Parallel 君と二人で 幼馴染組2
今回は義人編です。前半はちいの視線で、後半は義人視線…というか高専組のやりとりで進んでいきます。
side ちい
「おはよう、久しぶり」
「うん。よっちゃん、大丈夫?インフルエンザ?」
「あぁ、心配掛けたな。綾乃がインフルエンザだって?」
「そうなの。困ったものよ」
「だったら、1週間俺の家から通えよ。お前の泊まる部屋はあるんだし。母さんどう思う?」
いつもは自転車で駅まで来るよっちゃんが、今日はおばさんの送迎だ。これは本当に珍しい。
「その方がいいわね。おふとんとかはおばちゃんが用意しとくから、ちいちゃん今夜からいらっしゃい」
「えっ、でも…」
「そんな事言わないで。今日、パパが午後から直帰で君塚に行くから、二人一緒に帰ってらっしゃい。雪が降ってもパパとの待ち合わせは変更なしよ。ちいちゃんはよっちゃんから詳しい事を聞いておいてね」
「はいよ」
「すみません、おばちゃん。甘えちゃって」
私は申し訳なくて、つい叔母に謝ってしまう。
「いいのよ。だってあなたは、姉さんの大事な忘れ形見だもの。この位はさせて頂戴」
「そう言われると断れないですね。お世話になります。行ってきます」
私とよっちゃんは駅の構内に向かう。
「そう言えば、広瀬先輩は?」
「とも君の試験前で、互いにインフルエンザになりたくないから、彼女の家から通ってるよ」
「…いいのかよ?」
「彼女、卒業したし、いつも一緒にいたから平気でしょう」
私は然程気にも留めないで話す。
今までだってイベント前日はお泊まりだったのだから今になって騒ぐのは変だと思うんだけど…。
「じゃあ、暫くは、俺はちいと一緒に通える訳だ。すっごく得した気分なんだけど」
「よっちゃん、前を見て。危ないから…」
「えっ?いってぇ…」
前を見ないで歩いていた寄っちゃんは鉄骨の柱にぶつかった。
今もそうだけど、昔からよっちゃんはそそっかしい。
よっちゃんは、ぶつけた肩をさすっている。
「ちい…可哀想な俺を慰めて?」
「い・や・だ。反省しなさい」
「今日のお前、何か冷たい」
よっちゃんは、拗ねた子供の様な言い方をする。ちょっとだけカチンとする。
「やかましいな…全く、この人は。痛いの痛いの飛んで行け~?」
私が冷たいと散々文句を付け、電車に乗ってもブツブツ言っているので、仕方なく子供にする様な対応をワザとしてみた。
「嬉しいけど…切ないのはどうして?」
「さあ?待ち合わせはどこにする?」
「そうだな。マックにしとこうぜ。今日の親父は君塚支店は打ち合わせって言ってたからさ。マックだと支店から近いし。先に着た方が席をキープって事でいいか?」
「うん。分かった。ねぇ、よっちゃん…今日って雪が降るのかな?」
待ち合わせ場所が分かって、窓の外にふと目線を映す。
そこから見えるのは、いつ降り出してもおかしくない位のどんよりとしたくもり空。
「ありえるかもな。ちいは寒さに弱いんだから寒くないようにしろよ。大丈夫か?」
不安そうに外を見ている私に気がついたのか、よっちゃんが気を使う言葉をかけてくれる。
「うん。これでもしっかりと着こんでいるのよ。ありがとね。」
やがて、君塚の駅に着き、改札に向かう階段を二人で登っていく。
「よっちゃん、それじゃあ、放課後ね」
「分かった。またな。気をつけろよ」
「うん」
私達は改札口を出てから左右に別れて別行動になる。
入学したころは直君達といたけれども、今は真奈ちゃんと一緒に通う日の方が多い。
私は改札口を右に曲がって切符売り場の奥で待っている真奈ちゃんの元に向かう。
「おはよう。真奈ちゃん」
「おはよう。ちい…なんか、着こんでない?」
「気のせいと言いたいけど、寒がりな私には本当に辛いんだから」
「はいはい。ところで新しい制服はどうするの?」
来年度から高等部の制服が一新される。今のセーラー服からブレーザーに変わる。
男子も学生服からブレーザーに変わる。
