番外 新しい風
生徒会役員の佐藤有也の紹介SSです。
直也と共に副会長を務めていますが、縁の下の力持ちな参謀タイプです。
初めて会うのは制服の採寸と保護者ガイダンス当日になります。
「悪い。俺が戻ってくる前に今日のガイダンスを聞いた中学生が来るからよろしく」
「よろしくって何がだよ」
「俺が来るまで、相手してやってて」
「千世先輩知ってんのかよ?」
「あぁ。当の本人の指示だからな」
「あー、はいはい」
俺は直也が慌ただしく生徒会室に入ってきて、棚から予備の乾電池を取り出した。
機材に何らかの不備があったのだろうか?
「俺はここでいいのか?」
「あぁ。お前はここで待機。何かあれば内線使うから」
「分かったよ。折角引いて貰ったんだものな」
「そうそう。使わないと損だものな」
「頼んだものは出来そうか?」
「いいのか?ばれると俺たちだって」
「大丈夫。後ろ盾はあるから」
「分かったよ。だったら作ってみるさ。盗聴器」
「任せたぜ」
直也は手をヒラヒラさせてから生徒会室を後にした。
「ふぅ。とりあえず出来上がりっと」
中学までは丘向こうの高専に進学するつもりだった。
受験当日までは確実には入れると思ったのに、あろうことか当日にインフルエンザで試験を受ける事が出来なかった。
その結果、俺は滑り止めとして先に受かっていたS高校に通う事が決まったのだ。
高校に入って、化学部に入って目立たずひっそり自分なりに学校生活を楽しむはずだった。
なのに…気が付けば、生徒会の副会長を務めている。
うちの高校は元々生徒会活動が活発じゃないから、生徒会長は選挙で決めるけれども、他の役員は会長のスカウトで決まる。
さっきまで俺とやりとりをしていた同い年の直也は俺と一緒に副会長を務めている。
しかも彼女は生徒会長の千世先輩だ。高校が開校してこの春で6年になる。
その初の女性会長はびっくりする位の手腕ぶりを発揮している。
今日の俺達は、新入生の制服採寸とガイダンスのお手伝いをしている。
そんな中、俺はなぜか盗聴器を作成している。
依頼先は副会長の直也からだ。俺達がそんなことをしているだなんて、誰も思いつかないだろう。
この事実を知っているのは、歴代の役員と生徒会顧問の藤田先生と組織の後ろ盾という人物だけだと言う。
切っ掛けは、俺達が入学する前に起こった生徒の自殺を真相を調べる為に、秘密裏に生徒会で調べた事が切っ掛けだと言う。
それ以来、先生の事で不都合が出たり、生徒の間で不都合な事が起こるとひっそりと真相を追求することになったという。
一部の生徒は学校の七不思議として、昇降口の前の桜の木のうろに困った事を書くと解決してくれると言うジンクスにまでなってしまった。
「今回の元々の依頼はなんだったかな?」
俺は盗聴器を作る切っ掛けを思い出した。
「そうそう、先生に迫られていて困っているって言ってたな」
とりあえず、俺たちなりに調べたのは、その話は限りなく事実であるということ。
かなりその教師がエグイことをネタにしてやりたい放題にしているらしい。
「後は、この盗聴器がちゃんと音が取れるのか確かめないとな。それとどこに設置するかが問題だな」
俺は校内の地図を開く。問題の教師が良く使用している部屋は…生徒会室の向かいの生活指導室。
この部屋だけが完全防音なのを悪用しているようだ。腹立たしくて思わず歯ぎしりをしてしまう。
「ここのソファーに仕掛けてみようかな。試しに」
俺はそう呟くと、丁度一人分残っているコーヒーを飲み干すことにした。
時計は午後2時半を示している。ガイダンスが終わるのは午後3時だったはずだ。
「皆が戻ってくるまでにコーヒーを沸かせばいいのかな」
俺はいそいそとコーヒーメーカーに皆で飲む為のコーヒーをセットする。
10分前にスイッチをいれればいいだけだ。電気ポットに水を入れて沸かすことにした。
そんな状況の生徒会室を無人にする訳にはいかないので、俺は課題のレポートを終わらせることにした。
確かに今日の場に俺は生徒会室に待機が向いている。
