戦い
床に落ちた血が、ゆっくりと広がる。
「玲様、動かないでください」
シオの声は冷静だった。
だが、その奥にわずかな焦りが混じる。
「……平気」
短く答える。
だが足に力が入らない。
撃たれたのは太もも。
致命傷ではない。
――だが、動きは確実に鈍る。
上。
まだ、いる。
「一人、上に…」
「確認済みです」
シオはすでに構えている。
銃口が天井へ向く。
だが――
「……来ない?」
違和感。
撃ってきたのに、追撃がない。
その瞬間。
「――横です!」
シオが叫ぶ。
壁。
次の瞬間、
倉庫の側面が内側から“崩れた”。
音がないまま、影が滑り込む。
足に力を入れる。
――遅れる。
わずかに。
その一瞬。
影が踏み込んでくる。
速い。
「……っ」
腕で受ける。
刃が滑る。
布が裂ける音。
浅い。
だが。
重い。
(力が違う)
押される。
後ろへ。
足が――
踏ん張れない。
ーっ…。
「玲様!」
シオの声。
視界の端で、別の影が動く。
二人。
同時。
(連携)
前と横。
逃げ場を潰す動き。
呼吸を止める。
耳。
――微かに。
擦れる音。
右。
そっちが先。
体を捻る。
刃が空を切る。
同時に、前の敵の懐へ踏み込む。
近い。
拳。
打つ。
鈍い感触。
だが浅い。
(硬い……防具)
その瞬間。
――来る。
背後。
避けきれない。
「――下がってください」
と言い。
シオが割り込む。
金属音。
火花。
シオの刃が受け止める。
そのまま流す。
体重移動。
滑らか。
敵の体勢が崩れる。
(シオ視点)
三人。
動きは統一されている。
だが――
一人、違う。
後ろ。
動いていない。
観察している。
(指揮……?)
違う。
(あれが本体なのか)
視線だけで圧がある。
「……」
まず削る。
目の前。
一人。
呼吸を読む。
無音ではない。
わずかに、ある。
踏み込みの“前”。
空気が動く。
そこ。
シオは一歩だけ前に出る。
敵が反応するより先に。
斬る。
浅い。
だが。
十分。
次の瞬間、蹴り。
顎を打つ。
崩れる。
「玲様、右」
(玲視点に戻る)
右。
来る。
だが――
遅い。
読める。
訓練のおかげだな。
音。
わずか。
それだけで十分。
体を沈める。
低く。
刃が頭上を通る。
そのまま、足払い。
敵が浮く。
落ちる。
肘を叩き込む。
動きが止まる。
一人。
落とした。
息が上がる。
足が熱い。
血。
止まっていない。
だが今はそれよりも脈が早い。
(興奮する。)
(って何考えてるんだ)
集中。
「……あと三」
その時。
空気が変わる。
一人。
動く。
今まで動かなかった奴。
音が――
ない。
(違う)
聞こえない。
完全に。
さっきの人達とは大違い。
「……っ」
来る。
認識した時には、
もう、目の前。
速い。
今までと段違い。
反応が、遅れる。
「玲様!」
シオが動く。
だが間に合わない。
刃。
振られる。
避ける。
――浅いが、切られる。
肩。
「ちっ……」
距離を取る。
あいつだけ違う。
技術じゃない。
(完成度が高すぎる)
呼吸も。
気配も。
殺している。
「……あれは私が」
シオが言う。
即座に。
「駄目」
短く否定。
「二人でやる」
一人では危険。
それは分かる。
一瞬の沈黙。
「……了解」
その時。
ーパァッン
一つの銃声音が響く。
入口。
乾いた音が響きの後、一人、崩れる。
息を切らした鴻が立ってた。
「大丈夫か!」
「…遅い」
「随分苦戦してるな」
っ…。玲の痛々しそうな足が目に入る。
瞬間、理性を捨てそうになったが何とかとどまり。
残りの敵を見る。
瞬時に周りを見て状況を整理する。
そして、
一番強い人へ視線を向ける。
「……あいつか」
空気が、さらに張り詰める。