「普段、お金使わないからこの位は買ってもいいかなとは思ってるよ」
私達はゆっくりとバス停に向かって歩いている。
「でも…卒業式はセーラー服着用だよ?分かってる」
「分かっててもよ。胸元からの冷気はもうコリゴリです」
私は首をすくめて答えた。
「ちい、それじゃあな。約束忘れるなよ」
私の背後からよっちゃんの声がして、私は振り返った。
そこにいるのは、よっちゃんと同じクラスの方々。きちんと名前を聞いていないのでひと山いくらのリンゴ見たいな扱いで申し訳ないと思いながら今日もその対応をしている。
「皆さん、おはようございます。よっちゃんの事よろしくお願いします。了解だよ。行ってらっしゃい」
私がよっちゃん達に声をかけると、
「「「「「ちいちゃんとお友達、おはよう。寒いから気をつけてね、行ってきます」」」」」
と答えて、一気に走りだした。彼らとは同い年のはずなのに、朝から元気だなぁと思ってしまう。
私はそんな彼らにのんびりと手をヒラヒラと降っていた。
「よっちゃん…休んでた?」
「うん、妹ちゃんからインフルエンザ移されたんだって。で、昨日まで休んでたの」
「ふぅん。高専だと結構長い間休んでいると大変なのかな?」
「分からないけど、よっちゃんのお友達の佐山君からノートのコピーを届けて欲しいって渡されたりしたよ。だから何とかなると思う」
「さっきのひと山の中に、その佐山君とやらはいるの?」
「いない。佐山君は自転車だったと思うよ。コピーを貰ったのも、本屋さんの前だったし」
「彼らはちいと義人君の関係を知っているの?」
「私達がはとこまでは知ってるかは不明だけども、親戚である事は知ってるはずよ」
「それじゃあ、あの彼女はどうな訳?」
真奈ちゃんは個人名は出していないけど、誰の子とかはすぐに分かる。理絵か。
「途中編入だからどうか不明だけども、よっちゃんの事は隠していないから普通なら知っているはずだよ。緊急連絡先は自宅の次はよっちゃんの家だもの」
「それなら、何を言われても基本的には否定できるね」
「そうだけども、相手があの人ってだけで最大警戒ものよ」
私は苦笑いをする。彼女はとんでもない事まで使って悪意のある噂を流してくれる。
「その心遣いはいいと思うけど…。今までの噂で事実ってあったっけ?」
「振ったのは事実で弄んだが嘘と、夜遅く先生と一緒に歩いたが事実で付き合ってるが嘘とか?」
あいつに流された噂は微妙に事実が入っているから性質が悪くて困ったものである。
「先生の時は確か…」
「同じ英会話教室に通っているんだから、一緒の時間にレッスンの予約を入れてたら一緒になるでしょう?」
「その件はどうなったの?」
「休日以外は時間が合わないように職員室の中で予約を確認してるよ」
「それはそれでどうなのよ」
「それ以上は言わないで。何もないのを証明しているんだから…面倒くさい」
私は心底うんざりして答える。
「でもさ、本人は私達が感付いているのは知っているの?」
「それはないでしょう。有也先輩のお陰だけども」
「あぁ。アレね。バレたらヤバいのは確実なアレか」
「確かにね。私は穏やかに過ごしたいんだけども…どうしてこうなったんだか?」
私はそう言うと深い溜め息をつく。
「ちい、一人じゃないよ。私達もいるからね」
私達はその後は二日後のお手伝いの話題に代えたのだった。
side 義人
「おーい、見ろよ。雪が降ってんぜ」
クラス一お調子のモノの永山が外を見て叫ぶ。
そう言えば、こいつは7月ごろにちいにちょっかい出して玉砕したっけな。
やっぱり、降ってきたかって思う位に教室にいても冷えを感じる位だ。
俺は、外から見える丘の上のS校をぼんやりと眺めていた。
「うっちぃ!!何呆けているんだよ」
「別にいいだろ」
俺は素っ気なく答える。別に答える必要もないわけだし。
「何?何?愛しのちいちゃんのことを考えてた訳?」
「いいよな。彼女がいる奴はさ」