弁が立つ会長や直也と違い、俺は口下手なのだ。
今でも、どうして俺がここにいるのか分からない。
けれども、直也があの時、俺に手を差し出してくれた。
「おもしれぇこと、一緒にやろうぜ。後悔はさせないからさ」
確かにあの時の直也の言うとおり、つまらないと思っていた生徒会生活は思った割に楽しい。
噂に聞いた組織が生徒会で活動しているなんて全く知らなかったが、組織が出来た経緯を聞いて俺は納得した。
レポートは順調に進んでいる。この調子だと明日には提出できるのだが…直也のことだからレポートはやっていないだろう。
コピーして手元に残して、明日から直也の尻を叩いて提出日には出させるようにしないとな。
あいつはああ見えて、複数の事をこなすことができない。特に勉強に大したは。
それでも、強引にみえて計算つくされている行動には感心させられる。
来年の秋には会長になるだろう。俺はそんな直也をサポートすればいいだけだ。
そんな時、生徒会室のドアをノックする音がする。
「はーい。どうぞ」
俺はドアを叩いた主に呼びかけたが。ドアは一向に開かない。
仕方ないので俺はドアを開ける為にドアに向かう。
ドアを開けるとそこには校則通りに制服を着ている中学生が立っていた。
「どうかしましたか?」
「あの…広瀬先輩いらっしゃいますか?終わったら生徒会室に来るようにと言われたのですが」
その時俺はその少女が直也が言っていた少女だと気がついた。
「直也は終わったら来るから、中で待っていたらどう?生徒会室は北棟だから寒いからね」
俺は直也に言われた通りに彼女を生徒会室に入れた。
「ちょっと散らかっているけど、空いている所に座って貰っていいかな」
「お言葉に甘えまして…お邪魔します」
彼女をゆっくりと見る。会長と同じ位な身長なのだろう。
大きめの椅子にちんまりと座っている姿は可愛らしい。
俺は引き出しを開けて、こないだ自分用に買っておいたお菓子を取り出す。
「良かったら…食べない?俺、こんなには食べれないから」
「お気持ちだけで結構です。ありがとうございます。少し勉強させて貰ってもいいですか?」
「どうぞ。遅くても3時過ぎには来るだろうから。分からない所は俺で分かれば見てあげるよ」
社交辞令的に俺は対応する。
「ありがとうございます。多分…大丈夫です」
彼女は微笑んでから、ノートに書き込んである問題を解き始める。
「学校の宿題かい?」
「いいえ。月末の実力テストです」
「あんまり勉強しすぎて上のクラスに入ってしまって付いていけなくなる可能性もあるから」
「貴重なアドバイスありがとうございます。一応、数学は基礎解析、代数幾何分野までは公文式ですけどマスターしましたから」
「計算系統の基本はあるってことだね。実力テストの過去問は持っているかい?」
「えぇ、広瀬先輩に分野だけは教えて貰いました」
「直也らしいな。可愛い新入生にサービスね。他言無用だよ」
俺はそう言うと、生徒会室の棚から新入生用の実力テストの過去問を手渡した。
「いいんですか?私が見ても」
「大丈夫。まるっきりおんなじ問題はでないから。解き方は同じだったりするんだけどね」
ぱらぱらと彼女は過去問を捲って見つめている。
「本当ですね。公文で学習していない分野はどうしても手薄になっちゃうんでこれから勉強する範囲が分かりました」
「いらないの?」
「えぇ。私…理系志望ではないんです。まるっきり出来ないよりは入試レベルの維持が目標ですね」
彼女はそう言うと、ノートに何かを書きこんでから過去問を俺に感謝の言葉を添えて返してくれた。
「君は…謙虚だね。うちの学校では珍しいタイプだよ」
「そうなんですか。そう言われたら…そうかもしれませんね。私がここを選んだ理由はあまり人に言えませんから」
「学費が安いからって人も結構いるよ。俺もそんな一人だな」
「それもありますが、プール…ありませんよね?だから決めました」
プール…確かに俺の学校にはプールがないから体育には水泳はない。
この子は泳げないのだろうか?彼女を見ると、どうも冗談ではないらしい。
