1-3・幽霊と邂逅
驚いて振り向くと、そこに立っていたのは長身の男。
廃墟のカーテンを引き千切ってきたかのような黒衣の下には、細く長い手足が見え隠れする。黒髪は伸びっぱなしで、血の気のない顔の大部分を覆い隠す。わずかな隙間から覗く漆黒の瞳が、威圧的にミラを見下ろしていた。
「す、すみません! 掃除を……、しようと。思って……。」
ミラは慌てて頭を下げる。
「掃除、だと?」
男は一瞬、目を細める。
ゆっくりとミラに歩み寄るが、足音が無い。
「そんな理由で訪れた者は、久しくいない。」
ミラは息を呑む。
(……まさか、この人が噂の『亡霊』……?)
だが、彼の姿は現実的で、たしかに目の前にいる。
「ここを『清める』つもりか。」
皮肉を込めた言葉には、妙な重さがあった。
ミラは少し戸惑ったのち、自分の靴を見つめながら応える。
「えっと……。ただ……、本が。」
「本が?」
「……好きなんです。放っておけなくて。」
ミラのあどけない返答に、男は諦念の笑みを浮かべた。
「馬鹿か、お前は。」
「えっ……。」
「陽があるうちに来ればいいものを。」
「昼間は、他の仕事が……。」
ミラがようやく顔を上げると、男の姿は無かった。
眼前に広がるのは、埃をかぶった本棚と、暗闇のみ。
ミラの背筋は震えた。
彼が本当に『噂の亡霊』だと、理解した。
その手に携えるランタンの灯は、風もないのに、かすかに揺れていた。




