に、機体の姿勢が安定した。
前方では、兵士たちが負傷者を運んでいた。
担架。
血に濡れた包帯。
折れた槍。
砕けた盾。
全員が、残っている通路の奥へ進もうとしている。
その後方で、一人の男が岩盤に挟まれていた。
腰から下が、倒れた岩柱と床の間へ押し込まれている。
三人の兵士が岩柱を持ち上げようとしていたが、動かない。
「セド! 目を閉じるな!」
「起きてる……聞こえてる」
「なら返事を続けろ!」
男は答えている。
けれど、声は弱かった。
白夜が近づくと、兵士たちが一斉に振り返った。
槍が向けられる。
今の白夜が、白い騎士に見えるとは思えない。
右腕は力なく垂れ下がり、本来の両翼は失われている。
背中には、赤黒い二枚の翼。
胸部や肩、左腕、両脚では、白銀の装甲へ黒い鱗が重なっている。
破損した装甲の隙間からは、戦闘循環液と修復用生体媒体が、生きた筋肉のようにのぞいていた。
白銀の騎士ではなく、死んだ巨大兵器へ赤黒い魔物が寄生し、内側から動かしているように見えたのかもしれない。
「……味方なのか?」
先頭の兵士が槍を構えたまま言った。
「知らん。下で化け物と戦っていたのは見た」
「負傷者の前を空けるな」
白夜を止められないと分かっていても、槍は下がらなかった。
私は男の手前で止まった。
「その人を出す」
外部音声が、崩れた通路へ響く。
先頭の兵士が、挟まれた男と白夜を交互に見た。
「何をすればいい」
「肩と腰を固定して。合図したら引いて」
「岩を持ち上げられるのか?」
「全部は持ち上げない」
岩柱は、一本だけで倒れているのではなかった。
上部で別の岩盤と噛み合い、通路の天井を支えている。
力任せに持ち上げれば、男を引き出す前に上部構造が落ちる。
白夜の左手を岩柱へ触れさせた。
装甲の継ぎ目から血糸を伸ばす。
細い糸が亀裂へ入り、岩の内部へ広がった。
圧力。
亀裂。
荷重の向き。
岩柱を伝う細かな振動が、血糸を通して戻ってくる。
《局所構造圧――上昇》
《上部構造――沈下進行》
「布を回して」
兵士二人が、男の肩と腰へ布を通した。
別の一人が担架を横へ寄せる。
白夜は右肩を傾いた壁へ押し当てた。
動かない右腕を機体と壁の間へ挟み、右肩から胸部にかけて竜血装甲を厚くする。
上から来る荷重を、右腕ではなく白夜の巨体全体で受ける。
左手の指先には、深淵天竜の鉤爪を再現した。
黒い爪を岩柱と床の隙間へ差し込み、先端だけを血液操作で薄く広げる。
左腕へ力を送った。
岩柱が、わずかに浮く。
「まだ」
その直後、天井で岩が割れた。
予測していた亀裂とは別の場所だった。
白夜の右肩へかかる荷重が急激に増える。
竜血装甲の鱗が砕け、その下の白銀装甲がへこんだ。
機体が沈む。
岩柱を上へ持ち上げるのではない。
男の脚へかかっている部分だけを斜めへずらし、上から来る力を壁側へ逃がす。
血糸を一つの亀裂へ集中させた。
岩の内部で、鈍い破砕音がする。
荷重の向きが変わった。
「今」
兵士たちが布を引いた。
男の身体が岩柱の下から抜ける。
右脚が不自然な方向へ曲がっていた。
左脚も押し潰され、鎧の継ぎ目から血が流れている。
担架へ載せた瞬間、岩柱が落ちた。
白夜の左手が間に残る。
指を覆っていた黒い鱗が砕け、鉤爪の一本が根元から崩れた。
感覚が途切れる前に、右肩で壁を押し返し、その反動で左手を引き抜く。
「行って」
「脚から血が出ている!」
白夜の指先から血糸を伸ばした。
潰れた鎧を無理に外さず、その上から両脚を圧迫する。
兵士が折れた槍の柄を切り、添え木にした。
「布を巻いて」
「ここか?」
「もっと上。そこで締めて」
兵士が布を強く結んだ。
流れていた血が弱くなる。
心拍は速いままだ。
それでも、消えてはいない。
「外へ出たら治療班へ渡す」
兵士が担架の持ち手を握った。
「こいつは俺たちが運ぶ。お前は離れられるのか?」
「運んで」
担架が持ち上がる。
兵士たちが狭い裂け目へ向かって走り始めた。
最後尾の兵士が振り返る。
「上はもう道じゃない! 北側の監視塔が落ちて、そこから光が入っている!」
「北側?」
「風が来る方だ! 俺たちは抜け道を使う。お前の身体じゃ通れない!」
土埃の中に、冷たく乾いた空気が混ざっている。
