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消えた噂と記憶

屋敷の一室。


こないだの噂の調査の続き。


机の上には、何もない。


本来なら。


情報があるはずだった。


噂の出どころ。

広がった経路。

関わった人間。


だが。

何も残っていない。


「……不自然だな」


小さく、呟く。


シオは答える。


「はい」


「ここまで綺麗に消えるものではありません」


その通りだ。


噂は、広がるものだ。

形を変え。

人を変え。

場所を変え。

完全に消えることは、ほぼない。


それなのに。


「痕跡がない」


確認するように言う。


「はい」


「記録だけではありません」

「証言も、曖昧になっています」


曖昧。


「……覚えていない、か」


「そのようです」


間。


「あり得るか」


問い。


シオは、少しだけ考える。


そして。


「通常であれば、困難かと」


通常であれば。


「だが」


鴻は言う。


「例外がある」


沈黙。


シオの視線が、わずかに上がる。


「……お聞きになったことが?」


「ああ」



昔。

断片的に聞いた話。

伝承。

あるいは、ただの噂。


「この国には」


言葉を選ぶ。


「記憶に干渉する“何か”があると」


空気が、わずかに変わる。


シオは否定しない。


「完全な書き換えは不可能とされています」


「だが」

「“曖昧にする”ことは」


言葉が止まる。


「可能性は、否定できません」


それで、十分だった。


「……なら説明はつく」


噂が消えた理由。

証言が揺らぐ理由。


すべて。


「だが」


そこで、思考が止まる。


「それを扱えるのは」


言葉にしない。

する必要もない。


シオも、理解している。


「限られます」


短く。


それだけで、十分だった。


「……ああ」


国家。

あるいは、それに準ずる存在。


個人ではない。


「厄介だな」


小さく、呟く。



ふぅーと一息吐いた。


その後、話をまとめた。

一つ、痕跡や噂の証言が曖昧

二つ、記憶が書き換えられた

三つ、玲が少なからず関係している


まとめながら思うこれは…いや、今は玲達に何も起こらないようにするのが優先だ。


あの2人には気付かないでほしい。そのまま、楽しくいてほしい。



それにしても。

噂が消えたのに。

静かだ。


貴族達や民達は違和感を感じないのか?


数日で国全体の記憶をやるのには無理がある。

だから、今、俺やシオや玲達は覚えている。


だがなんのために消したんだ?

いや、考えるのは予想これ以上は玲達に危害が及ぶかもしれない。



だが。

確実に。


手が伸びている。

見えない場所から。


玲へ。


「……」


目を閉じる。


守る。

それだけは、変わらない。


たとえ。

相手が、見えなくても。

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