表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
66/85

フラッシュバック

今回はシオがメインです。

シオは廊下を歩く。

今日はいつもより少し早足で。


(玲様が悪?記憶の中では悪という記憶があるが、なぜか、“違う”と心の奥でそう思う。)


(昨日から何かが変だ。気持ち悪いというか)  (まずいなとは思っているが一体どうすれば)


(それにミア、様。自分が口にした名前だが、思い出せない。)



静かな屋敷の空気に、微かに風が揺れ焦りが混じる。



思い出せないなと悩んでいた。


そのとき、頭の奥で、柔らかな声がかすかに響いた。


──「大丈夫だよ、シオ」


とっさに振り返るが。

廊下には誰もいない。



けれど、その声に導かれるように、意識の奥が光を帯びた。その瞬間、頭の中のもやが一瞬消えた気がした。


その時、古い記憶を思い出す。


頭の中に流れてきたのは。

幼い日の記憶。


自分より背が小さな子に引っ張られ歩く感覚。

小さな手を握る感触。

温かくて、確かな重み。

でも、誰の手なのかは思い出せない。


──「こわくないよ。お姉さまやお兄さまも一緒だもん」


お姉さま?お兄さま?

声は柔らかく明るい。誰かに似ていた。

でも、記憶の輪郭(顔部分)はぼやけてて、あまり見えず、煙のように消えそうだった。


雲一つない空。

一つの木々の下。

赤や黄色や青の花。

庭の隅に小さめの花畑みたいな場所に咲いていた花の色。

その花に止まっていたてんとう虫を観察したり花を四人で見つめたり、花の冠を作ったり笑い合ったりとのんびりとした瞬間の空気の感じ。


──懐かしいのに。


あぁ。


それにこないだまでいたはずだ。

はっきりとはまだ、思い出せないが。


そのとき、廊下の向こうで、足音が響く。

使用人かもしれない。

けれど、胸の奥のざわめきは止まらない。


──誰も、覚えていない。

──でも、私は覚えている。


微かに手に残る感触。

微かに耳に残る声。

脳裏に浮かんだ景色。


「…そうだ。」

心の中で呟く。


何で忘れていた。


彼女は──ミア様。鴻様と玲様の妹。


名前を思い出すだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。

だけど、詳細はまだ見えない。

輪郭はぼんやりと、煙の中で光を放っているだけだ。


シオは小さく息をつく。

握りしめた拳に力を込め、再び歩き出す。


──思い出せ、私。

──彼女は、確かにここにいた。


玲様と、鵺様と。あともう一人。


「—くっ」

鋭い痛みが頭を貫いた。


視界が揺れる。

壁に手をつく。

何故だ。


ミア様のことは少しずつ思い出せている。

なのに。


“もう一人”だけが思い出せない。

そこだけ、深い闇に沈んでいるみたいに。

まるで世界そのものが、記憶を閉ざしているみたいだった。



喉の奥が少し冷える。

呼吸をするたび、何かが消えていく気がした。


もし、このまま全部忘れてしまったら。

もし、自分まで思い出せなくなったら。


だが、それ以上に。

仕えている人を忘れていたことが耐え難かった。


シオは静かに目を伏せる。

深く息を吸い、そして、ゆっくり顔を上げた。


握りしめた拳に再び力を込め、歩き出す。


廊下の壁を染めるオレンジがかった赤深紅の光。

それはまるで、記憶の欠片をそっと照らす光のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