仲間が口々に言って俺に絡んでくる。こいつらも本当にしつこいな。
「そこは違うって何度も言えばいいんだろうな?ちいとは、はとこでそんな関係じゃない」
「文化祭に連れて来たじゃないか?」
去年の秋の高専祭の事を引っ張り出してきやがった。この説明も何度目になるんだろう…うっとおしい。
「アレは、生徒会の交流会で来ていて、校内で迷子になったところを俺と佐山が見つけて救助しただけ」
確かに文化祭に来た時は驚いた。かなり酷い人見知りなあいつが限りなく男子校に近い、俺らの学校に来た訳で、
後で目的を聞いて俺達は納得して、最終目的地の生徒会室まで届けたのだ。
俺らは直也先輩から褒められたが、ちいは直也先輩に怒られた上に、げんこつを食らって涙目。
直也先輩って、普段もああなんだろうか?ちょっとだけ不安になる。
「あれからたまにちいちゃんに会うけど、いつも大人しいよな」
「「「うんうん」」」
「まんまるな目で、ちょこちょこしてて、子犬みたいでさ」
「「「そうそう」」」
「なのに、しっかり者で、うっちぃの暴走を止めてくれるしさ」
「「「本当だよな」」」
「S校でも頭がいいらしいけど、ちっとも偉ぶっていないし」
「「「その通り」」」
「S校の奴らってお高く泊まっているイメージだもんな」
「「「普通はな」」」
「でも、あいつらって君塚高校とうちを落ちた奴が多いから無駄にプライド高いしな」
皆一斉にコクコク首を縦に振る。
それにしても、どんだけ、ちいに幻想を抱いていて、S校に対して苦手意識があるのだろう?
俺は隣の佐山に助けを求めようとしたのだが、佐山に留めを差される形になる。
「ところで…ちいちゃんは、どうしてS校にしたんだい?お前らの地元なら千葉の方が絶対に近いだろう?」
クラスの男どもでちいと面識のアレう奴が口々にちいを褒める。嬉しい半面、なんかモヤモヤする。
「あいつが決めた理由…そんなに知りたいのか?」
俺は皆に問いかける。
「だって、S校が本命だったんだろ?今の成績なら、君塚高校でも余裕じゃないのか?」
「分かったよ、聞いて呆れるなよ。まず、プールがなくて、私立としては学費が安くて、同じ中学の連中が通わなそうな所で世間体がいい所…だったかな?あいつさ、ああ見えて中学2年の時に体調崩して入院して欠席が多いんだ。だから公立だと相当レベル下げないと行けなかったらしくってな」
俺は仲間達に告げて見回すと、俺の予想通り皆して呆気に取られていた。
「すごく、分かりやすくて、そうですかと言えるけど本当にそれか?」
「ああ、あいつは、基本的に合理的な性格だから、計画立てて今も自分の計画通りに実行しているんじゃないのか?」
「プールがないって事は、泳げないのか?かわいいなぁ」
仲間の一人が、とんでもない妄想を口にしだした。しかたない、現実に引き戻してやるか。
「逆だ。中2でリタイヤしたけど、県大会ベスト16入りの力があるんだぞ。あれでも」
「「「「うっそぉ!!」」」」
「でも、運動してましたって体系じゃないよな。止めて急激に太ったようにも見えないし」
「そりゃそうだろ。今だって週に1度は泳いでいるし、毎日1時間位ジョギングしているからな。例えテスト中でも」
一気に場が静まりかえる。ちいを見ただけだとそうは思わないだろうな…確実に。
「かなりストイックじゃないか?イメージつかないな」
「現役時代のおやつはプロテインだった位だし。筋肉がつかないのを相当悩んでいたから。あいつ、あまり本音を俺にも言わないからな。涼しい顔をして、本当は凄く努力している」
「そう言うのを聞いちゃうと更にイメージアップしちゃうよな」
皆は一斉に首をコクコクと降っている。確かにちいは控えめだからな。
ちいの方も、俺と一緒にいればあいつらと話ができるようにはなってきている。
ちいとしてはどん底だった、2月のあの日の事をふと思い出した。
あの出来事は完全に過去のモノになったのだろうか?