地下に溜まっていた風ではない。
「分かった」
「セドは連れていく!」
兵士たちは担架を運び、裂け目の奥へ消えた。
私は、あの人を最後まで運ぶ必要はない。
あの人たちが運ぶ。
外へ出れば、治療班へ渡せる。
なら、任せるだけでいい。
白夜の肩を壁から離した。
直後、通路全体が潰れた。岩と土煙が押し寄せる。
赤黒い翼を開き、白夜の身体を浮かせる。
翼骨が巨体の重量を受けて軋んだ。
壊れたわけではない。
けれど、背部推進器なしでは十分な上昇力を得られない。
噴射を短く重ね、姿勢を戻した。
兵士が示した方向へ進む。
風の来る方。
光のある方。
そこが地上へ続いている保証はない。
けれど、ほかに残された道もなかった。
入り組んでいたはずの第二階層は、巨大な縦穴へ変わっていた。
壁と床の区別がない。
離れていた空洞が縦につながり、その中を岩塊が落ち続けている。
右側に残った細い足場を、別の避難者たちが走っていた。
兵士と負傷者を合わせて十人ほどいる。
彼らの頭上から岩が落ちる。
咄嗟に白夜の左腕で弾いた。
衝突する直前に前腕へ竜血装甲を集める。
赤黒い鱗の上で岩が砕け、破片が足場の両側へ落ちた。
人間たちは、その間を自分の足で走る。
一人が転び、別の人間が腕を掴んで引き起こした。
彼らは動ける。
互いに助けられる。
その先にあった別の生命反応へ向かおうとした時、空間そのものが沈んだ。
床だけではない。
壁も天井も、人間のいた足場も、一緒に落ちた。
複数の心拍が血液感知の中から消える。
――間に合わなかった。
戻ろうとしても、そこにはもう足場がない。
白夜は上昇を続けた。
止まれば、私もここから出られなくなる。
上へ進むしかなかった。
白夜の左肩へ、細長い物が落ちてきた。
岩ではない。
木材だった。
人の手で削られた柱。
先端に、割れた金具がついている。
次に落ちてきたのは、黒い瓦だった。
白夜の胸部へ当たり、竜血装甲の上で砕ける。
布。
椅子。
割れた器。
棚。
地面の下にあるはずのない物が、次々と奈落へ降ってきた。
割れた器を見て、食事の後に洗うものだと思った。
そこに何が盛られていたのかは分からない。
椅子は、人が座るためのものだった。
誰が座っていたのかも分からない。
物だけではない。
人の暮らしが、そのまま落ちてきている。
「地上の建物……」
上方に白い光があった。
円形の出口ではない。
岩盤と土砂の間に、巨大な亀裂が開いている。
その向こうに空が見えていた。
白夜が通れるほど大きい。
そんな入口は、以前の奈落にはなかった。
出口が広がったのではない。
出口の周囲にあったものが、なくなっている。
光の前を、大きな影が横切った。
石造りの建物だった。
屋根と壁を残したまま傾き、基礎ごと奈落へ滑り落ちてくる。
窓が割れる。
壁に亀裂が走る。
内部から机や寝台が放り出された。
人間の声が聞こえる。
生命反応は七つ。
建物を直接受け止めれば、白夜の手が触れた場所から床が潰れる。
横へ押せば、壁へ衝突した衝撃で中の人間が死ぬ。
背部の偏向障壁発生器へ接続する。
《偏向障壁発生器――出力導路断裂》
完全に壊れているわけではない。
発生器と出力部をつなぐ導路が、途中で切れている。
血糸を断裂した両端へ接触させた。
切れた導路を、私の血で一時的につなぐ。
修理ではない。
発生器が焼き切れるまでの短い間だけ、一度の起動を維持する。
《偏向障壁――限定起動》
建物の落下線上へ、障壁を斜めに展開した。
透明な面が建物の底へ触れる。
受け止めるのではない。
落下する力を横へ流し、速度を削る。
建物が障壁の上を滑った。
石壁が軋み、窓がまとめて割れる。
内部で床が抜け、重量の偏りが変わった。
建物が白夜の方へ傾く。
障壁の角度を変える。
傾いた側へ出力を集め、建物の回転を押さえた。
透明な面が大きく沈む。
それでも、砕けない。
背部の発生器から低い振動が伝わった。
障壁自体は保っている。
けれど、切れた導路をつないでいる血糸へ熱が集まり始めていた。
長くは維持できない。
窓から一人が飛び出した。
着地点はない。
白夜の左手を伸ばす。
指先が届く前に、人間の身体が手の横を落ちた。
血糸を伸ばし、腰へ巻きつける。
