消えた噂(鴻視点)
一週間後
玲の小さな噂だったはずが大きな渦のように広がった。
「過去にも……あったらしいよ」
「恐ろしい…」
「……らしいって」
「やっぱり、そうだと思った。」
「…何で生きているんだ。」
「ミア様、可哀想に‥」
「……目が…」
「…不気味よね」
そんな噂や言葉が渦のように巻き上がっていった。
そして数日。
たったそれだけで、消えた。
街は静かだ。
あのざわめきは、もうない。
視線も。
噂も。
何もかも。
嘘のように。
「……早すぎる」
思わず、口に出る。
普通じゃない。
広がり方も異様だったが。
消え方は、それ以上だ。
「はい」
シオが答える。
いつも通りの声。
変わらない。
「痕跡は」
スゥと一息ついてから。
「ほとんど残っておりません」
短い報告。
ならば残っていない、ということは。
消された、ということか。
「人為的か」
「その可能性が高いかと」
間。
「……誰が」
答えはない。
分かっている。
簡単に出るものではない。
だが。
「調べた記録が消えていた件は」
「同様です」
「追跡も途切れています」
途切れる。
自然ではない。
「……手が早いな」
小さく呟く。
先回りされている。
こちらが動くより前に。
「探りを続けろ」
「承知いたしました」
それしかない。
今は。
視線を落とす。
机の上。
何もない。
本来なら。
ここには、情報が並んでいるはずだった。
名前。
経路。
発端。
全部。
ない。
「……」
息を吐く。
玲の顔が浮かぶ。
何も知らないままの顔……。
いや、もしかしたら、気づかないように無意識にしているのかも知れんな。
ミアの声も。
いつも通りだった。
知らない。
気づいていない。
それでいい。
…それでいいんだ。
「玲には」
「はい」
「言うな」
「ミアにも」
「かしこまりました」
守る。
それだけは、変わらない。
だが。
守れているのかは、分からない。
静かだ。
あまりにも。
嵐の後ではない。
嵐の前だ。
「……」
目を閉じる。
見えない。
だが。
確実に、いる。
こちらを見ている。
誰かがそんな気がする。
何もせずとも。
次を、待っている。
まるで何かの筋書きの上に少しずつ戻されていくような……。




