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小さな噂

一週間後。

屋敷は、変わらず静かだった。


……表向きは。


紅茶を注ぐ音。

カップが触れる、小さな音。


そよそよとした風。

まるで何かを運んでいるみたいに。


「最近、街が少し騒がしいですね」

使用人の声。


何気ない。

ただの世間話のように聞こえる。


「そうかも」


私は答える。


それ以上は、続かない。

沈黙。


ほんの少しだけ、間があって。


「……噂、ですかね」


小さく。

聞こえるかどうかの声。


私は何も言わない。

聞こえていないふりをする。


それでいい。

それ以上は、必要ない。


ミアは気づかない。

それで良い。


「お姉様、このお菓子美味しいです」


嬉しそうに笑う。


変わらない。

変わらないままで、いてくれる。


「そう」


私は頷く。


それだけでいい。



外に出る。

風が、少しだけ冷たい。

街はいつも通り。


人がいて、声があって、動いている。


なのに。


視線が、残る。

一瞬。

通り過ぎるはずのそれが、

ほんの少しだけ、長い。


「……」


何も言わない。


ただ歩く。

それでいい。


「見た?」


後ろで、声。


「うん、あの子でしょ」


「近寄らない方が……」


足は止めない。


「やっぱり、本当なんじゃ?」


「目が――」


そこから先は、聞こえない。


聞かない。

必要ない。



屋敷に戻る。

変わらない空気。

整えられた廊下。

決まった音。


だが。

何かが、少しだけ違う。

言葉にならない程度に。



その頃。

別の部屋。


「……最近、妙だな」


鴻が言う。

低い声。

誰に向けたわけでもない。

だが、隣にはシオ(執事)がいる。


「街の空気が、ですか」

「それもある」


少し間。


それから


「玲に向けられているものがある」


言葉は少ない。

だが、はっきりしている。


シオは目を伏せる。


「……把握はしております」

「なら早い」


鴻は視線を上げる。


「誰が流している」


命令ではない。

問いでもない。


確認。


「まだ断定はできません」


「ですが、上流の一部から広がり始めています」


「意図的だな」


「ええ」

短く。

静かに。


鴻は少しだけ黙る。

考える。


そして。

「探る」


一言。


シオは頷きつつ。

「承知いたしました」


「玲には言うな」


その言葉は、すぐに続いた。


迷いはない。


「それとミアにも」


「かしこまりました」


沈黙。


部屋の中は静か。

外の音は届かない。


「……必要ない」


鴻が小さく言う。


何に対してかは、言わない。


だが。

意味ははっきりしている。



その頃。

玲は、窓の外を見ていた。

空は、変わらず青い。

何も変わらないように見える。


けれど。

確実に、何かが動いている。


名前のない違和感。


妙に変な視線。

言葉。

どこからともなく積み重なっていく声。


形のない歪み。

まだ、小さい。

まだ、届かない。


だがそれは。

確実に、近づいていっている。



それらが後に玲をむしばむとは知らずに。

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