「ちいちゃんって、好きな人はいるのか?」
本人には聞けないから、俺に聞いたんだろう。俺はどこまで言えばいいんだろう。
俺は、春に告白したけど、『よっちゃんは私の大事な幼馴染。今のままで側にいて欲しい』と言われ、一応振られている。
辛かったのは事実だが、今となったらこれで良かったと思う。
「どうだか。俺は振られているから」
「うっちぃで振られるって…。どんなタイプが好きなんだ?お前、分かるだろう?」
今度は皆に詰め寄られる。男に詰め寄られても俺はちっとも嬉しくはなれない。
「俺達でも、頑張れば…いけるのか?」
仲間の悲痛な叫びがすごく痛々しく感じつつ。俺は仕方なく口を開いた。
「俺が覚えている範囲でいいか?」
「あぁ、それでいいから」
「まずは、あいつより背が高い事」
「俺ら全員大丈夫じゃん、次は?」
「最低でも、50メートルは休まず泳げる事。あいつのプールは泳ぎに行くだから。自分の身長より深いプールに行きたがるぞ」
場は一気に静まる。こいつらにとっての越えられない壁はどうやら…ここらしい。
「うっちぃ…お前は?」
「あいつほどじゃないけど、俺も一応元スイマーだから」
「そっか。他にはないのか?泳ぎはどうにかするにしてさ」
「そうだな。男に甘やかされる、守られるだけの恋はしたくないってさ」
「なっ、なんだ?それ?」
「すごく奥深い恋愛観と言っていいのか?」
「そうだろうな。今度の恋は、私が相手を守れるように強くなってからじゃないとできないってさ」
奴らは一気に考え込む。機械バカが揃ったこの学校で、こんな曖昧な話を正確に伝えると言うのは本当に難しい。
「…要は、ちいちゃんは、カジュアルな恋がしたいという訳じゃないと」
「そうだな。あいつには本当に幸せになって欲しいんだ。その為なら、俺は何でもする」
俺は、初めて奴らに俺の本心を明かしてみた。皆びっくりしたように俺を見ている。
「内…お前って」
「ん?」
「本当に、ちいちゃんが大切なんだな」
佐山がしみじみと言う。
「あぁ。俺ら、親戚連中も、幼馴染にとってもな。だから、彼氏になると大変だぞ」
「何が?」
「皆がチェックするんじゃないか?皆、あいつに本当に幸せになって欲しいと望んでるから」
「今のちいちゃんは…幸せじゃないのか?」
「人並の幸せには程遠いだろうな。それでもあいつは幸せと答える。寂しくないと答える。だから、あいつが幸せって笑っていられる奴といて欲しいんだ。その役目は俺じゃない事は確かなだけさ」
俺は視線をもう一度S校のある丘の方に向ける。あっちの方がかなり激しく降っているんだろうなと考える。
「そうか。ちいちゃんなりに努力して今のちいちゃんがいるってことか」
「ああ。悪いな。重い話になってな。それに俺が簡単に話す訳にはいかない話もあるからさ」
「初めて知った話もあって、イメージがかなり変わったぞ。すごい努力家さんじゃないか」
「やっぱり、あんないい子がS校にいるだなんて」
「本当。そのまま大人になって欲しいよな」
「ちいちゃんの人見知りは元からなのか?」
「元からではない。俺は、ある現場に居合わせたけど、あんなに壊れたあいつはもう見たくない。それに、あの時の俺は何もしてやれなかった。だから、俺も…強くなりたいんだ」
「余程の事なんだが」
「あぁ。そうだ。いろいろあってな」
「いろいろ?」
「その事が原因で、恋をする事を封印しているから、今のあいつは」
「なぜ?」
「詳しくは言えない。お前らとちいの距離がもっと近づいたらな」
「分かったよ。彼女と付き合うには本気でなければならないってことだな」
「そういうことだ。あいつを泣かす奴は、誰だろうが俺は許さない。それが女であってもな」
俺が言いたい事は分かって貰えたのだろうか?