落下が止まった。
人間の身体が大きく揺れる。
心拍は残っている。
左手の甲へ引き上げた。
建物の中に残る生命反応は六つ。
「外へ出て」
外部音声を上げる。
割れた窓から二人が這い出した。
障壁に支えられて傾いた壁を伝い、白夜の左前腕へ飛び移る。
残る生命反応は四つ。
その奥で、一人が動けずにいた。
隣の兵士が腕を掴んでいるが、恐怖で身体を固めている。
「無理だ! 行けない!」
「床が落ちる! 来い!」
建物の内部で壁が崩れた。
生命反応の一つが、瓦礫の下で途切れた。
残る反応は三つ。
間に合わなかった。
障壁の一部へ荷重が集中する。
建物が再び傾きかけた。
出力の配分を変え、沈んだ場所だけを押し返す。
障壁発生器の振動が強くなった。
導路をつないでいる血糸が、白夜の内部で焼け始める。
動けなかった人間を、隣の兵士が抱えた。
二人が窓枠を越え、白夜の腕へ飛び移る。
建物の中に残る生命反応は一つ。
奥で倒れた梁の下だった。
血糸を内部へ入れる。
梁へ巻きつけ、横へ引く。
動かない。
障壁はまだ建物を支えている。
けれど、発生器と出力部をつなぐ血糸が限界に近づいていた。
もう一度引く。
梁がわずかに転がる。
下にいた人間が身体を抜き、床を這って窓へ向かう。
「急いで」
障壁発生器の内部で、何かが弾けた。
透明な面が一度だけ大きく揺れる。
それでも、消えなかった。
最後の人間が窓から飛び出した。
白夜の指先へ届かない。
導路をつなぐ血糸へ出力を回しているため、別の血糸は伸ばせなかった。
左腕を振る。
指先へ形成していた鉤爪を崩し、掌と手の甲へ竜血装甲を集める。
黒い鱗で覆った手の甲を、人間の下へ滑り込ませた。
身体を受け止める。
六人が白夜へ移ったことを確認する。
障壁への出力を切った。
透明な面が消え、石造りの建物が落下を再開した。
白夜は腕を引き、岩壁を蹴って横へ逃れる。
建物がすぐ脇を落ちていく。
背部の発生器から煙が上がった。
《偏向障壁発生器――出力導路焼損》
《再起動――不能》
白夜の左腕と肩に、六つの心拍が残っている。
建物の中にあった七つのうち、一つだけが消えた。
全員ではない。
それでも、六人は生きている。
近くの岩棚へ左腕を寄せる。
「壁へ移って」
人間たちは互いに引き上げながら、白夜の腕を降りた。
最後の一人が離れる。
背部の発生器から煙が上がった。
《偏向障壁発生器――焼損》
もう一度は使えない。
仮設翼は残っている。
翼骨にも、翼膜にも大きな損傷はない。
けれど、翼を動かす筋束と白夜をつなぐ場所へ負荷が蓄積していた。
修復用生体媒体も少ない。
次に同じ建物が落ちてきても、同じ方法では救えない。
上昇を続ける。
光へ近づくほど、落下物が増えていった。
石畳。
荷車。
城壁の破片。
観測設備の支柱。
奈落の周囲に作られていたものが、地面ごと崩れている。
外から冷たい風が吹き込む。
土煙と、人間の悲鳴も一緒に落ちてくる。
白夜の左手が、地表へ続く崩れた縁へ届いた。
指を食い込ませる。
岩盤が崩れ、手の下から落ちていく。
別の場所を掴む。
そこにも亀裂が走った。
地面へ身体を預ければ、一緒に落ちる。
二枚の翼を広げた。
翼骨が白夜の重量を受けて軋む。
壊れかけているわけではない。
けれど、背部推進器を使わなければ、この巨体を地上まで持ち上げられない。
短く噴射する。
翼膜が風を受け、白夜の身体を押し上げた。
一度。
二度。
翼と機体をつなぐ筋束へ痛みに似た負荷が重なる。
三度目の噴射で、白夜の頭部が奈落の外へ出た。
空が見えた。
灰色の雲。
土煙。
倒れる塔。
傾いた城壁。
地面を走る巨大な亀裂。
人々が奈落から離れようと走っている。
その後ろで、建物が一つずつ沈んでいた。
奈落から出られた。
そう思った直後、地面が大きく傾いた。
白夜が掴んでいた縁ごと、地上の一部が奈落へ落ち始める。
手を離す。
二枚の翼を大きく開き、背部推進器を噴射した。
白夜の身体が空中へ逃れる。
足元では、道路も、兵舎も、救護所も、人間が暮らしていた場所も、すべてが同じ穴へ呑み込まれていく。
地上が見えた。
出口が開いたのではない。
地上の方が、奈落へ落ちてきていた。