「もしかして…君は泳げないの?」
「えっと…私の場合は…もう泳がないが正解なのかもしれません」
「それって…何の事?」
彼女は少し悲しみの表情を浮かべている。なぜそんな表情をするのか分からない。
「悪い、遅くなった。おっ、ちい。ちゃんと分かったか?」
「はい、広瀬先輩。お邪魔しちゃいました。資料貰ってもいいですか?」
「あぁ。本当におばさん…来なかったぜ。もし困ったら俺の親に頼れよ。話はつけておくから」
直也はそう言うと、彼女に保護者用に資料を手渡した。
「ありがとうございます。すみません。わがまま言って」
「気にするな。安心しろ。お前が入学したら、ここがお前の居場所にしてやるからな」
「先輩…私」
「お前の処理能力と仲裁のスキルがどうしても生徒会として欲しいんだ。いいな」
「先輩は言い出したら止まりませんからね。分かりました。お世話されちゃいますね」
そう言うと、彼女ははにかんで微笑む。その表情を見て俺はドキリとした。
「そう言えば、直也。この子は誰なんだ?新入生だと言うのは分かるが」
「おぉ。悪かった。えっと、この子は俺の中学の後輩で佐倉倫子。ちびっこだから俺はちいと呼んでる」
「ちびっこ言うな。今年だって3センチ伸びたのに」
「はいはい、ちゃんとカルシウム取ろうな?」
直也は大きな手で彼女の頭をぐりぐりと撫でる。あっという間に髪の毛がぐちゃぐちゃになる。
「…なお君…それ止めてっていつも言ってるのに…」
「なお君?」
「俺はこいつの隣の家の奴と仲が良くて、ガキの頃一緒に遊んでその頃からそう呼ばせてるから。なんだ?おかしいか?」
「なお君って呼び名じゃねぇよな。」
「五月蠅い。有也。こいつは俺と同じで副会長の佐藤有也な」
「佐藤です。よろしくね。ちいちゃん」
「先輩、いきなり押し掛けたのに凄く良くしてくれたんだよ。いい先輩だね」
「聞いたか?有也?」
「本当に助かりました。佐藤先輩。ありがとうございました」
彼女はお行儀のよいお辞儀をして感謝を俺に述べた。
「ところで、プールがないからうちの学校を選んだんだって?」
「やっぱり…そこか」
「うん。伸びしろまで使いきっちゃったし、体調崩したし。それに後悔してないよ」
「完全に普通の子になりたいのなら、うちは最強だな」
「でしょ?普通の女子高生になるのが夢だもの。うふふ…」
俺は二人が言っている意味が分からなくて呆けてしまった。
「こいつ、中学2年までは競泳やっていたんだよ。県大会にも出たよな?」
「たまたまです。私はトップレベルじゃないもの。あそこが限界ですから」
「そう言う事にしておいてやるよ。過去の栄光にしがみつくの嫌いだものな」
「はい。私はこれから先の物がみたいんです。私…そろそろ帰ります」
「そうか?俺も帰るから一緒に帰るか?」
「いいけど…千世さんは?」
「今日はちいに貸してあげるって。ほらっ、帰るぞ。有也は?」
「そうだな。頼まれたものは出来たぞ。今度お試ししてみような」
「やっぱり、お前の頭脳も十分助かっているんだぜ。帰ろうぜ」
俺達は戸締りをして生徒会室を後にした。
「それじゃあ、明日な」
「あぁ。直也。お前レポート始めろよ」
「分かってるって」
俺達は正門の所で別れる。俺は自転車通学だけども、直也達はバスで駅まで行くらしい。
役員の仕事をして、人見知りは大分減ったと思う。
けど、ここまで初対面で話をした人は初めてだ。
「佐倉倫子か…偶然なのか?それとも必然なのか?俺達の組織…cherryにとっては」
ただ一つだけ言える事は、4月に入ってくる少女が新しい風を送りこむ存在になる事だ。
「もっと面白い学校生活になりそうだな」
俺はそう呟いてから、自転車をこぎ始めるのだった。
ただ、その風が花を散らす強風である事を知るのはもっと後の話。
cherryは本編ではちらりほらりと出てきますが、そんなものがある程度の認識でいいです。
今すぐには絡んできません。
彼らの後ろ盾は…理事長(太一の父)だったりします。




