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「なぁ、俺と手を組まないか?」

男は笑みを浮かべたまま言う。

「なぁ、俺と手を組まないか?」


「……誰」


「警戒強いな」


男は肩を竦める。

それから

「カイだ。好きに呼べ」


「……」


玲は黙ったまま男を見る。

黒い外套。 隙だらけに立っているのに、 妙に視線を逸らしたくなる。


「そんな睨むなって。傷つく」


軽い口調。 なのに。

空気だけが、妙に重い。


「……何」


「単刀直入に言う」


その瞬間。 男の笑みが、少しだけ薄れた。


「俺は、“聖女”の秘密を知りたい」


玲の瞳が僅かに揺れる。


カイはそれを見逃さなかった。


「やっぱり反応するか」


細く笑う。


「なぁ、玲」

「お前も、違和感あるんだろ?」


「……違和感?」


玲が小さく繰り返す。


カイは笑いながら言う。


「あぁ」


まるで世間話でもするみたいな軽さで。


「おかしいと思わなかったか?」

「周囲は“ミア”を認識できない」

「なのに聖女だけは知ってる」


玲の呼吸が、僅かに止まる。


カイは止まる事なく続ける。


「しかも、あの場の連中は誰も引っかからなかった」


「お前だけだ」


「……」


「世界が“そう認識させなかった”みたいだった」


ぞわり、と。

背筋を冷たいものが撫でた。


その表現は、 玲が心の奥で感じていたものと、 あまりにも一致していた。



「……何を知ってるの」


玲の声は相変わらず低いまま。


カイは答えない。

代わりに、少し首を傾げる。


「逆に聞くけど」

「お前、“いつから”気づいてた?」


空気が止まる。


玲の指先が、微かに強張った。


カイの目が細まる。

まるで観察するみたいに。

試すみたいに。


「自分が、この世界から浮いてるってことに」


沈黙。


遠くで鐘の音が鳴る。


夕暮れが近い。

赤い光が、石畳を長く染めていた。


カイはふっと笑う。


「安心しろよ」


「別に敵じゃない」


その言葉だけが、 妙に軽かった。


玲は黙ったままカイを見る。


黒い外套。 掴めない笑み。 軽い口調。

何一つ信用できない。


なのに。

何で。


「……知ってるの」


玲がぽつりと呟く。


「ミアのこと」


カイの目が、僅かに細くなる。


「多少は」


曖昧な返答。

けれど。


その瞬間。

玲の中で、何かが引っかかった。

屋敷の人間は忘れていた。

シオも。

使用人たちも。

まるで最初から存在しなかったみたいに。


なのに。

目の前の男と聖女だけが、 “ミア”を知っている。


(……何かある)


そう確信した。

カイは玲を見ながら、 ふっと笑う。


「まぁ、お前が警戒するのも分かる」

「いきなり現れた怪しい男だしな」


「……自覚あるんだ」


「あるある」


軽い。


本当に軽い。


けれど、 その軽さの奥に、 何か別のものが沈んでいる気がした。

底の見えない沼みたいに。


「でもさ」


カイの声が少しだけ低くなる。


「お前、このまま一人で探す気か?」


玲は答えない。


「無理だと思うぞ」

「この世界、お前が思ってるより面倒だから」


風が吹く。

黒い外套の裾が揺れた。


「原作を壊したいんだろ?」


玲の瞳が揺れる。


「……っ」


「図星か」


カイは笑う。


でも。

今度の笑みは、 どこか楽しそうだった。


「なら協力しようぜ」

「利害は一致してる」


「俺は聖女を調べたい」


「お前は、この世界の違和感を知りたい」


「悪くない取引だと思うけど?」


玲は沈黙する。


夕陽が落ちる。

世界が赤く染まる。


頭の奥が、少し痛んだ。


原作。


ミア。


聖女。


忘れられた存在。


そして。

“世界が認識を歪めている”という感覚。

一人じゃ辿り着けない。

そんな予感だけがあった。


玲はゆっくり目を閉じる。

それから。


「……条件」


カイが片眉を上げた。


「ミアについて知ってること、隠さないで」


数秒の沈黙。


カイは玲を見る。

じっと。

探るみたいに。


やがて、 小さく笑って言った。


「全部は無理」

「でも、話せる範囲なら」


正直なのか。 誤魔化してるのか。

分からない。

分からないけど。


玲は静かに息を吐いた。


そして。


「……分かった」


小さく言う。


「手を組む」


その瞬間。

カイの笑みが、ほんの僅かだけ深くなった。


夕陽のせいだったのか。


それとも。

別の何かだったのか。


玲には分からなかった。

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