違和感
「お久しぶりです。」
「玲様」
「…。」
(いつの間に)
彼女(聖女)は一拍だけ間を置いた。
そして静かな声で言う。
「今宵の仮面舞踏会は楽しめましたか?」
「……」
「もうそろそろ終幕の時間です」
私は黙ったまま彼女を見る。
(言葉がでてこなかった)
彼女は変わらず失うことなく微笑んでいた。
だが。
その笑顔の裏(奥)に何かあるような気がした。
「あなたが何を知り」
「何を探しているのか」
「私は知りません」
穏やかな声。
優しい声音。
なのにどこか冷たい感じ。
「ですが」
聖女は続ける。
「本当にそれを続けるのでしたら」
「私達には関わらないことです」
玲の瞳が僅かに揺れた。
私達。
その言葉が引っ掛かる。
聖女はゆっくりと頭を下げながら、ドレスの裾を持ち広げた、そして片方の手を胸に当て頭を深めにさげた。
「これは忠告ですよ」
と言い終わると同時に風が吹く。
淡い金色の髪が揺れる。
「では」
「さようなら」
聖女は微笑む。
「また会いましょう」
私が言葉を言うより早く。
さぁ……。
と夜風が吹いた。
サラッとドレスの裾が揺れる。
思わず目を細め視線を下げる。
そして。
次に視線を上げた時には。
そこにはもう誰もいなかった。
(……何だったんだろう)
静かな庭園に思いだけがスゥと溶けていく。
私は小さく息を吐いた。
だが。
考えるのは後だ。
まずは会場へ戻らなければならない。
「……」
私は周囲を見回す。
噴水。
花壇。
生垣。
見覚えしかない景色。
「……迷ってたんだった」
小さく呟いた。
数分後。
見回り中だった護衛に発見され。
私は無事に会場までへと連行された。
会場は先程とは変わらず賑わっていた。
笑い声。
音楽。
煌びやかな灯り。
そして。
会場の中心には彼女(聖女)がいた。
令嬢達に囲まれ。
騎士達に囲まれ。
貴族達に囲まれ。
誰に対しても変わらぬ笑顔を向けて接していた。
まるで。
先程の出来事など存在しなかったかのように。
私は思わず目を細める。
(…夢じゃないよね)
聖女の言葉が頭に残る。
『私達に関わらないことです』
あれは一体何だったのだろうか。
その時だった。
ギィィ……
と重く重低音が鳴り扉が開く音が会場に響く。
会場中の視線が一斉に向く。
「国王陛下だ!」
誰かがそう叫んだ。
ざわめきが全体に広がっていく。
私もそちらへ視線を向ける。
王が入場する。
顔は同じ。 声も同じ。
それなのに。
妙な引っ掛かりが胸に残った。
(……違う気がする)
そう、なぜか直感的に思った。
話し方も。 仕草も。
いつもと変わらないはずなのに。
説明できない違和感だけが消えなかった。
それが妙に引っ掛かる。
そして王は皆に挨拶をする。
その後、
「では皆様、私は少々用事がありますので」
「失礼させていただきますね」
と軽く微笑んで去る。
周囲は、
「お忙しいのですね」
「仕方ありませんわ」
くらいの反応。
でも私は変な感じが消えない。
(本当に同じ人?)
と思った。
さらに王が退出した後で鴻に聞く。
「今日の王様、何か変じゃなかった?」
すると鴻は
「いや?」
と答える。
他の人に聞いても
「いつも通りだったと思いますが?」
と言われ。
(気にしすぎなのか?)