「ちいちゃんにとって、お前は?」
「きちんと、聞いてはないけど…恋愛感情抜きで一番近い所にいるんじゃないか?きっと」
「お前はそれで…いいのか?」
「俺なりに幸せだと思ってるから。だから…それでもいい」
そう言って、俺は窓の方に歩き出す。雪はドンドン深くなっているようだ。
グランドがうっすらと白くなっている。
「今日の放課後は?どうする?」
「俺、マックでちいと待ち合わせだから」
「何?一緒に行ってもいいか?」
「いいけど。俺達は、俺の親父の車で帰るから、仕事が終わるまでいるだけだぜ」
「だったら、少しだけちいちゃんに聞いてもいいか?」
「内容によるな」
「その位分かってるさ」
佐山はケロリとした顔をして俺に答える。本当にこいつは大丈夫なのだろうか?
内心不安にかられながら、俺達はマックに連なって向かう事になった。
駅前のマックに着くと、既にちいがコーヒーを片手に宿題をやっていた。
「お帰り。珍しく早いのな」
「うん、学校がね、あっという間に5センチ位積もっちゃったから、先生達も帰れなくなるって事で午後は休校になっちゃったの」
「さすが…山の上。なら…明日は?」
「明日は1日休校なの。あさっては入試だから、私は登校なんだけどね」
「どうして?ちいちゃんが学校なの?」
「生徒会役員として先生のお手伝い。保護者の接待としてお茶出ししたり、回答用紙と問題用紙の枚数を確認したり、細かいところだけど、人が必要な所を手伝うの」
「じゃあ、何もないと2連休なんだ」
「そうだね。でも連休明けは全科目小テストだもの。いいとは言えないね。それに前日は、野球部とサッカー部とバレー部が雪かきだって。だから、私達は文句が言えないの」
「それはまた大変な訳だ。生徒会は先生のパシリな訳だ」
「そうなんだけどね。教師と生徒会が仲がいいってことを強調しておけば保護者受けもいいでしょ?いやらしいの」
ちいは、そう言うと飲み残っていたコーヒーを飲みほした。
「で、ちいちゃんは何をやっている訳?」
「今は数学。私数学が一番学年順位が悪いから」
彼女は肩をすくめながら言った。
「順位が悪いってどの位?」
「50番以内の後半を行ったり来たり…大したことないでしょ?」
「それだけあれば十分でしょう?ちいちゃんは国立理系でも十分なんじゃない」
「とりあえず、俺達で良ければ見てあげようか?」
「いいのかなぁ?よっちゃん?」
「いいんじゃないか。とりあえずなんか頼んでくるぜ。ちいも待たせたから何かおごってやる」
「それなら、それと…物理も教えて貰おうかな。化学は真奈ちゃんが教えてくれたんだけどね」
「そっか、真奈ちゃんとは上手く言っているんだな。ちょっと待ってろな」
俺達は彼女を一人にして、その場を後にした。
「えっと、ハンバーガーセットとチョコレートサンデーを。スプーンは2本下さい」
「チョコレートサンデー?お前、甘いの好きだっけ?」
「まあ、いいから」
俺は注文した品物を持って、彼女のいる席に戻る。
そして、チョコレートサンデーをちいのテーブルに置いた。
「ちいも、休憩。眉間に皺がくっきりだぞ」
俺はそう言って、彼女の眉間をツンとつついた。
子供のころからずっとそばにいるからできる俺だけの少ない特権。
「よっちゃん…ありがとう」
「いいえ。かなり待っただろう?」
俺は座って、ハンバーガーセットを食べ始める。
「足元の荷物は?」
「よっちゃんの家に置かせてね」
その言葉で、何を買ったのかすぐに俺は分かった。
いつもはお金を持ち歩かない性格なのに一体どうしたんだろう?
