知らされる事実
扉の外で、慌ただしい足音が響く。
「報告です!」
勢いよく扉が開かれる。
護衛の息は荒い。
「…ミア…ミア様の――」
言葉が、そこで切れる。
全員の視線が集まる。
そして。
「――手がかりが、見つかりました」
その後、鴻達は急いで王宮に行き、話を聞いた。
最初は鴻達も”手掛かりが“と喜んでいたが、話を聞くうちにその喜びは打ち砕かれ、絶望に染まっていった。
だが…その一方でミアの遺体の話になるとあからさまに伏せられた。
翌日
重たい水の底から、引き上げられるように。
堅く沈んでいたものが引き寄せられるように。
玲は、ゆっくりと意識を浮上させた。
「――玲!」
誰かの声が聞こえ、それに続いて椅子が擦れる音、そして、足音が近づく。
まぶたを開くと、光が刺さる。
滲んだ視界の中に、いくつもの影が揺れていた。
鴻。
シオ。
――そして、もうひとつ。
「……起きたか」
すぐ傍で、低い声が落ちる。
玲は、わずかに視線を動かす。
ぼやけた輪郭が、少しずつ形を結ぶ。
そこにいたのは――ユイトだった。
眠っていない目。
削られたような顔色。
だが、その視線だけは、ずっと変わらず玲を捉えている。
(……ずっと、いたのか)
不意に、そう思う。
時間の感覚は曖昧なのに、
“離れていない”ことだけは、なぜか分かった。
喉が乾く。
声は、かすれる。
それでも玲は、迷わなかった。
「……ミアは?」
空気が止まる。
……数分の沈黙。
その中で、ユイトの指先が――ほんのわずかに動いた。
だが、答えたのは彼ではなく。
「……玲」
鴻の声。
玲の視線が、ゆっくりとそちらへ向く。
その瞬間。
「――少し、席を外す」
低く、短く。
あまり、堅くなくふんわりと…。
ユイトの声が落ちた。
誰も止めなかった。
止められなかった、と言った方が近い。
彼は立ち上がる。
一度だけ、振り返り、影を落としながらどこか安心したような、消えそうな瞳で玲を見た。
そして、何かを言いかけ飲み込んで――やめる。
その後、そのまま扉へ向かい。
静かに、出ていった。
扉が閉まる音は、やけに小さかった。
……だが。
その“静けさ”が、妙に耳に残った。
玲は、しばらくその方向を見ていた。
(……逃げたな?だが何で彼はあんな……。)
そう判断する。
だが――
(……違う)
あれは、“逃げた顔”じゃない。
もっと、決定的な何かを抱えた顔だった。
感情ではなく、判断としてそう思う。
なぜかは分からない。
だが、“あの場にいられなかった”理由がある。
残された空気が、それを物語っているようだった。
「……何があったの?」
玲は視線を戻す。
今度は、逃がさない。
鴻とシオが、わずかに顔を見合わせ、頷く。
そして。
シオが口を開く
「王様の兵にも協力をしてもらい捜索中に報告があり……。」
シオに続いて。
「ミアは、見つかった」
鴻が言う。
玲の指先が、微かに動く。
「崖の下でだ」
続く言葉。
「……助からなかった」
静かに、落ちる。
その瞬間。
玲の中で、何かが一度だけ凍りつく。
だが――
完全には、沈まない。
「……事故、か」
ぽつり、と。
その一言に。
ほんのわずかに。
シオの呼吸が、乱れた。
「……ああ」
答えは返る。
だが、ほんの一瞬。
“間”があった。
玲は、それを拾う。
(……違うな)
そして同時に。
もうひとつ、確信する。
(あいつも、知っている)
さっき出ていった男の顔が、浮かぶ。
あの一瞬の沈黙。
言いかけて、やめた言葉。
あれは――
「……彼は?」
玲が問う。
鴻が、扉の方へ視線を向ける。
「すぐ戻る……はずだったが」
だが。
戻らない。
数分。
十分。
さらに時間が過ぎても――
足音は、戻ってこなかった。
「……おかしい」
誰かが呟く。
玲は、何も言わない。
ただ、静かに思う。
(消えたな)
まるで最初から、そこにいなかったみたいに。
けれど。
違う。
確かにいた。
あの体温も、視線も、声も。
全部、現実だった。
だからこそ――
その不在は、異様に重い。
部屋の空気が、ゆっくりと冷えていく。
そして玲は、目を閉じた。
悲しみではない。
整理でもない。
ただ。
ひとつだけ、確かなものを掴むために。
(ミア)
(彼)
点と点が、まだ線にはならない。
だが――
確実に、繋がっている。
見えない場所で。
静かに。
確実に。
大きく。
物語は、さらに深く沈んでいく。




