謎は増える一方だ
その後。
彼とは用事があるということでお開きになった。
そして昼頃。
カイの情報を聞く為にカフェに向かって行た。
カフェに着くと先にカイが着いていた。
遠目からカイを改めて見ると怪しさ満載だな。
そういえば、カイの着ている黒い外套、どこかで見た気がするんだよな…。
まあ、気のせいか。
「早いな」
「まあな。席にどうぞ。」
「そうだ、本日2回目のこんにちはだな」
とカイが言い。
私は向かい側の席に腰を下ろす。
椅子に座るとその場に静寂が落ちる。
テーブルを挟んで向かい側に座るカイは、椅子にもたれながら腕を組んでいた。
「で?」
私がそう促すと、カイは珍しく真面目な顔をした。
(時々、真面目というか妙に真剣な顔になるんだよな)
そんなことを考えていると、カイが口を開いた。
「情報っていうか本題に入る前に、一つ聞きたいことがあるんだ」
「何?」
カイは少し目を細めた。
「ミア・ホープの遺体は確認したのか?」
その言葉に私は固まる。
「……どうしてそんなことを聞くの?」
「いや」
と、カイは軽く肩をすくめた。
「ただの確認だ」
「確認?」
「まあ、そういうことにしといてくれ」
と、どこか誤魔化すような曖昧な言い方だった。
(……何か知ってるのか?)
そう思う。
だが、それ以上カイは話そうとしなかった。
ミアのことを知っている人間はほとんどいない。
少なくとも、私の知る限りでは。
だからこそ、その名前が出てきたこと自体がおかしかった。
「それで?」
私が話を戻すと、カイは小さく頷いた。
「ああ。俺が集めた情報だ」
そう言って机の上に数枚の紙を置く。
「まず、お前の家族についてだ」
「家族?」
「正確には、お前の兄貴だな」
鴻。
その名前に私は顔を上げた。
「何か分かったの?」
「最近、色々調べ回ってるらしい」
「調べる?」
「何を探してるのかまでは分からねぇ。でも妙な動きをしてる」
私は黙り込む。
最近の鴻はどこか変だ。
以前と同じように接している。
それなのに、何かが違う。
その違和感だけが胸に残っていた。
「次はお前の婚約者だ」
「……ユイト?」
「ああ。あいつ、数年前のパーティーの日に様子がおかしかったらしい」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が小さくざわついた。
(おかしかった……?)
何かが引っ掛かる。
一瞬だけ。
誰かの視線。
何かを伝えようとしているような瞳。
そんな曖昧な光景が頭をよぎった気がした。
だが次の瞬間には霧のように消えてしまう。
「……そう」
「ああって、短すぎないか?」
カイが呆れたように言った。
「気にならないのか?」
「気にはなる」
私は答える。
「でも、何か思い出せそうで思い出せないんだ」
カイは少しだけ眉をひそめた。
「そうか」
そう言って紙をめくる。
「彼は一度だけ元に戻ったらしい」
「元に……?」
また胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
何かを知っている気がするのに、肝心な部分だけが見えない。
「詳しいことは分からねぇ。ただ、その後また様子がおかしくなったって話だ」
私は静かに考える。
先日、王城で見たユイト。
あの時の彼はどこか不自然だった。
まるで誰かに決められた言葉を読み上げているような。
そんな違和感があった。
「そして、お前の家族が何か知ってるかもしれねぇかもな」
とカイはそう言ってから息を吐いた。
「最後が王だ」
部屋の空気が少し変わる。
私は自然と背筋を伸ばした。
「王について色んな奴に聞いて回った」
「結果は?」
「変わらず、王は現れていない」
私は少し目を見開く。
「あの舞踏会にも?」
「ああ。本当に現れていないらしい」
カイは机を指先で軽く叩いた。
「しかも妙だった」
「妙?」
「聞いた連中がみんな似たような答えを返してきた」
私は眉をひそめる。
「似たような?」
「ああ、言い方や言い回しは違うが、内容が同じなんだ。まるで同じ話を聞かされてるみたいにな」
ぞくり、と背筋が冷えた。
「……」
「まあ、それは一旦置いとくとして」
と言い、カイは一枚の紙をこちらへ滑らせる。
「これがお前のところに届いた手紙と同じ形式のやつだ」
私は紙を見る。
そこには見慣れた王家の紋章が押されていた。
「その印章を押せて使えるのは王本人だけだ」
「え?」
「知ってる奴も限られてる。勝手に使える代物じゃない」
私は紙を見つめる。
王は現れていない。
だが王の印章が使われた手紙は存在する。
ならば。
「……王はどこにいるの?」
思わず零れた言葉。
しかしカイは首を横に振った。
「それがそこまでは分からねぇんだな」
部屋に沈黙が落ちる。
ミアは本当に死んだのか。
もし生きているなら。
嬉しい。
けれど、それとは別に少し複雑だ。
ユイトに何が起きているのか。
なぜ、思い出せないのか。
鴻は何を調べているのか。
そして王はどこにいるのか。
一つ謎が増えれば、また別の謎が現れる。
私は机の上の手紙を見つめながら、小さく息を吐いた。