「ちい…お金は?」
「キャッシュカード。学校の振り込みとかで使えるから、少しだけ都市銀行に移したんだ」
俺らのやり取りを見ていた佐山が呆れた顔をしているのが気になる。
「内、お前ちいちゃんに対して過保護すぎだろう?」
佐山が俺を窘める。言われる事は分かっているし、自覚もある。
「佐山君、いいの。よっちゃんは、私の信じられる唯一の人だから」
ちいは当然の様に、俺の事を信じられる人と言ってのける。
嬉しい様な悲しい様な複雑な気持ちだ。
「唯一のって?両親がいるでしょう?」
「両親は私…いないのよ。私の戸籍謄本には私しかいないの。亡くなったから」
「えっ?じゃあ…今は?」
「おば達と住んでるけど、互いに同居人程度しか認識していないの。あっ、でも一応保護者か」
「ちい…実質上の保護者は俺の家だろ?あの人たちが欲しいのは、お前の土地屋敷だろ?」
俺がそう言うと、ちいはうっすらを笑顔を見せる。皆に大したことないと思わせる為にそうしているんだろう。
「何があってもそれは手放さない。権利所は事務所に預けてあるから」
「事務所か。あそこなら一番安全かもしれないな」
「そのうち、本家に行かないといけないかも。おばちゃんに今夜相談しようかな」
「1年しないで、本家介入沙汰かよ?あいつらはアホなのか?馬鹿なのか?」
「よっちゃん、それは違う。あいつらはおめでたいだけよ」
ちいはあいつらとは本当は関わりたくないんだろうな。けれどもそうはいかない理由もあるし…。
「あっ、あのう、ちいちゃん?」
「何?」
「ちいちゃん、アルバイトしているだ」
「うん、学校に許可貰って、週末だけ弁護士事務所で資料の整理とかスクラップとかしているんだ。勉強になるよ」
「そういえば、両親がいないって言ってたけど、お金ってどうなってるの?」
「一応、親の遺産で暮らしているの。だからあんまり贅沢はしないようにしているんだ。けれども、勝手におば達に使われたから今、返済して貰っているから同居の解消をする訳にはいかないんだ」
あくまでも、事実を淡々と答えているが、やっぱりこいつの人生は波乱だらけだ。
「ちいちゃん、大学は国立?」
「私?大学には行かないよ。専門学校に行って、資格をたくさん取るんだ。学校の先生には言ってあるから」
皆はちいに何を聞いたらいいのか分からなくなっているのかもしれない。
俺自身もあいつが大学進学を断念したのはちょっと意外だった。
「ちいちゃんは何になりたいの?」
「私はね、自立したいんだ。だから、手に職をつけて、地に足を着けた地味な生活をしたいの。その為に、今は勉強できるだけして、専門学校で特待生制度がある学校に入れたらいいなぁ位かな。だから、苦手な科目ほどしっかりとやらないといけないの」
「ちいちゃんは、本当に真面目なんだね」
「だって、折角学ぶんだったら、ちゃんと理解したいと思わない?それとも私だけかな?」
「本当はそうなんだろうけど、そこを実行するのが大変だ思う」
「ところで、ちいちゃん、恋はしないの?」
佐山が聞いた途端に、ちいの顔が強張る。けれども、ゆっくりと俺を見た。
その表情は、大丈夫だから心配するなと言っているように思える。
「今は、勉強に集中したいからしたくないかな。それに毎日が私なりに楽しいから」
「楽しい?」
「うん。生徒会も、部活も、今こうやって皆と過ごしているのも。彼氏ができてそれが制限される位ならいらない」
「それは、なんとなく分かるな。今が純粋に楽しいんだよね。そんな風に見られたくないと」
