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ベランダからの訪問者

国王が去ってから数分後。


私達もまた、仮面舞踏会の会場を後にした。



夜風が頬を撫で、二つの月の光が眩しく感じた。


会場を出た瞬間。


先程まで全身を覆っていた張り詰めた感覚が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。


(……疲れた)


そう思った直後。


その感覚はすぐに消える。


まるで何事もなかったかのように。


まるでひび割れた小さな部分の穴が修復されるような。

埋まっていくようなそんな感覚がした。


私は小さく首を傾けたが、深く考えることは止めといた。


帰りの馬車にはシオが迎えに来ていた。


「お疲れ様です、玲様。鴻様。」


穏やかな声。


私は小さく頷いて言った。


「ただいま」


と短いやり取りだけだったが少し落ち着いた。


馬車は静かに夜道を進んでいく屋敷へと。



その後の記憶は曖昧だった。


屋敷に付き。


部屋へ戻り。


着替えたはずだ。


だが、それ以上はあまり覚えていない。


気付けば眠っていた。


そして。


次に目を開けた時には朝だった。


窓から差し込む光が部屋を明るく照らしている。


「……ん」


頭が少し重い。


昨日の疲れが抜けきっていないような感覚がする。


私はゆっくりと上半身を起こした。


(昨日のこと……)


聖女。


王。


違和感。


情報収集。


思い返そうとした瞬間。


何故か頭の奥が少しだけ痛んだ。


「……」


多分、疲れたんだな。


あれ、疲れたとは別に何か大切なことを考えて忘れているような。


そんな感覚。


だが思い出せない。


(何だっけ?)


私は小さく息を吐いた。


結局、その引っかかりを思い出すことはできなかった。



そして。


数日後。


私は自室で本を読んでいた。


窓の外では鳥が鳴いている声がする。


平和な昼下がり。


その時だった。


「お姫様ー」


聞き覚えのある声色。


私の動きが止まる。


「……は?」


窓の外を見る。


カーテンの裏側、ベランダの手すりの上。


そこには見覚えしかない男がいた。


黒を主にベースした先っぽが灰色の髪。


軽薄そうな笑み。


カイだった。


「なにしてるの」


「会いに来た」


「帰って」


「酷くない?」


全然傷付いていなさそうな顔で言う。


私はため息をついた。


「用件は」


するとカイは笑みを少しだけ薄くした。


その瞬間。


空気が変わった。


「調べたこと話すの忘れてそうだったから」


私の眉が動く。


カイは続けた。


「そうだ」


カイが思い出したように言った。


「何かさ気になってること一つ今、上げるとしたら?」


「…気になってること?」


「あぁ、何でもどうぞ。」


少し、考えてから。


「国王かな」


(色々思いついたがパッと頭の中に出てきたのは国王だった。)


「そっか。じゃあ、後で言うよ」


「え?」


「まあまあ、一旦今は置いといて。」


1拍間をあけてから。


「それに」


「時間があんまりないかもしれないんだ」


「…何が?」


問いかけても。


カイは答えない。


代わりに。


「前と同じ店」


そう言った。


「昼過ぎ」


「来るだろ?」


そして。


ひらりと手を振る。


次の瞬間にはもう姿がなかった。


まるで最初からいなかったかのように。


私はしばらく窓を見つめる。


胸の奥が妙にざわついていた。


時間がない。


その言葉だけが引っ掛かる。



そして数時間後。


私は再びあのカフェへ向かった。


店内へ入る。


窓際の席。


カイは既に座っていた。


私は向かいへ腰を下ろす。


すると。


先程までの軽い雰囲気ふっと消えた。


笑みもない。


その瞳だけが静かに玲を捕まえていた。


「さて」


カイは指を組む。


「まず結論から言おう」


私は息を呑んだ。


カイは静かに淡々と告げる。


「お前が感じた違和感は正しい」


そしてその一言で。


空気が変わった。


「王は――」


カイの目が少し細くなる。


「何かがおかしい」

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