影の撤退
倉庫の空気は張り詰めていた。
私の脈は速く、血の熱が足を重くする。
影たちが迫る。速い。精密。訓練されている。
「……あと三」
私は息を整える。体が火照る。
だが痛みは不思議と気にならない。まだ。
刃が飛ぶ。
音はわずか。空気が裂けるような感触だけが伝わってくる。
シオが前に出て、敵の攻撃を流す。
鴻が入口から援護射撃。倒れる敵の影。
しかし一人だけ、違った。
静かに観察し、動きを読んでいる――圧を持つ存在。
私も身構える。
気配が、今までの敵とは段違いだ。
刃が肩をかすめる。浅い切り傷。
だが血がじんわりにじみ、心に何か重いものを落とす。
「……くっ」
踏み込む足がわずかに止まる。痛みか、違和感か。
「玲様!」
シオが声をかける。
敵は一瞬迷ったように立ち止まる。そして、全員が一斉に後退を始めた。
「……なんだ?」
鴻が眉をひそめる。敵は明確な理由もなく、消えるように引いていく。
空気が静まり返る。
戦闘は、終わった――一見、だが確かに何かが残る。
床には浅い血の跡。影たちは何も残さない。
シオが周囲を確認する。
異常なしです。敵の撤退は完了。
「敵の目的は…不明」
短く言いながらも、言外に警戒の色が滲む。
私は太ももを押さえ、止血する。浅い傷。
だが奥に残る何かがあるような気がしてならない。
(表面は塞がった。でも、奥では何かが残っているような思いがする……)
シオはまだ、警戒しながら考え事をしている。
鴻の方を見ると自分でも敵がいない事を確認し、こっちに視線を投げてから駆け寄ってきて、私を支えてくれた。
「大丈夫か!」
「……大丈夫」
「本当に…無理もしてないか?」
痛みはある、だが耐えられる。
それでも、血の温かさと微かな違和感は、私に何かを告げていた。
翌日
ミアや他の人間には一切知られず、戦闘の痕跡は消えていた。
だが私の心と体には、静かに深く残る。
(傷は浅い。でも、これが私を縛る日が来るかもしれないな――)
私は視線を前に向ける。
敵は消えたが、物語はまだ終わっていない。
会場や日常には何も変わらない光景。
だが、裏では影が動き、次の試練を静かに待つ――。はある。だが耐えられる。
ミア達が楽しく過ごせるなら……。私は…