「うん。恋はするものじゃないと思うから。私はまだその時じゃないだけ」
「ふうん。ちいちゃんはやっぱり面白いね。俺達もいい加減勉強しようぜ」
俺が皆を促して、勉強を始める支度をする。
電車の時間とバスの時間の都合でメンバーがどんどん減っていく。
最後には俺達二人がマックに残された。
「いいのか?あそこまで話して」
「誰かに聞けばすぐに分かることしか話していないわよ。肝心なことは話していいないもの」
「確かにな。お前らしいよ」
「上辺の私で判断されたくもないし、同情もされたくなかったんだ。気分が悪かったらごめんねって言っておいてね」
「あぁ、分かったよ。ちい、そのことは何も言わないくて言い。あいつはどうだ?」
よっちゃんが核心を聞いてくる。
「根拠のない与太話程度ならね。あっ、でもこないだは酷かったわ」
「何?言ってみな?」
彼女はあんまり言いたくないようだったけども、渋々と話し始めた。
「一つ目は告白されて断った人に対して散々弄んで捨てたらしいと広めてくれて、もう一つは定期テストの問題を事前に仕入れていいるらしいってさ…アホらしい」
「アホらしいじゃないだろ?それ?」
「そうなんだけども、挙句の果てにはクールアイスだって。なんだそりゃっての」
よっちゃんは首をかしげている。その気持ちは私だってそうだから良く分かる。
「いつも冷静で笑わないからだって。もう…好きにしてくれってカンジ」
「本当のお前は冷静だけども人情もちゃんとあるもんな。大人しいってのも俺からすればどうなんだか」
「まあ、そこのところは、置いておいて。あいつは何か仕掛けてくるかもしれない」
「そうだな。注意してもいいと思うぜ。広瀬先輩は?」
「知ってるよ。もちろん。今は、生徒会役員から守られているからこの程度なんだろうって」
「大変だな、お前も」
俺はそう言って、セットで頼んだコーラーを飲んだ。
「それはね、入学した時に腹を括っているから。今は好きにさせてあげるけれども、あいつが18歳になった時にどれだけの事をされたかによっては反撃するから」
「18歳か…そこまでやり続けるかね」
「分からない。けれども、優君にあの時の真実が漏れたら困るのは理絵だから。その事に関しては多分私が分かっていると思ってる。だから、もっとこれからやらかすと思う。けれども、私を本気で怒らせたら怖いって事を思い知らせてあげる。その為ならどんなに悪いことだって…」
「ストップ…。もう言うな。分かったから」
俺は子供に静かにするようにと、人差し指を自分の唇に重ねる。
こいつはどうして自分を犠牲にするんだろう。
「お前だって…お前も幸せになっていいんだぞ」
「分かってる。でも、それは今じゃないの。よっちゃん、大丈夫だから、それよりも物理聞いてもいいかな?」
ちいが物理の教科書を広げて俺に聞いてきた。
今の俺ではここまでしか教えて貰えないってことか。それはそれで悔しい。
それから俺達は親父が迎えに来るまで物理の勉強をするのだった。
白い雪が降っているはずなのに、俺には涙色の雪に見えてしまう。
彼女を救ってやりたい。けれども、俺では役不足なのは分かっている。
春になると、彼女の立場はまた変化するだろう。
そこからが彼女にとっての真の修羅場になるのかもしれない。
その時は、俺は俺なりに彼女を守ろう。俺の愛するはとこの為に。
すみません、今まで…一番長いです。申し訳ないです。
残りはS高組。最初は起点、次に同級生組から進んでいきます。
もうしばらくお待ちください




